表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/87

「私が村長です」

 オッサンのナビゲーションに従ってゴリアテを走らせること数十分。

 何やら長~い壁のようなものが見えてくると、減速するようにオッサンが言った。

 どうやらアレが目的地のようだ。


 ノロノロと壁へ近づいていくと、だんだんとその正体が分かってきた。


 横向きに走る数本の白いライン。

 壁面から等間隔に突き出た、ひしゃげた照明灯。


 …壁じゃ無い。

 コレ、横倒しになった高速道路だ。


 こっちの世界に来てから、おそらく最大(最長?)の建造物だろう。

 チョウチョなんか目を丸くして「ほっへぇ…。」とか呟いてるし。


 目視できる範囲では、高速道路の壁は延々と横倒しのまま続いている。

 …何があったらこんなモンが倒れるんだ…。 

 俺じゃあ想像もつかないな。


 少しするとゴリアテの進行方向に、壁に張り付くような何かが見えてきた。

 あれが件の集落らしい。


 近づいてよく見れば、スクラップになった車や瓦礫が積み上げられ、壁を背にした半円状に、3m程の高さで囲っているようだ。


 …一応、防壁のつもりなんだろうが…。

 ガイガータイガー辺りなら簡単に飛び越えて侵入できそうなんだよなぁ…。


 ちょっとした公園ほどの、村と呼ぶにはずいぶんと小さな集落。

 その唯一の出入り口と思われる箇所は、お世辞にも頑丈とは呼べない杭と鉄条網で塞がれていた。


「ここがオッサンの仕事場か?」


「ああ…名前も無い集落だ。今開けさせるから、少し待っててくれ。」


 そう言うとオッサンは、入り口に向かって右手を挙げる。

 すると、どこかに隠れてこちらを伺っていたのか、数人の男女が姿を現し、内側から鉄条網を解き始めた。


 …門とか扉とかは無いのか…。

 こりゃあ出入りするだけで一苦労だな…。

 …逆に言えば、これくらい警戒しないと生きられない場所ってことなのか…。


 鉄条網に人一人が屈んで通り抜けられるほどのスペースができると、オッサンは中へと入っていく。

 俺たちも後に続いて潜り抜けようとすると、先程鉄条網を解いてくれた男女が目に見えて怯えだした。


「も…モリモト!誰だコイツ等は!?」


「心配すんな、多分危険は無い。トラの群れに襲われていた所を助っ人してもらったんだ。」


「トラの群れに…!?そっ、それじゃあモリモト、食糧は…。」


「…すまん。荷車をやられちまった。」


「…そんな…。」


 食料の事が相当にショックだったのか、顔面蒼白で今にもその場でぶっ倒れそうになる一同。

 幾人かはうずくまって泣き始めてしまった。


 …こんな魔境の只中にある集落じゃ、まともに飯が食えてないんだろう。

 皆一様に血色が悪いし、痩せこけてるし…。 

 千里眼で確認してみれば、誰彼もが(状態:飢餓(軽度〜重度))のバッドステータスが付いていた。


 どう声をかけていいかと迷っていると、ふと視線を感じた。


 …無言でチョウチョが俺を見つめている。

 …こっちも潤沢というワケではないけど、こりゃあ仕方が無いか…。


「…あ~、食糧ならいくらか融通するぞ。…まぁ、俺達の備蓄分だから量はあまり多く無いけど。」


「ほっ…本当か!?」


「ベータ、頼んでいいか?」


「かしこまりましたサイゴーさま。」


「あ、チョウチョもベータを手伝ってやってくれ。…こうなりゃいっそ炊き出しでもするか?」


「それだったら、入り口の近くにゴリアテちゃん寄せちゃいますね。」


 ベータとチョウチョがゴリアテに乗り込むと、住人たちに手伝ってもらい入り口の鉄条網を完全に取り払う。

 どうせ俺達が滞在中はゴリアテで塞がれていて誰も入れないだろうし、荷物を運びいれるのに邪魔だ。


 荷物をおろし、ゴリアテに「怪物や怪しい奴が来たら適当に追い払っておいてくれ」と告げると、了解とばかりにウインカーをチカチカと点滅させて応えた。

 俺達は等間隔に並んだ杭を避けながら、集落の内部へと歩みを進めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 集落の中心部、ちょっとした広場のようなっている場所に荷物を運び、ベータが主体となって調理が進んでいく。


 どれくらいの量を用意すれば良いのかと集落の人口を訪ねると、今住んでいるのは十数名程とのこと。

 …それくらいならなんとかなるか?最悪次の町までは食えそうな怪物狩りでもしながら行けばいいか…。

 あの虎なんか、結構食いでがありそうだったし。

 放射能汚染されてるみたいだけど。


 辺りに味噌の良い香りが広がり始める。

 どうやら豚汁的な物とおにぎりを作っているらしい。

 …ベータの奴、味噌使い切ってないだろうな…。

 …やっと入手した味噌なんだから、ちゃんと残しておいてくれよ?


 と、あちらこちらからフラフラと人が集まり始めた。

 俺達と一緒についてきた男が炊き出しのことを告げると、集まった人々は何故か大慌てで散開していく。


 不思議に思っていると、オッサンが俺の疑問に答えた。

 家に食器をとりに行ったらしい。

 …あぁ、失念していた。

 確かにこの人数分の食器はゴリアテにも積んでいなかった。


 しばらくすると茶碗やら皿を持った人達が広場に集まってきた。


 …おいっ!

 なんか鍋を抱えて来た奴がいるぞ!?

 流石に欲張りすぎだろう!

 しかも欠食気味な住人が大半を占める中で、そこそこなメタボ体型してやがる!


 その鍋メタボは、満面の笑みを浮かべながら何故か俺に近付いて来た。


「いやぁ〜、本当に助かりました。貴重な食糧を分けていただいて、感謝の言葉しかありません。私はこの集落でまとめ役をしております、イソベと申します。」


【イソベ】

人間 45歳

生命力/7

力/  8

体力/11

知力/14

敏捷/ 3

運/  4


(状態:空腹(軽度))

(遺伝子異常有り)


 村長でした。


 ペコペコと頭を下げて礼を述べる村長だが、食糧難のなかで村長だけが(状態:飢餓)じゃなくて(状態:空腹)、しかも(軽度)って…。

 …もしかしてコイツ、結構ろくでもないヤツなんじゃないか?


「サイゴーさま、炊き出しの準備が完了しました。」


 花柄のエプロンを畳みながら歩いてきたベータが俺に告げる。


「ご苦労さん。配膳とか手伝うぞ?」


「いえ、それには及びません。チョウチョさまとサイゴーさまは、ご一緒にお食事にされてはいかがですか?モリモトさまも何かお話があるご様子でしたので。」


 ベータがそう言うので、俺達は食事がてらオッサンの話を聞くことになった。


 広場の端に置かれた朽ちた木箱とオイル缶をテーブルとイス代わりにし、野外での食事となった。

 実にアウトドアな食事だ。

 …まぁ普段から外で食うことが多いけどな、俺達。


 俺の隣にチョウチョ、対面にはオッサンと何故か鍋…イソベ村長が座った。


「…味噌。…味噌か…。何年ぶりだろう…。」


 オッサンが感慨深気に豚汁もどきを啜る。


「やっぱ日本人なら味噌と醤油だよな。色々あって最近やっと納得いく物が手に入ったんだ。」


「…長生きも、してみるもんだな…。」 


「量はそこそこ用意してありますから、ゆっくり食べてください。」


「…それよりオッサンは俺に何を手伝わせたいんだ?」


 俺の質問に、オッサンの隣に座っていた村長が口を挟んだ。


「…モリモトさん、もしや彼等に助力を頼む気ですか?」


「…そのつもりだ。」


「…こう言っては何ですが、大丈夫なんでしょうか?相手が相手だけに…。」


「?」


 なんの話だ?

 つーか人が提供したメシ食っておいてなんか偉そうだな村長、鍋取り上げるぞ?


「いや、彼らは強い。それに一度出向いてみて分かったんだが、俺では相性が悪くてな。」


「おいオッサン、いい加減分かるように説明してくれ。」


「ああ、悪かったな。実はな…。」


 この後、オッサンの話にいちいち口を挟んでくる村長がえらくウザかった。

 …話をかいつまんで説明すると。

 

 どうもこの集落の近くを根城にする二つの勢力があり、そいつらが集落の人間を攫っていくらしい。

 …それも何故か子供や老人、病気や怪我をした人間ばかりを。


「…つまり、俺達はそいつらと話をつけるなりして、攫われた人たちを奪還してくればいいのか?」


 俺の言葉に村長が首を振る。


「…いいえ、攫われた者たちについては、もう諦めています。今後この集落に手を出さないよう、話をつけてきて欲しいのです。」


 …やっぱこの村長、クズいな。

 自分の身の安全しか考えていないようだ。

 …いや、攫われた人たちを連れ戻しても、面倒見切れないってのが本音か?


「…そんな話を聞く連中なのか?」


「…俺が一度出向いた時は、駄目だったな。問答無用で攻撃された。」


「…じゃあこのお話って、実質は討伐依頼なんでしょうか?」


 チョウチョの言葉に、オッサンが少し間をおいて答える。


「…もう一度だけ、交渉したい。それで駄目だったら…実力行使しかないかもな。」


「…どうもオッサンが乗り気じゃないように見えるんだが、何かあるのか?こう言っちゃあ何だけど、オッサンかなり強いだろうに?」


「…正直に言うとな、俺は未だに人を殺すことに忌避感がある。そりゃあ仕方が無く手を汚した事もあるが、性分なのか何年生きても駄目なんだよ。…それに、さっきも言ったが相性が最悪でな。正直やり辛くてしょうがない相手なんだ。」


 …う〜ん…。

 正直、相性がどうのってのは良く分からないんだけど。

 

 こっちの世界に来てから、俺も人の命を奪うの事にそりゃあ躊躇はあった。

 …でも、わりとすぐに吹っ切れてしまった。

 悪人相手だったのもあるし、そうも言ってられない状況だったってのもあるけど。


 思うに、得物の違いも大きいんだと思う。

 俺の武器はスリングショットや銃、そして必殺のサイコキネシス。

 攻撃手段が遠距離に偏ったことで、忌避感をあまり感じなかった。

 …いや、無意識の所で直接手を汚すのを嫌がっていたのかもしれない。


 一方オッサンの得物は刀のアブさん。

 バリバリの近接武器だ。

 そりゃあ嫌にもなるか…。


「…わかった。俺達の仕事は交渉と護衛。…実力行使は最悪の場合って事でいいんだな?」


「…それでいい。…すまんな。」


 少し安堵したような顔のオッサンとは対照的に、村長は眉間に皺を寄せて困惑の表情だ。


「…あの〜、できるだけ穏便にお願いしますね?…仕返しに来られても困りますので…。」


「…むしろ殲滅しちゃった方が、後々面倒が無くって良いと思いますけどねぇ…。」


 …チョウチョさんはまた物騒な事言ってますし…。

 …まぁお前はそう言うよな、仕方ないとは思う。


 とりあえず今夜は集落で一泊(とは言っても寝る場所はいつもと同じゴリアテの中なのだが)し、交渉に出向くのは明日の朝という事になった。

 サイコキネシスの制限解除の為とはいえ…とんだ寄り道になったもんだなぁ…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ