表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

第十一章 人間関係面倒すぎ

 音無 黄鞠はこの学校の女子生徒はほぼ全員が敵でクズばっかのクズの集団だと思っていた。


 確かに黄鞠を一方的に悪と決めつける生徒も確かに多い。それは男子が女子高に入学してきた時点で

確定していたことだ。半数は黄鞠の敵だと言って差し支えないだろう。だがその実、現状を俯瞰で見てよってたかって男子を攻撃している現状にずれを感じている女子生徒も結構いたのだ。


 男子が一方的に悪いわけじゃない。そもそも話を大きくしているのは女子に原因があるのかもしれない。今回の覗きの件だって、悪いのは規則を破った女子の方だった。冷静な女子はそう思い始めていた。


 そうは思っていても口には出さない。口に出したら孤立するかもしれないからだ。だから黄鞠がまともな女子も結構いることには気がつかない。


 そして、とりわけ男子に対して好意的に接するつもりもない。気に入らないなら関わらなければいい。だから無視しておけばそれでいいとそう考える女子は一定数いたのだ。


 関わりたくないのならば、関わらなければそれでいい。そして、そう思っていたのは中立の女子だけではなく、黄鞠も同様だった。


 ある日、黄鞠は廊下を歩いていた。


 人間には適応力がある、つまりは何事も慣れるのだ。黄鞠はいつも周りの目線が気になっていたが、最近は少しマシになったような気がしていた。それについては自分が晒し者の視線を受けることに慣れたということも勿論あるが、女子生徒たちも同様に慣れてきたのだと思っている。


 扱いはゴキブリから少しランクアップしたらしい。当然、悪意を向けてくる女子はいたがそんなやつらとは関わらなければそれでいいだろう。そんなとき偶然、視線の先に細矢 胡桃子を見つけた。


 細矢とはあんなことがあってからは気まずすぎて会話はなかった。とりわけ会話の必要性も感じなかったしそれはいい。ただあの日から、細矢はこちらを見るなりそっぽを向いてどこかにいってしまうようになった。完全に嫌われてしまったらしい。しょうがないね。


「ふーん……」


 そのことに対して、黄鞠は特に何も感じてはいなかった。不特定多数の女子生徒と同様である。関わりたくないのなら、関わらなければいい。それが黄鞠の結論だった。そして、黄鞠は結論付けてしまった。細矢 胡桃子は音無 黄鞠の敵である、と。


 しかし、当の細矢 胡桃子は違った。黄鞠と目を合わせた瞬間、裸を見られたことを思い出し恥ずかしくなくなって逃げてしまうようになっていたのだ。今日も思わず女子トイレに逃げ込んでしまった。


「う~……私のバカバカ」


 胡桃子は激しい自己嫌悪に陥っていた。胡桃子は例の事件の原因は自分にあることを自覚していた。規則を破ったのは友達に言われて断り切れなかったから。赤信号を皆で渡った結果、黄鞠を轢き頃してしまったのだ。


 自分が悪いことは分かっている。でも、裸を見られたのはまた別の問題だった。黄鞠を見てしまうと、そのことがフラッシュバックしてしまうのだ。


 胡桃子は現状を良しとしていなかった。きちんと謝って仲直りをしよう、と昨日決意したはずだったのにやっぱりダメだった。


 このままではいけないと分かってはいる。それでも、きちんと行動に移せるかどうかはまた別の問題だった。これまでの人生の中で最大級のジレンマを感じていた。


 そして、その日もう一度同じような状況があった。それに周りに人はいなかった。周りを気にすることはない、きちんと謝って話をするチャンスは今しかない。早鐘を打つ心臓を抑え、緊張にが体を支配する。

それでも、意を決して黄鞠に近づいた。


 しかし、次の瞬間、胡桃子にとって信じたくないことが起こった。


 黄鞠は目をそらして、くるりと後ろを向いた。直進していたはずなのに、回れ右をして行くような場所なんてないはずなのに、まるで目に入れたくない何かがあるかのように後ろをむいてそのまますたすたと歩いて行ってしまった。


「……え?」


 一瞬のことで何が起こったのか理解できない。胡桃子は身体から体の力が壮絶に抜けていく感覚を覚えた。それは偶然で、気のせいであって欲しい。自分の出来うる最悪の想像の通りにはならないで欲しい。

事実は一つしかないのに、自問自答を繰り返す。しかし、胡桃子の目の前にあったのは胡桃子にとって最悪の想像の通りであった。


「私……避けられてる?」


 黄鞠は別に特別なことを何かしているとは思っていなかった。殆どの女子生徒からは無視されていたので、黄鞠も無視したし一部のあからさまに自分を避けてくる女子に対しては、気に入らないので自分も避けるようになった。


 ただそれだけのことだった。当たり前と言えば当たり前のことだ。嫌いな奴とも表面上の付き合いをしなければいけない実社会とは違い、学校という社会ではそれが許される。


 そして胡桃子はこの日から確実に『避けられている』ことを実感していた。黄鞠に無視される女子生徒の大半は、同様に黄鞠を無視していたし無視されることに何の感情もない。だが、胡桃子だけは違った。違ったのである。


 事の発端、原因から考えて客観的には自分が悪い事、そして自分は恥ずかしさのあまり黄鞠を避けてしまった。


 そして、避けたから避けられるようになったのだということに気付くのにはそう時間はかからなかった。



 最近、細矢の姿をよく見かけると思う。今まで気にも留めなかったから気付かなかっただけなのかもしれないが。黄鞠は胡桃子が目に入るたびにあからさまに避けた。殴られたし、社会的に抹札しかけたし、避けられたし当然の話だと言えば当然の話だ。


 そして、ある日黄鞠がトイレから出てくると細矢の姿があった。


 ここは女子高なので男子トイレは少ない。わざわざ男性スタッフ用のトイレにまで行かなければならないのだ。当然教室からは離れており人通りも少ない。


 つまり、俺に用があってここで待っていたんだと思う。でも俺は目を合せなかった。いないものとしてそのまま教室に戻ろうとした。


 細矢が俺にどんな用があるのかはわからない。好意的に解釈するのならば、自分の非を認めて謝ってきたのかもしれないがそうでもないかもしれない。もし逆に解釈するのならば、宣戦布告や謝罪や金品の要求だろうか。正直な話、それがどんな内容だろうとどうでもよかった。


 ただもう細矢とは関わりたくなかった、それだけの話だ。だから、関わらない。黄鞠は振り向かなかったから表情を確認してはいない、しかし胡桃子は結局話しかけてはこなかった。



 その翌日は全校朝会だった。朝会の話の内容は交流対抗戦とか何とかの話だった。この学園では、魔法による戦闘訓練が義務付けられる。だが、ただ漠然とやるだけではない。最終的に魔法を使った戦闘による競技を行うことが学習の目的なのである。交流対抗戦とは学校外での他校との交流戦ということらしい。かつて、シグノが言っていた。教育機関同士の諍い、学校機関としての格の争い。多分そういうしがらみと密接に関連しているのだと思う。


あーつまんねー。


 俺には関係のない話だと思ったし、現実に今回の話の対象は上級生の対抗戦についてだった。実際のところ、俺や俺たち一年には関係のない話だったのだ。朝会が終わり教室へ戻ろうとしたとき、黄鞠はトイレに行ってから教室に戻ることにした。


 トイレから出てきたとき、静かで人気のない廊下に一人立っていた人物がいた。細矢だった。しかし、黄鞠は気に留めない。無視して通り過ぎようとする。


「………ま、待って」


 胡桃子はかすれた声で黄鞠を呼び止める。しかし、黄鞠は歩みを止めようとはしなかった。


「……ま、待って、待ってよ……どうして無視するの?」


 胡桃子は何とかといった様子で声を絞り出した。黄鞠がようやく立ち止まり、顔だけを胡桃子の方に向けた。


「……お前だってそうだろ」


「……それは」


 自分は確かに黄鞠を避けた。それは事実だった。自分は避けておいて、他人にそれをやられるのは御免蒙るなんてどう考えたって通らない。これはただの自分の我がままだ。


 それを自覚していたからこそ、胡桃子は次の言葉を話せなかった。


「……悪かった」


「……え?」


 その言葉に俯いていた顔を上げる。


「あの時のことは俺が悪かった。女子寮だった以上、俺が確認するべきだったんだ。だからそれを怠った俺はこんな扱いでも文句なんて言えない、だから悪かった」


違う、そうではないと胡桃子は思った。しかし、声を出す前に黄鞠は言った。


言ってしまった。


「だから、俺はもう二度とお前に関わらない。だからお前も二度と俺に関わらないでくれ!」


 捨て台詞のようにそう吐き捨てて、速足でその場を去った。


 胡桃子はその場で動くことが出来なかった。


「……え?」


 胡桃子の中で大切な何かが壊れたような気がした。身体の中から何かがこみあげてくる。悲しくて、苦しい。体の震えが止まらない。その悲しみと苦しみが両の目から溢れ出てきて止まらない。


 胡桃子は学校を病欠したことはあった。しかし、授業をボイコットしたことは一度もない。だが、この日生まれて初めて授業をサボった。


 誰かに見つかる前にトイレの個室に逃げ込んだ。今の顔を、今の自分の状態を誰かに見られるわけにはいかなかった。


「………ぅぅ、ひっく、ぅぅ……」


せめてこの涙が止まるまでは、誰にも会うわけにはいかなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ