おくりもの
二月十五日、街を行き交う車と、駅を出入りする人波が作る喧騒に包まれた統國駅前。
「すまん」
椋介はそう言うと、目の前にいる二人の幼馴染に深々と頭を下げた。
約束の時間であった十時直前に、自室のベッドで目を覚ました椋介。
ほたると彩雨に、先に目的地である統國に向かうように伝えてから急いで準備を済ませて来たものの、二人と会えた時には、既に十時半を過ぎていた。
「もう、ムックったら。人には“遅刻厳禁”とか“遅れたら置いていくぞー”とか言って自分が遅刻したらダメじゃんか。ね、たるるぅ?」
「うぐっ」
「えっと……寝坊、したのか?」
「うぐぐっ」
パッチリとした目を細めて笑顔を浮かべながらも、呆れたと言わんばかりに肩を竦める彩雨と、苦笑するほたるの言葉に椋介は恥ずかしくなり頬を紅潮させる。
久々の三人揃ってのお出かけ。
その始まりは、少しばかりグダグダなものとなった。
「ねえねえ、ムックおにいさん」
「はーい、なにかな? あやめちゃん?」
「ムックおにいさんとたるるぅは、なにをかいにきたの?」
「それはねぇ、たるるぅにせつめいしてもらおうか」
統國駅前から歩いて五分とかからない所に位置する大型ショッピングモール。
その入り口で、急に彩雨と子供向け教育番組のようなやり取りを始めた椋介は、ほたるに目配せをする。
「は……はぁ?」
次はお前の番だ。
そんな意味を込めての目配せだったが、ほたるは端正な顔に困惑の色を浮かべるだけだった。
「ノリ悪いぞ、ほたる」
「たるるぅノリ悪ーい」
「そ、そんなこと、言われても……」
椋介が彩雨と共にほたるを更に困らせようとすると、椋介が思った通りほたるは狼狽えてしまっていた。
「それで、結局何を買いに来たの?」
「ほら、ほたる」
いつもの調子に戻った彩雨が二人を見ながら先程と同じ質問をすると、椋介は微笑みながらほたるの肩を軽く叩いた。
「も、もうすぐ、母さんの誕生日、だから……」
「要するに、ノエルさんに渡すプレゼントを買いに来たってことだね」
「あ、あぁ。い、一緒に、選んでくれるか?」
全て言い終わる前に、誕生日と聞いて目的を察した彩雨を見つめながら、ほたるは遠慮がちに言葉を紡ぐ。
「言われなくてもそのつもりだよ。ボクに任せて」
「そ、そうか」
自信ありげに胸を軽く叩いた彩雨に、ほたるは嬉しそうに微笑む。
「それじゃあ……しゅっぱーつ」
「あ、ちょっ……」
「ひ、引っ張るなって」
元気の良い掛け声をあげて椋介とほたるの手首を掴む。
二人は見かけによらず強い力で引っ張られながら歩き出した。
三人がプレゼント選びの為に来たのは、“Shepherd”というロゴを掲げた雑貨店。
店内には多種多様な小物と、それらを眺めたり手に取ったりしている女性たちの姿がある。
「さて、どっちにするか……」
そんな中、椋介は彩雨たちと別れ一人、周囲を多くの女性客に囲まれていることに居心地の悪さを覚えながら、左手に乗せたデザインの異なる二つのキーホルダーを凝視していた。
その時……
「ウッス!」
「おおぅ!?」
急に背中を叩かれた椋介は思わず奇妙な悲鳴をあげて背中を震わせてしまう。
何事かと思いながら振り返ると、そこには椋介のよく知る少女がいた。
付けまつ毛や口紅でバッチリと化粧を施した顔立ち、ウェーブがかった長い金髪、ファーの着いたジャケットとデニムスカートといった服装。
「と、とら吉……」
「シュッシュッ、打つべし打つべし!」
「痛っ、ちょっ、痛ぇよっ! やめろって!」
とら吉と呼ばれた派手な出で立ちのギャルはボクサーのような構えをとり、椋介の脇腹に何度もジャブを打ち込む。
「よし、気ぃ済んだ! じゃあ……」
「ちょっと待て」
その場を立ち去ろうとしたとら吉の肩を椋介は逃がすまいと強く掴む。
「お前は俺の腹に抉りこむようなジャブを打ち込むためだけに来たのか?」
「いやぁ、店の中ブラブラしてたらなんか、見覚えのある後ろ姿があったからつい……」
「お前は、“つい”で人をサンドバッグにするのかよ?」
「あはは、ちょっとしたスキンシップじゃんか。そんな怒んないでよー」
「この野郎……」
人の脇腹を攻撃しておきながらまるで反省する様子が見えないとら吉の笑顔に苛立ちながらも、椋介はとら吉の肩から手を離す。
「あー、マジ痛い。それで、アンタはこんなどこで何してんの? 彼女のプレゼントでも探してるの?」
「彼女なんかいないっての。プレゼント探しってのは合ってるけどよ」
掴まれていた肩を摩りながら興味深そうに自分の顔を見るとら吉に、椋介は小さく溜め息を漏らす。
「ふーん。それで、どのキーホルダーをプレゼントするか悩んでいた、と」
「まあ、そうだけど」
「ふむふむ」
椋介の返事を聞いたとら吉は自身の顎に指を添えて何度か頷く。
「ま、誰にプレゼントすんのか知らないけど」
とら吉は両手をジャケットのポケットに突っ込んでから、急に真剣な表情で椋介を見つめる。
「そういうのって、自分が貰ったら嬉しいモノを贈ったらいいんじゃね?」
「はぁ?」
とら吉の言葉の意味がよくわからず、椋介はつい首を傾げてしまう。
「とら姐さんが出来るアドバイスはこれだけでヤンス。戦友よ、月夜にさらば」
そんな椋介にとら吉は笑顔を浮かべ可愛らしくウインクをしてから、背を向けて歩いていった。
「俺が貰って嬉しいモノを……」
立ち去っていくとら吉の背を見ながら、椋介は改めて先ほどの意味を考えるが……
「ま、気にすることないか」
結局、途中で考えることをやめて椋介は再び左手に乗せたキーホルダーに視線を移すのであった。




