イヨマンテの夜(前編)
目が覚めると、俺はベッドに寝かされていた。
ここは…イヨマンテのとこのラブホテルだよな…?
…え~っと…何があったんだっけ…?
確か…温泉に浸かっていたらイヨマンテが入ってきて…。
…ああ、そうだ。
「背中を流してあげるからコッチにいらっしゃい」とか言って迫ってくるマンテから必死で逃げ回っていたら、酔いが回ってぶっ倒れちまったんだな。
…。
…何も無かった…よね?
…尻は…うん、特別痛くは無いな…。
「…おや、お目覚めでしたかサイゴーさま。…何をなさっているのですか?」
俺が自分の尻を姿見鏡で確認している所に、ベータが入ってきた。
…タイミングが悪いっつーの!
せめてノックをしてくれ!
ベータから話を聞くとあの後、俺、オッサン、そして何故かチョウチョの三人がぶっ倒れてしまったそうで、ベータとイヨマンテの二人で担いで運んでくれたらしい。
ただでさえ怪物も出る道程を三人も運びながら帰るなんて大丈夫だったのか?と聞いたら、「サイゴーさまとモリモトさまを担いだイヨマンテさまが、ほぼ一撃で蹴り殺していましたよ」だって。
…マジで規格外だなアイツ。
…実はゲリラゴリラの上位個体でしたって言われても納得してしまいそうだ。
…しかし、えらい迷惑をかけてしまった…。
身の危険を感じて逃げ回ってしまったけど、今思えば本当に善意で背中を流してくれようとしてただけだったのかもな。
…前にオッサンに何かされて、えらく恥ずかしがってたみたいだし…意外とシャイみたいだし。
困ってる人々に手を差し伸べて、住む所も与えて、料理も上手くて色々と便利な物も開発してたり…。
なんつーか…見た目以外は聖人のような奴だ…。
見た目は異星人みたいだけど。
「…あら、サイゴーちゃん。もう起きて平気なのかしら?」
そんな事を考えていると、その本人が部屋に入ってきた。
…だからノックをしろと。
…ベータと順番が逆だったら、えらい失礼な事になってたぞ…。
「…すまん、なんか色々と迷惑をかけたみたいだな。」
「別にいいわよ、あれ位。」
そう言って、俺の寝ているベッドに腰をおろす。
…猛烈にベッドが沈み込んだけど、壊れないだろうな?
…まぁお前のウチの物だけど。
「…しかし、突然押しかけた上に世話になりっぱなしだろ?俺で何か出来る事は無いか?」
「う~ん…そうねぇ…。」
顎に手を当てて、少し考えるイヨマンテ。
「…そういえば、温泉に転がってた瓶って、アレお酒かしら?良かったらなんだけど、少し味見させてもらえない?」
「ああ、まだ何本か持ってるから、良ければ譲るけど?」
「ありがたいんだけど、実はお酒も自作してみようかと思っててね。その為の参考にしたいのよ。」
酒造法…は無いんだろうし良いのか。
本当に何でも作るよな、お前。
「…それじゃあ、軽く飲むか。ベータ、悪いんだが持ってきてもらえるか?」
「かしこまりました。」
「あらあら…。倒れたばっかりなんだから、無理しちゃ駄目よ?」
「分かってる。でも、実はちょっと飲み足りなかったんだ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ベータがポンシュを持って戻ってくると、俺達は屋上へと移動した。
金持ちの庭にあるような金属製のテーブルセットが幾つかあったので、椅子の一つに腰をかける。
ベータは座った俺の隣に、並ぶように立っている。
…イヨマンテは、テーブルに座った。
テーブルに。
「折角だから、軽くつまめる物も用意したわ。」
「準備が良いな。それじゃ、早速どうぞ。」
用意されたグラスにポンシュを注ぐと、イヨマンテが摘むように手に取る。
…お前が持つとグラスめっちゃ小さく見えるな。
養○酒か。
「…ふ~ん、なるほどねぇ。少し辛口だけれど、炭酸のおかげか飲みやすいわねぇ。個人的にはもっと甘いお酒が好みなんだけど、これなら美味しく飲めるわ。」
「…なぁ、イヨマンテ。少し変な事聞いてもいいか?」
「…あらぁ、何かしら?…ちなみに好きな男性のタイプは…。」
「それはもう聞いたし聞いてないから。」
俺のツッコミに、フフフと微かな笑いで答えてグラスを置く。
「…イヨマンテは…ここに来る前って何をしてたんだ?確か自分の事を『研究者でもある』って言ってたよな?」
「女に過去のことを尋ねるなんて、無粋じゃないかしら?」
「…それもツッコんだ方が良いのか…?」
「…別に、それに答えることはできるけど。だったらワタシからも聞いても良いのかしら?」
「…俺の答えられる事ならな。」
イヨマンテがいつもの微笑を浮かべた顔では無く、射抜くような鋭い目で俺を見つめる。
…やがて、諦めたように一つため息をつくと、ぽつりぽつりと語り始めた。
「…そうね。こんな山奥じゃあ外の話題も入ってこないし、ここらで情報交換といきましょうか。…サイゴーちゃんは、ワタシって何者だと思う?」
いきなり核心か。
多少オブラートに包んで聞こうと思ってたが、それならそれで構わない。
…それに、これには心当たりがあるし。
「…『貴族』…いや、『元・貴族』ってトコか?」
「…驚いた。まさか本当にバレていたとはね。」
千里眼を使った時、イヨマンテには「苗字」があった。
直前に森本のオッサンと出会ったせいでスルーしそうになったが、ヤスデじいちゃん曰く、こっちの世界で苗字持ちは『悪党』か『貴族』位だって話だった。
「…サイゴーちゃんが貴族について、どれ位知っているか分からないから説明するとね。貴族ってのは、特別な力や秀でた才能を持った者の集団なのよ。」
「…それって…。」
「キマイラによる遺伝子異常で、強靭な肉体や高いIQを得た者。そして、特別な力…PSIを発現した者。そう、サイゴーちゃんみたいにね。」
…ばれてーら。
まぁ、俺の場合はキマイラじゃなくって神様からの貰い物なんだけど。
「…なんで俺がPSI能力者だって言い切れるんだ?」
「…まぁ確かに、モリモトちゃんみたいに見た目は普通なのに、異常な筋力や回復能力を有してるタイプもいるのだけれどね。…『目』よ。絶対の『切り札』を持っているって目。貴族街にいたPSI能力者達が、正にそんな目をしていたわ。」
…駄目だこりゃ、隠しきれねぇな。
そもそも俺に読み合いなんてできると思ってないし、する気も無いけど。
「…お察しの通り、俺はPSI能力者だよ。…わざわざ話題に出すって事は、何か問題あるのか?」
「う~ん…能力の性質にもよるんで、一概には問題とは言えないんだけど。貴族は力や才能を持った集団だって言ったでしょう?だから、有益な能力者を見つけると囲い込もうとするのよねぇ。」
「囲い込む?」
「要は自分達の一族に取り込もうとするのよ。キマイラによる遺伝子異常って、より強力になって子供に受け継がれる傾向があるのよ?」
つまりアレか。
自分達の地盤をより強固な物にする為に、外から強力な力を持つ者を迎え入れて、強い子供を作る…。
「ウチの一族はキマイラの影響で高いIQを有していたんだけど、ワタシは他の貴族連中が、普通の人々を奴隷か何かみたいに扱うのがずぅっ~と気に入らなくってね。両親が事故で亡くなったのを機会に貴族街から飛び出してきたのよ。」
「…本当にIQだけか?」
「この肉体は研究の成果と、後天的なトレーニングの賜物よ。…元々のワタシってば、病弱でカワイイ男の子だったんだから。」
イヨマンテが何処からか取り出した写真を手渡してくる。
…この白衣を着た男女に挟まれているのが、まさかイヨマンテ?
…中性的な顔立ちをした、線の細い美少年だ…。
ジャ○ーズ顔負けだぞ。
…なんつーか…お前の研究、ある意味失敗してないか?
「…あ、あんまりジックリ見ないでよ!恥ずかしいじゃない!」
そう言って慌てた様子で俺から写真を奪い取ると、それをブーメランパンツの中に仕舞い込んだ。
…オイッ!?何処に仕舞ってんだっ!!
って言うかソコから出したのかっ!?
俺、素手で触っちゃったよ…。
『肌身離さず』ってレベルじゃねーぞ…。




