ロストワールド
個人的脳内BGMは『お尋ね者との戦い』でお送りします。
瓦礫の山から姿を現したソレは、子供の頃に図鑑で見たそのものの姿だった。
…いや、そのものとは少し違うか?
『恐竜の王・ティラノサウルス』
…そのティラノサウルスが、何故か下半身だけズボンを履いていた。
…いやいや、本物のティラノってもっと大きいハズだ。
…っていうか、千里眼で見たじゃないか。
『暴虐のダイノ』さんだよ、アレ。
…巨大なズボンだ…。
あんなの何処で買うんだ?自作か?
…あ、よく見たらまだ足下が半分以上埋まってる。
だからすぐに襲いかかって来ないのか。
…俺、少し頭が混乱してるなぁ…。
冷静になろう、落ち着け、俺。
…『暴虐のダイノ』って名前や、あの姿に近視感がある。
ワニ男が確か、『悪食のダイル』って名前だったっけ?
…って事は、アレはワニ男の親か何かか?
ワニの親が何で恐竜?って突っ込みは、この際無しだ。
一番の問題は、千里眼で見えた奴のステータスだ。
瓦礫で潰されたダメージがあるだろうに、それでも生命力は100over。
他のステータスも軒並み高い。
俺の何倍あるんだ…?
…おまけの『特殊』って項目だ。
ワニ男にも確かあったけど、あの時はそんなに脅威じゃ無かった。
だがコイツには、『特殊』が二つもある。
『先祖返り』は…あの見た目でなんとなく分かるな。
高いステータスはこれの影響か?
そしてもう一つ、『バーサーカー』。
…これってヤバそうだよなぁ…。
だって、今、超怒ってるよ?ダイノさん。
…絶対バーサーカー発動してるよ…。
…こうなりゃ先手必勝だ!
最後の砲弾を直接喰らわせてやる!!
俺は足下に転がるラストの砲弾にサイコキネシスを使用し、瓦礫から脱出しようともがくダイノ氏めがけて発射した。
…いける!直撃コースだ!
砲弾が、ダイノの頭に当たった。
確かに当たった。
鼓膜を振るわすような、強烈な金属音と共に。
「…あ…、まさか…不発!?」
…この状況を想定していなかった。
いや、想定しておくべきだったんだ。
あの砲弾が作られて、何年、何十年、何百年の時が経っているのか、考えていなかった。
…そう考えるとむしろ、先に撃った四発の砲弾はよく爆発してくれたもんだ。
顔面に砲弾が突き刺さったまま、仰け反る様な体勢で静止しているダイノ氏。
…あれ?…もしかして、死んだ?
殺れたのか?
そ、そうか。
爆発はしなかったものの、あの質量の金属塊が直撃したんだ。
頭がモゲなかったのも、驚異的な生命力や体力のせいかもしれん。
生死確認の為に、もう一度千里眼をかけてみる。
【白場庭ダイノ】
(暴虐のダイノ)
変異体 53歳
生命力/74
力…
ヤバイ生きてた。
生命力も半分も削れて無い。
…埋もれていたダイノの足が、力強く引き抜かれる。
続けて、ひしゃげて顔に突き刺さった砲弾が、片手で握り潰された。
…仰け反った体がゆっくりと引き戻され、背筋が凍り付くような視線が、再び俺を睨みつけた。
『…犯人は…お前かぁぁぁぁぁっ!!!』
空気が震えるような咆哮をあげたダイノは、こちらに向かって走り出した。
うわぁ!?メッチャ早いっ!?
あのデカさで敏捷35って卑怯だろ!?
俺はカブに飛び乗り、アクセルを全開にする。
全ての砲弾を撃ち尽くし、正常な重さに戻ったカブが、ドリフト気味に走り出す。
目指すは、ここではない何処か!
…逃げるんだよぉ!!
逃げる俺。
殺意のこもった咆哮をあげながら、追いかけてくるダイノ氏。
ギヤを次々とシフトアップし、カブの最高速度に達したにも関わらず、奴との距離が離れない。
…いや、むしろ段々と縮まってきてる!?
マジでどうすんだよコレ!
このままだと、いずれあの恐竜に追いつかれるぞ!?
…正直少し調子に乗っていたし、おおいに反省もしている。
けど、しっぺ返しがコレって。
とにかく、追いつかれる前に何か打開策を考えねば。
砲弾はもう残っていない。
せめて一発でも残っていれば、活路を見出せたのだが…。
となると、頼みの綱はサイコキネシスか?
…逃げながらで当てられるのか?
テストを兼ねてサイコキネシスで牽制しようとするが、カブで走りながらでは無理だった。
手頃な岩を見つけても、意識を集中している間に追い抜いてしまうのだ。
…ここにきてサイコキネシスの新たな弱点が見つかるとは…。
残ったショットガンも、相手がアレではダメージソースになるか怪しい。
…八方塞がりじゃないか。
…くそっ、こんなことなら無理にでもベータを連れてくるんだったか…?
ワニ男を追う時、最初はベータに一緒に来てもらおうと考えていた。
ベータを連れてこなかったのには理由があるのだ。
砲弾をカブに積み終え、ベータに同行の件を伝えようとすると、何やら挙動がおかしい。
瞳の光が不定期に明滅し、声にはノイズが混じっている。
話を聞いてみると、原因は『プラズマうんたら』の連発による出力低下だった。
元々あの技は、追加でダウンロードした『Officer2030』ってアプリによるものらしいのだが、元来のソルティに無い技をアプリで無理矢理再現させているそうだ。
ベータが言うに、ソルティの動力源の『圧縮空気プラズマ』?だかを、ちぎって投げてる様なものなんだとか。
幸い出力低下は「充分な量の空気を吸気して再圧縮すれば直る」らしいのだが、その作業に30分程かかるとの事だったので、ベータにはおとなしく待っていてもらう事にした。
…その選択が裏目に出てしまった。
今更悔やんでも仕方が無い。
重要なのは、このピンチをどうやって切り抜けるかだ。
…やっぱりサイコキネシスしかない。
岩が無理でも、俺が直接持った物ならイケる筈。
…問題は、何を飛ばすかだ。
スリングショット用の鉄球じゃあ焼け石に水だろう。
ショットシェルを飛ばしてみるか?
…どうなるんだ?よく分からんが、駄目そうな気がする。
レンチもシャベルもバックパックに刺してある。
流石に背中にある物には意識が集中できない。
…そして、通勤バッグの中には水と携帯食料くらいしか入れていない。
…あ〜もう!!何か無いのかよ!?
せめてほんの少しの間だけでも、足止めできるような物が!!
その時、我武者羅にバッグに突っ込んだ指先に何かが当たった。
…何だっけ、コレ?
あ。
行商団のトラックに乗る時に、ベータから受け取ったアレだ。
…カブに積み込んだのだけど、何を思ったのか一つだけバッグに入れたアレだ…。
それが何かを思い出すと同時に、昔プレイした某ゲームを思い出す。
…うわぁ、マジかぁ。
…でも、もうコレしか無いよな。
千里眼で見えたダイノ氏は、もう追いつかんばかりの距離に迫っていた。
俺はバッグからソレを取り出し、猛烈なうしろめたさを感じながら、サイコキネシスを使用した。
「…うぁぁぁぁぁっ!!もったいねぇぇぇぇぇっ!!」
俺の後方に迫るダイノに向かって、女性の握り拳程もある大ナットが発射された。




