流されて大乱闘
俺達を乗せたトラックは、ゆっくりとスピードを落とす。
『そうだ、そのまま止まれ!こっちは車をぶつけて止まらせてもいいんだからなぁ!?』
破れたホロの隙間から、外の様子を伺う。
逆光でハッキリとは見えないが、トラックを囲むように車が数台。
…どの車も錆びが浮き出ていて、窓も無い。
…ハッキリ言ってしまおう、M○DMAXの車だ。
後付けで追加されたと思われるスパイク付きホイールや、フロントグリルから生えたスパイク、車体の両側にもやっぱりスパイク。
何処に刺さりに行こうというのか。
クラッシュ○アか。
『よ〜し、止まったなぁ!積荷は全部いただくし、女がいれば連れて行く!!…が、その前に…、チョウチョとか言う女と、その連れの男がいたら、大人しく下りて来い!!』
…やっぱり、俺が逃がしたモヒカンのお仲間か。
いや、最初に見た時から絶対そうだと思ったけどね?
「チョウチョ、俺がちょっと言ってくるから、お前はここに居ろ。」
「ノブさん!?…私も行きます!」
「多分大丈夫だから。…それに、もう次は後悔したく無いんだ。」
覚悟は決まっている。
…勿論、死ぬ気はまったく無い。
死ぬのは彼奴等だ。
トラックの荷台から飛び下り、歩み出る。
…ライトが眩しいっ!俺はル○ンか!?
「!!コイツです!コイツが仲間を殺った野郎ですよ!!」
「ほう…、こんな痩せたドブスターみたいな野郎が…。」
とんでもなく失礼な事を言った奴を睨む。
…おおぅ、そう来たか。
身長はざっと3m、ウロコのようなものが全身に浮き出た体…。
顔はそのまんま、ワニだった。
「ウチの兄弟達を随分と可愛がってくれたらしいなぁ。…俺は白場庭ファミリーの長兄、『悪食のダイル』だぁ…。」
【白場庭ダイル】
(悪食のダイル)
変異体 31歳
生命力/42
力/30
体力/33
知力/11
敏捷/25
運/18
特殊:表皮硬質化
(遺伝子異常有り)
頭のほとんどを占める大きな口が、醜く歪んだのが分かった。
…ダイルって、クロコダイルだから?
…え〜っと…、前にネットで見た記憶なんで、あんまりハッキリしないけど…。
閉じた口の下の歯が見えない。
幅広の頭。
お前アリゲーターじゃねえ?
…ツッコムのも面倒なんで良いか、放置で。
「可愛がるなんてとんでもない。躾がなってなかったんで、ちょっとお仕置きしただけさ。お宅のご兄弟なら、もっとちゃんと躾けろよ?」
「うるせえっ!よくも俺等を埋めやがったな!?おかげで俺以外の仲間は、生きたままネックレスの餌になったんだ!」
あ、泉で最後まで残ってた奴だ。
生き残ったのはコイツだったのか。
…顔は醜い傷だらけになっているが。
「…お前も懲りないなぁ。生き延びたのなら残りの人生をおとなしく過ごせば良いものを…。」
「黙れ卑怯者が!銃なんか隠し持っていやがって!兄貴、コイツ銃持ってるんで注意して下さい!!」
「…ウハハハハッ!残念だったが、俺の硬質のウロコは、豆鉄砲なんざぁ通さんぞ!!」
…銃じゃなくてサイコキネシスだったんだけどね、それも最小出力の。
あ、でも今は銃持ってるんだ。
「豆鉄砲って、コレの事か?」
俺は背中からショットガンを取り出し、ワニ男に引き金を引いた。
轟音と共に飛び出した無数の鉄球が、ワニ男の胸元に命中する。
「!!!!痛ぁぁ!!!!」
「ああああぁ!兄貴ぃ!兄貴ぃぃぃ!?」
おお、大口叩くだけはあるな、一撃で死ななかった。
でも自慢のウロコはゴッソリ抉り取れちゃったみたい。
「…どうすんの?もう一発同じ所撃ったら、お前死ぬぞ?」
「ぎぃぃぃい!!野郎共!!殺っちまえぇぇ!!」
…悪党ってのは、どいつも同じセリフ言いたがるなぁ。
ワニ男の叫び声を切っ掛けに、数台のトゲ車が俺に向かってくる。
俺は一番近い車をショットガンで撃ちつつ、近くの岩をサイコキネシスで飛ばす。
この乱戦だ、俺がESPを使ったって誰も分かりゃしないだろ。
…どうせ生きて帰さないしな。
ショットガンで撃った車は、元々ボロだったのもあって轟音と共に爆発、炎上した。
…アブねぇ!!巻き込まれる所だった!!
威力があるのは良いけど、調整できないから扱いが意外に難しいな。
飛ばした岩は、何台かの車をかすめながら遠方に飛んで行った。
岩がかすめた衝撃で、二台ほど横転したようだ。
「…サイゴーさま、後ろはお任せ下さい。」
振り返ると、いつの間にか下りて来たベータが後ろに立っていた。
腕部にはいつかの黒棒が露出しており、その腕を車に向けて…って、お前それスタンガンみたいのだろ?流石にこの距離では…。
「…初披露でございます。『プラズマクラッシャー』!」
黒棒から青白い電気の塊みたいな物が、ふわりと車に発射された。
接触と同時に、爆発する車。
…お前…、ホント、何でもアリな…。
あと技名叫ぶのか、お前。
ベータばかりに任せてもいられないと、ショットガンにショットシェルを詰めていると、あらぬ方向からパララッという銃声と、男達の汚い悲鳴が聞こえた。
「わ、私だって、銃があれば戦えるんですよ〜!!バタフライちゃんの餌食にしてやりますぅ!!」
…車の中に居ろって言ったのに、チョウチョまで出て来ちゃったよ。
なんか混沌としてきたなぁ。
ベータと共にチョウチョに駆け寄り、三人で敵を掃討していく。
チョウチョが生身の敵をバタフライの一斉掃射で片付け。
ベータがプラズマなんちゃらで車を破壊し。
討ち漏らしを俺がショットガンとサイコキネシスで仕留める。
そうしてしばらくすると、辺りで無事に残っているのは、二台の行商トラックだけになっていた。
「…やっぱり、飛び道具ってロマンですよねぇ。」
「…お前の言うロマンってのは、ずいぶんと血生臭いんだな…。」
辺りが静かになったのを確認してか、ウルテさん達がトラックから下りて来る。
「…何も助力できずに申し訳ない。ノブさん…、ベータ殿も大概でしたが、やはり銃の力はすばらしい物ですね。改めて必要性を感じさせられました。」
「ソルティのプラズマクラッシャーが生で見れるなんて…。今日は一生の思い出になりそうです。」
ウルテさんの謝罪は分かるし、別に気にしてないけど…。
…ミノさんって、薄々は感じてたけど、ソルティのマニアか何かなの?
ちょっと怖いわ…、ウチのベータさんに悪さしないでね?
「サイゴーさま、『悪食のダイル』が見当たりません。」
「おっと…、逃がしたか…?」
すかさず千里眼を使用する。
…良かった、まだ範囲内にいやがった。
「タンさん、俺のカブを降ろしてもらえますか?」
「ノブさん、追うつもりですか?…一人では流石に危険では?」
「いや、今回は一人で良いや。…て言うか、アジトまで追っかけてみるわ。」
「流石はサイゴーさま、根絶やしにするおつもりでございますね。」
「…いくら何でも無茶だ。銃の威力は認めるが、アジトにどれだけの敵がいるのか見当もつかないですよ?」
ウルテさんの言葉に、俺は商談モードに入る。
「…そこでですね、今日見せてもらった商品の、『例の売れ残り』を、俺にいただけませんか?」
「…はい?あんな物、どうするおつもりで?そもそもアレは…。」
「いや、分かってます。上手く使う方法を思いついたんで。」
ウルテさんは納得していなかったようだが、負い目を感じたからか承諾してくれた。
…さてと、それじゃあ追っかけますか。
後腐れを残さないためにも。