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ラクエン防衛隊本部

 俺達が報告に訪れたのは、町の入口から入ってすぐの建物。

 アシュラの話だと、ここがラクエンの町の防衛隊本部らしい。

 建物の入口からは例の緑色のツナギを着た人が慌ただしく出入りしている。

 俺は、今まさに建物の中に入ろうとしている、ツナギを着た一本角の男を呼び止めた。


【キンナラ】

人間 20歳

生命力/13

力/11

体力/13

知力/14

敏捷/16

運/4


(遺伝子異常有り)


「…そこの人!スマンが、アシュラに報告があって来たんだ。取り次いでもらえるか?」


「隊長に?…ああ、あんたら昨日の。…分かった、ちょっとついて来てくれ。」


 そう言って建物に入って行くツノ男。

 俺達は後に続いて扉をくぐった。


 扉の先は受付カウンターとテーブルが一つのシンプルな部屋だった。

 こちらに気付いた受付の女性が、俺に話しかけて来る。


【カルラ】

人間 18歳

生命力/11

力/7

体力/10

知力/15

敏捷/13

運/7


(遺伝子異常有り)


「ラクエン防衛本部へようこそ。ご用件は?」


「ああ、この人達は隊長の客だ。ちょっと呼んで来るから、そこで待っていてもらってくれ。」


 そう言うとツノ…キンナラは奥へと行ってしまった。

 俺達は受付横のテーブルを勧められ、椅子に座った。


「あ、貴方達って昨日の騒ぎの?」


「…その節はお騒がせしまして、申し訳ない。」


「…ホイールイーターの件はわざとじゃ無いんですよ!?上手く振り切れないまま町に着いちゃっただけなんですよぅ…。」


 …どうやらチョウチョも責任を感じている様だ。

 言っている内容は、言い訳にしか聞こえんが。


「元々ここらはホイールイーターの生息地ですから、町でも対策はしてたので大丈夫ですよ。…むしろ、無事に町まで着けて良かったです。申し遅れました、私はカルラと申します。…さっきの男性は名乗りましたか?彼はキンナラさんです。」


 受付嬢のカルラが名乗ったので、こちらもお決まりになりつつある自己紹介をした。

 カルラの出してくれた茶を飲みつつ、ちょっとした雑談をした。

 …話題は、ホイールイーターの生態について。


「…うぇ?じゃあ少しでも停車してたら、俺達のバスのタイヤもホイールイーターの餌になってたの?」


「ええ、ホイールイーターの主食はアルミや鉄といった金属ですから。中でもその名前があらわす通り車のホイールが好物で、産卵時期になるとタイヤを見つけて卵を産みつけるんです。…久々に車に乗ろうとしたら、タイヤが全部ホイールイーター化していたなんて事が結構あるんですよ。」


 …アイツ等、卵産むのか。

 元が人だったとは思えんなぁ…。


 そうこうしていると奥の扉が開き、アシュラとキンナラが入って来た。

 アシュラはこちらに手を振ると、チョウチョの対面の席に座った。


「待たせたなサイゴー、チョウチョ、それにベータ。探索初日から報告ご苦労だ!…まぁ頼んでおいて何だが、俺も初日から何か見つかるとは思っちゃいねぇ。だからまぁ、気ぃ楽にして報告してくれ!」


 …俺達は顔を見合わせた。

 そりゃあそうだ。

 普通は10年かけて進展の無かった事が、たった一日でどうこうなるとは思わないよなぁ。

 …このまま報告してしまって良い物だろうか?

 …どうしよう、なんか自分の首を絞めることになる気がする…。


「?どうしたサイゴー?…もしプレッシャーに感じてるなら大丈夫だぞ?俺も気長に待ってるからよ。」


 俺が言おうか迷っているのを勘違いしたアシュラが、優しい言葉をかけてくれた。

 …表情は笑顔だが、どこか寂しげな雰囲気を感じた。


 …何を迷ってんだ俺は?

 アシュラは10年もの間、妹と離れ離れだったんだ。

 ありのままの事実を話そう、…それで良い。


「…あ〜、じゃあ報告な。妹さん見つかったわ。スクラップ山の地下にある施設で生きてるみたいなんだが、まだ場所が特定できてないんだ。だから本格的な探索は明日以降に…。」


「ちょっと待て。」


 俺の話に割り込む様にアシュラが手をかざした。

 

「…いや、俺が期待をかけすぎたのも悪かった。変にプレッシャーに感じていたのなら謝る。…だが俺に変に気をつかって、そんな作り話をでっちあげんでもだな…。」


 そう言うアシュラの顔には、先程とは違い失望と微かな怒りの表情が浮かんでいた。

 …それは両隣に立って聞いていたキンナラやカルラも同じだった。


「…サイゴーさま、やはりある程度はこちらの情報を開示しなければ、信用していただけないかと。」


 ベータにそう言われて、俺は諦めたように頷いた。


「…アシュラ、悪いんだが人払いをしてもらえるか?もしくはどこか個室に移動したいんだが…。」


 俺の言葉に一瞬怪訝な表情を浮かべたアシュラだったが、一つため息を吐くと立ち上がる。


「…頼んだのは俺の方だからな。付いて来い。」


 俺達はアシュラに付き従い、先程アシュラ達が入って来た扉の奥へと進んで行く。

 少し歩くと、アシュラが行き止まりにある小部屋へと入った。


「俺の仕事部屋だ。まぁ入れ。」


 中に入ると、小部屋の中には応接セットと大きな机が一つ。

 その机の上には、書類の束らしき物が山になっている。


「…あまり客を通さんからな、散らかってるのは許せ。」


 ソファーに座ったアシュラがそう言いながら、仕草で着席を促す。

 それに従い、俺達もソファーに腰を下ろした。

 

 …何とも言えない、重い空気が辺りをつつんでいる。


「…それで?さっきのは一体、何の冗談なんだ?」


 アシュラが口を開くと、チョウチョが答える。


「…アシュラちゃん、怒るのも分かるけど落ち着いて。ちゃんと説明しますから。…ノブさん。」


「…そうだな。じゃあまずは…。」


 俺は久々にクレヤボヤンスの『透視』を使って、部屋を見回す。


「…アシュラ、机の一番下の引き出しに、クマのぬいぐるみ入れてるな?…意外と少女趣味なんだな。」


「な…!!」


「それと…ドアの向こうにキンナラが立ってるぞ?俺は人払いを頼んだハズだが…?」


 驚いた表情で固まっていたアシュラが、立ち上がるとともにダッシュで扉を開く。

 

「…あ…これは、その…。」


 突然の事態に反応出来なかったキンナラが、開いた扉の前で硬直していた。


「…キンナラ、俺に恥をかかせたいのか?」


「!し、失礼しました!!」


 キンナラが走ってその場から立ち去ると、アシュラはため息をついて扉を閉めた。

 …そしてこちらを見ると、何か言いたげにしている。


「…?まだ説明が必要か?…じゃあ駄目押しだ。」


 俺は机に手をかざす。

 …実際には手をかざす必要は無いが、まあ視覚的な演出だ。


 すると机の上に積み上げられた書類の束から、一枚がソファーテーブルの上に舞い降りる。

 …それを皮切りに、書類が次々と俺の前に飛んできては重なり、いつしか机の上にあった書類束はゴッソリとソファーテーブルの上に移動していた。


 …それを扉の前で、信じられないものでも見る様な顔で見つめていたアシュラに、ベータが話す。


「ご覧頂いてご理解いただけたかと思いますが、サイゴーさまは幾つかのESP能力を有しております。今回の報告はサイゴーさまのお力をもって判明した事実であり、決して虚偽の報告ではございません。」


「…え…、だって…それじゃあ…。」


 ベータの言葉に狼狽するアシュラに、チョウチョが優しく話しかける。


「…そうだよ、アシュラちゃん。妹さん、生きてるんだよ。特に目立った怪我も無く、割と元気そうらしいよ?…本当に、本当に良かったね。」


「あ…、うっ…ウグッ…、ラ…ラクシュミ…生きて…。」


 その場に崩れ、堰を切ったように泣き出すアシュラ。

 チョウチョが駆け寄り、アシュラを優しく抱きしめる。

 …その薄い胸で。


 …それにしても、アシュラの妹の名前がラクシュミって…腕の数しか合ってねぇよ。

 …まぁ、200年も昔の宗教だしな。

 長い時間の間に、混ざりあったり混同されたりしてんのかな?


 …まぁ、どうでもいいか。

 そんな事より、今の問題は。


 …アシュラが泣き止んで、報告が終わらないと飯に行けないって事だなぁ…。

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