学園祭
大きく抉れた胸元の怪我を処置することもできぬまま、俺はアジトへの道を急いでいた。
…何なんだ彼奴等は。
ふざけてやがる。
馬鹿げてやがる。
…考える程に奴らへの『怒り』が、理不尽な『恐怖』が押し寄せてくる。
あのドブ野郎、絶対に殺してやる。
聞いていた通りの卑怯者だ。
不意打ちで俺に怪我を負わせたからと調子に乗りやがって。
「…ダイルの兄貴ぃ、もう少しでアジトに着きます!頑張って下さい!」
…誰だっけか、コイツ?
…ああ、そうだ。
俺の所に報告してきた奴だ。
全身泥と血だらけで、仲間を皆殺しにされたと泣きついてきた奴だ。
…今思えば、コイツが報復だの言い出さなけりゃあ、俺がこんな目に会うことは無かった。
「…おい。」
「はい?うぐぅ…!?」
振り返った手下の首を、片手で握り潰す。
…クソ野郎が、テメエのせいで俺は惨めに逃げ帰ってんだ。
俺の自慢のウロコは、銃弾だって跳ね返すハズだったんだ。
今までに何度か、銃を持った金持ちの護衛と殺りあった時だって、俺は無傷だった。
…あの銃は何だ?
今まで撃たれた時とは比べ物にならない威力だった。
たった一撃で、自慢のウロコが、ボロクズみたいになっちまった。
…沸々と沸き上がる怒りを無理矢理に押さえつけ、今はアジトへの道を急ぐ。
親父なら…!親父ならあのドブ野郎共を、皆殺しにしてくれるハズだ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(…やっと…、着いた…。)
奴等への怒りだけで何とか足を動かし続け、俺はアジトに帰って来た。
…我らがアジトながら、何度見ても不気味な場所だ。
屋上に掲げられた幾つもの死体が、灰色の建物を赤黒く染めあげている。
その異様な見た目から、兄弟達は『赤い屋根の砦』なんて呼んでいやがる。
「…!?ダイル兄!?どうしたんだその傷はっ!?」
警戒にあたっていた末弟達が駆け寄って来る。
…俺は弟達を一睨みして、歩みを止めさせる。
「…親父に…、親父に繋いでくれ…。」
今は怪我の処置より、奴等を始末するのが先だ。
弟の一人が報告に走り、俺はその後を体を引き摺りながら追う。
…絶対に許さねぇ。
白場庭ファミリーの総力をあげても、奴等を皆殺しにしてやる…!!
部屋を抜け、階段をあがり、砦の最奥、親父の私室の扉を開いた。
「…おおお!ダイル!どうしたって言うんだ、その傷は!?」
怒りとも、悲しみともとれる表情を浮かべた親父が、俺に駆け寄る。
気が抜けた俺は、その場に崩れ落ちてしまった。
「…報告にあった、弟達を殺った奴等だ…、泉で待ち伏せされた…。」
…今度は、はっきり分かる程に、怒りに満ちた表情で俺を抱く親父。
「…そうか。後の事は俺に任せておけ。お前は治療を受けて、ゆっくり休んでろ。」
「…親父…、俺の仇を…頼む…。」
最後の力を振り絞って言葉を伝えた俺は、そのまま気を失った。
直後。
この世の終わりが来たような爆発音で、すぐに意識を取り戻す。
「!?な…何だ!?」
「…息子共!状況を報告しろっ!!」
下の階からは悲鳴や絶叫がこだましている。
二度目の爆発音がしてから、親父の部屋に報告が転がり込んで来た。
「たっ…、大変だ親父っ!!砦が、何者かに砲撃を受けてるよぉ!!」
「…砲撃だとぉ!?」
俺を床に放り出した親父が、部屋の外へと走って出て行った。
…あれ?親父…、俺の治療は…?
あ…また意識が遠のいて…。
…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アレが白場庭ファミリーのアジトか…、趣味が悪すぎるだろ…。」
俺はワニ男が入って行った建物を、近くの高台から眺めていた。
これって…学校か?
屋上には無惨な姿で張り付けにされた遺体が、案山子の様に掲げられている。
やっぱり、あの時トドメを刺すべき相手だったんだ。
…今更後悔しても遅いが、後始末だけはしっかりとしないとな。
俺はカブの荷台に無理矢理ロープで括り付けた物をほどき、ゆっくりと地面に置いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
時をさかのぼり、行商団の車で商品を見せてもらっていた時のこと。
幾つかの発掘品を見終わった俺は、荷台の隅に厳重に保管されている『ある物』に気がついた。
「…うおっ!?でけぇ!!…これって…、戦車の砲弾か?」
そこにあったのは、間違っても倒れない様にと何重にも補強された箱から顔を覗かせている、巨大な弾頭だった。
「ああ、ソレですか…。以前本隊と合同で発掘を行った時に発見したんですが、砲弾だけあっても肝心の戦車が無いですからね。本隊と第二行商団、ウチとで三等分にして分けはしたんですが、邪魔な上危なくって、正直さっさと処分したいんですよね…。」
ウルテさんが遠い目をしている…。
…これは、相当頭を悩ませてるな…。
でも、俺だってこんな危ない物は要らん。
早々と興味を失った俺は、別の商品が積まれたトラックへと向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…まさか俺が買うことになるとはな…。」
そう、俺がウルテさんから譲ってもらった物、それはこの巨大な砲弾でした。
砲弾だけあっても使い道が無いと思ってたんだけど、よく考えてみれば俺には大砲のかわりになる便利な能力があったんだよな。
砲弾を白場庭のアジトへ向けて並べ、一息ついた俺は、千里眼で無関係な人がいないかチェックをした後、行動を始めた。
「上手くいってくれよ…。」
サイコキネシスでその場に一瞬浮かび上がった砲弾は、一直線にアジト目指して飛んで行った。




