新部員と夢の過去を知るという話。
「……香織? 本当に入部するの……?」
珍しく、夢の声のトーンが低い。
香織は香織で身体を小刻みに震わせている。
「う……ん。 に、入部……する……よ?」
「なんで……? なんでいっつも……」
「……っ! 自分で決めたことだもん!」
「そ、そんなこと! ……もう、いい」
夢はそう言って部室を出て行った。
ここまで、実に一分間の出来事だった。
部室に残るのは、静寂と……すすり泣きの音だけだ。
もちろん、すすり泣いているのは香織。
「玉池……さん? 何かあったの?」
静寂を打ち破ったのは、女子にしては低めの
永海の声。
「昔……ちょっと……ね。」
◇◆◇
「夢ちゃん! 一緒に帰ろ!」
「うんー! 香織ちゃん一緒に帰ろ!」
私たち二人は、昔から仲が良かったのだ。
親の関係もあり、昔からよく遊んでいたのを憶えている。
…………小六のとある日のこと。
「見て見てー! この服と靴! かわいいでしょ!」
「か、かわいい!」
夢は、お金持ちの娘。 お嬢様だった。
すぐに服などを手に入れて、いつもかわいい女の子。
それに比べて、私は地味目な一般女子。
お金もなければ親に頼むのも申し訳ない。
でも、私は……
「それ、どこに売ってるのかな!?」
尋ねてしまった。 買えるわけもないのに。
「えーとね……」
夢に言われたのは、とても手が出せない高級ブランドの名前。
なんで。 世界は不公平なのだろうか。
平等な世界など存在しないことは知っているのに。
「……そ、そうなんだ。 ……すごいね。」
自分で驚くほど、感情のない声が出た。
「香織? どうしたの? いきなり冷たい声……」
「……今日は帰るね。 じゃあ、バイバイ。」
口が……勝手に動く。 違う、違う。
「か、香織! ちょっと……」
後ろから聞こえる夢の声を無視して歩く。
そう。 私はどんどん可愛くなる夢を、妬んでいたのだ。