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第Ⅸ章 レスホーム高校生 完結編

耳を澄ませば聞こえてくる声がある。


男子 変態 クズ 退学 性欲の化身 下半身の化身etc……そのボキャブラリーに富んだ悪口の数々に感心するほどだった。


もうマヂ無理学校やめたい。


黄鞠が教室に入ると、一瞬クラスが静まり返った。その静寂は学園生活の終了を告げているかのようだった。


居心地が悪いなんてものではなかった。ここは地獄、全然楽しくない地獄だよ。何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ、クソが。黄鞠は自分の机に座る。その頃には教室には元の喧騒が戻っていた。


女子とは陰湿な生き物である。嫌いな生き物は集団で団結し責め立てる、しかし力の強いものに真っ向から攻撃することはない。


でも何事にも例外はいる。隣にいる同級生は数少ない例外だった。


「キマリ、大浴場に堂々と侵入したって本当なの?」


聞きにくいことをズバッと聞いてくる、我が道を堂々と歩む素敵な女子もいるのだ。


「……本当だ。言い訳をさせてもらえば不可抗力だ」


「不可抗力なの? そもそも大浴場に行った時点で言い逃れできないと思うの。個室にはシャワールーム完備なんだから、わざわざリスクを背負ってまで大浴場に行くわけがわからないの」


それはそうだ。俺だってリスクなんて背負いたくない、だがレスホームなら仕方がない。


「あー、そういえば言ってなかったっけ。俺は女子寮の部屋を割り当てられなかったから、テントで生活しているんだ。俺はレスホームなんだよ」


「……何だってなの?」


「アイムレスホーム」


今まであまり表情を変えなかったシグノだったが、その黄鞠の一言はそのその表情を変えるほどだった。そうだよ、その反応が普通なんだよ。


「じゃあ風呂とトイレと食事はどうしてたの?」


「一応風呂は女子の使用時間の後、時間でいえば11時から11時半までの時間帯に許可されていた。トイレは流石に使えるように取り計らってもらった。飯は飯盒炊爨だ」


「それ私だったらキレてるの」


「俺だってそうだよ。それに入浴の時間は厳守するように言われてたらしいじゃないか。俺は全部悪くねぇというつもりはないけど、この仕打ちはひどすぎるよー」


「確かに入浴時間については気持ち悪いくらい念押しされてたの。ふーん……なるほどなの」


シグノは少し考え込む。


「もしかすると、これは起こるべくして起こったことかもしれないの」


「起こるべく、といいますと? 俺はハメられたってことか?」


「完全に否定はしないけど多分違うの。確かに成功すれば一撃必殺のハメ技かもしれないけどたかが女子高生にそんな大それたことはできないの。時間厳守と言われていたけど、少し立て込んでしまって10時以降に大浴場に来てみた。そうしたら大浴場は使えてしまったの。だから『10時以降には入ってはいけない規則は規則だけどそれでも大浴場は使える』と思ってしまうの。そしてその情報は日に日に広まるの。調子に乗った女子たちはなるべく広い空間と時間を使おうするの。でいつの日か今日のようなことが起こるの」


なるほど、説得力のある仮説だ。多分名推理だと思うんですけど。


だが、この仮説が当たっているとすれば、黄鞠は最初から詰んでいたことになる。いつの日か鉢合わせてしまう日が来るからだ。


まさしく、起こるべくして起こってしまったのである。


とはいえ、シグノはぶれなかった。シグノは簡単には他人に同調しない。きっとこの高校にクマが侵入したとしても、シグノは慌てふためるクラスメイトを見ながらあくびをしているだろう。


「おとなしく~ん」


唐突に俺を呼ぶ声が聞こえた、どんよりと鬱屈とした空気を醸し出しながら消え入りそうで死にそうな声で声をかけてきたのは、担任の石動先生だった。


「いっしょにせいとしどうしつにきてくださいね」


黄鞠は生徒指導室送りとなった。



「音無君は真面目で素直でこんな馬鹿げたことはしないと先生信じていました……なのにどうしてこんなことになってるんですか!!」


先生は人生疲れたような表情でそう言った。


「それなんですけど……実はかくかくしかじか」


黄鞠は志津やシグノに話したように、事情を説明した。


「え?許可を貰っていた」


先生が素っ頓狂な声をあげる。


「はい」


「誰にですか?」


「そりゃ、寮の管理人さんですよ」


石動先生は初めて会った時のように固まってしまった。だが以前とは違いすぐに我に返る。


「ちょっと待ってくださいね」


そういうと石動先生は部屋の隅に移動して、携帯電話を取り出した。


「あ……もしもし、私です、雛です。あのカンちゃん聞きたいことがあるんだけど、うんうん。そう、それなんだけど。うん……うん……そうなんだ、うん……うん、あーうん。うん……うん……」


数分後、先生が電話を切る。そして気まずそうにこちらに向き直る。


「あのー、その、許可出ていたみたいですね」


別に先生が悪いわけじゃないのは分かっていたが、黄鞠は先生を責めるような目で見ずにはいられなかった。


「いえ、俺だって事前に確認するべきでした。俺に責任がないとは言えません」


「それはそうかもしれないですけど、やっぱり今回は規則を破った女子たちが原因だと思います」


元々の原因は書類不備でこの学校に入学させた外道クソ婆が原因だと思います。


「それで、俺はどうなるんでしょうか。退学ですか!」


「嬉しそうに聞かないでください! 今回はきっと事件のあらましを説明して終わりだと思います。音無君にペナルティは流石にかからないと思いますよ」


もう十分なくらいペナルティ貰ってますけどね。


黄鞠が教室から戻ってくると、シグノの席の周りに女子が5人ほど集まっているのが見えた。いつかどこかで見た光景だった。まあ例のごとくA,B,C,D,Eとしよう。


「だから言ったよね! こうなるって分かってたから、私たちはわざわざ忠告してあげたの!」


Aが机を叩きながら声を荒げる。


「ふーん、で、私にどうしろっていいたいの?」


シグノは気怠そうに返答する。


「もう二度とあの男子に関わらないほうがいいよ。話しかけられても無視したほうがいいって」


Bが遠慮もなく女子特有の怖い提案をする。


「ここで皆が団結できれば、あの男を学校から追い出せるかもしれないし、最悪学校に来れなくしちゃえばいいしね」


Cが言いたい放題言った。

あいつおぼえてろよ。


「……別に私たちの味方になれって言うんじゃないけど、とにかくもう男子の事は無視して」


Aがそういった。黄鞠にはこの女たちの考えていることが手に取るようにわかった。この男子がどうやって入学したのかはわかってはいないけれど、そもそもこんな異常自体を認めるなんて状況は権力の類の大きな力がかかっていると判断した。


男子を退学させることはできないかもしれない。でも退学にできないのならば追い詰めて不登校にしてやればいいじゃない。


しかし、そのためには何故か好意的なシグノの存在は激烈に邪魔なのである。


「でも断るの」


「はぁ! 何それ、男子が本性を現したのにまだそんなこと言うわけ!」


Dが声を荒げた。


「お前ら見てると虫唾が走るの」


「……ねぇ、ちょっと態度大きすぎない? あなた何様のつもりなの」


「あのさぁ、そんな態度取るならさ。私たちにも考えがあるから」


その発言を聞いたシグノの目つきが変わった。


「へぇ、なの。じゃあ、変な考えを思いつく前に全員ぶっ飛ばしてやるの」


「ちょ、ちょっと待ってよ。皆も落ち着いてよ!!」


一触即発の空気を感じ取ったEがシグノと他のアルファベットの仲裁に入る。よく見ると、そのEは細矢だった。


「胡桃子ちゃんは被害者でしょ!!」


「それは、そうだけど」


Aにそう言われた細矢は何故か顔を真っ赤にして俯いた。そしてシグノは明らかにイライラし始めていた。いかん危ない危ない。


黄鞠はシグノの性格を『普段は余り怒らないが沸点は意外と低いタイプ』と見た。ここらへんで止めないとまずいかもしれない。発言は結構過激なところがあるし、ここ最近の魔法の実技でもシグノは知っている感じだった。気に入らないものは全部ぶっ飛ばすのは、誇張表現なんかじゃあない。


「……気に入らないの」


シグノは舌打ちしながらそう言った。黄鞠は半開きの教室の扉をわざわざ大きな音を立てて開いた。


バァンという音とともにクラス全員の注意がこちらに向いた。黄鞠は自分の席に向かう。アルファベットたちはいそいそと自分の席に戻っていった。


その途中で細矢と目が逢った。細矢は昨日のことを思い出したのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。


「……気に入らねえな」


黄鞠は誰にも聞こえない声でそういいながら舌打ちをした。吐き気がしますよー。


「悪かったな」


黄鞠は席に着くと、不機嫌そうなシグノに向かってそういった。


「キマリが謝る必要はないの」


「一応な」


「私はなんとなくキマリを気に入ってるの。気に入ってなかったら入学式の日に全校生徒を代表してぶっ飛ばしてるの」


「……そりゃどうも」


「ぶっ飛ばす件は嘘なの。ただ私は人を先入観とか見た目で判断することと私に優しくない存在が嫌いなの」


見た目で判断することが嫌いという言葉に黄鞠は何かを察したが、表情には出さなかった。あと気に入らなかったらぶっ飛ばすのは半分本当だと思う。


「そういえば、キマリは今レスホームなの? だったら私にいい考えがあるの」


その台詞はだめそう。


「いい考えって何だ?」


「私の部屋は二人部屋でルームメイトはいないの。だから私の部屋に住めばいいの」


「ふーん。って何っ、それは本当か!」


「本当なの。キマリだったら構わないの」


「……ちょっと考えさせてくれ」


高校生の男女が一つ屋根の下で同棲とか、常識的に考えて教育上とか倫理的によろしくないだろう。


黄鞠はそういった側面があったからこそ、石動先生の提案を断ってレスホームになった。だから本来であれば、性格上黄鞠はこの提案を断っていただろう。


だが、この提案は黄鞠にとって地獄にぶら下がった蜘蛛の糸ほど魅力的な提案であった。


一週間もレスホームを経験すれば、衣食住(あと電気)がどれだけ大切なものかわかるよ。このレスホームから解放されるなら、何でもやる価値がある。レスホーム本当に辛い。レスホームはもうやだ。


「その提案乗った!」


「決まりなの、後で先生に報告しに行くいくの」


本日、めでたく俺のレスホーム生活は幕を閉じる。その結果、石動先生の胃にダメージが行くことになってもこれは必要経費だ。今度、胃薬をプレゼントしてあげようと心に誓った。


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