再会
新連載始めました。
目指すは週1回更新!
……自信はありません。
「……はい?」
食卓にて、自身の向かいに座り豪快に音をたてながらラーメンを啜る強面にアフロヘアーの女性。
だが、風間椋介は母、切子の行儀の悪い食べ方などまるで気にならなかった。
「今、なんて……」
夕食を食べ始める前に母が普段と変わらぬ様子で告げた“明日の連絡”。
普段ならば椋介が“わかった”と言えば終わるのだが、今日はその連絡の内容をすぐには理解出来ず、椋介は母に聞き返す。
「ん? ……ゲフン。だからね、明日は夜に彩雨ちゃんがウチに遊びに来るけど、あたしはノエルちゃんと“コブラのディナーショー”に行くから帰りが遅くなるのよ。だから、遊びに出かけるのはいいけど夕方には家に帰って来いって言ったんだよ」
咀嚼していたラーメンを飲み込んで一つ咳払いをしてから、切子は捲し立てるように言い放った。
「…………はいいぃ!?」
椋介は本日二度目の明日の連絡を聞いて暫し硬直した後、食卓を揺らすのではないかというくらいの大声をあげた。
……因みに、“コブラのディナーショー”とは大物演歌歌手である由曲个歩騾を主賓として行われる催しのことである。
「彩雨……か」
夕食を済ませた後、椋介は自室に戻りベッドに寝転んでからポツリと呟く。
(アイツが引っ越してから、もう六年以上も経ったんだよな)
天井で白い光を発する蛍光灯を眺めつつ、椋介は過去を懐かしむ。
脳裏に映るのは、義務教育に入るよりも前、それほど幼い頃から行動を共にしてきた幼馴染の少女の姿。
短めにした髪、天真爛漫という言葉を形にしたような眩しい笑顔、真冬だろうとTシャツに半ズボンというスタイルを変えない、元気一杯の男の子のような親友。
(明日来るなんて聞かされたときは流石に驚いたけど……)
「やっぱ、楽しみだな」
五年前に街を出ていった親友との再会に椋介は心を踊らせ、思わず笑みを浮かべていた。
その時だった。
「ん? お客さん?」
来客を告げるインターホンの音を耳にし、椋介は体を起こす。
直後、階段を駆け上がる大きな足音が聞こえたかと思うと、部屋のドアが勢い良く開かれた。
「椋介! あんたにお客さんだよっ!」
「えっ、俺に?」
「そうだよ、さっさと行きな! さあさあさあ!!」
「え、えぇ?」
突如として部屋に入ってきた切子に無理矢理立ち上がらされて、椋介は部屋から押し出された。
「なんなんだいったい……お?」
訳がわからないと思いながら階段を降りて玄関まで来ると、そこには両手で学生鞄を持って佇む一人の少女がいた。
「春町さん?」
椋介は目の前にいるクラスメイト、春町雅を見て小さく首を傾げた。
艶のある黒髪を正面から見て右側に結んだサイドポニー、少し釣り上がった黒目がちな目は、なにやら渋い表情を浮かべていることもありキツい印象を与える。
「えと、何か用事か?」
「う、うむ。まあ、そんなところだ」
雅は椋介に上擦った声で返事をする。
「えっと……家に上がるか?」
「そっ、それにはおよ、及ばん! たた、大した用事では無いのでな、うん」
「そ、そうか?」
椋介の言葉に誰が見ても明らかに狼狽しているとわかる反応をした雅の姿に、椋介は一つの疑問を抱くが……
(大した用事じゃないなら電話すれば済むんじゃ……あ、でも、大した用事じゃなくても直接会わなきゃいけないこともあるよな)
浮かんだ疑問にすぐさま自分で答えを出して、雅の言葉を待つことにした。
「その、なんだ……こ、これを……う?」
雅がぎこちない動きで学生鞄の中に手を入れたその時、室内にインターホンの音が響き渡った。
「またお客さん? ごめん、春町さん」
「あ……」
(くっ、邪魔が入ったか)
すぐに玄関のドアを開けようと、外履きに使っているスリッパを履いた椋介はドアノブに手を掛ける。
「はい、どちら様でしょうか?」
自分の用事を後回しにされて不機嫌になる雅をよそに椋介はドアを開けた。
「こ、こんばんは! こんな時間に申し訳ありません!」
「へっ?」
ドアを開けた瞬間、目の前の人物が急に深々とお辞儀をして謝罪の言葉を口にし、椋介は困惑する。
「か、風間さんのお宅は、こちらでよろしいのでしょうか!?」
「っ!」
目の前の人物は素早く顔を上げたかと思うと、捲し立てるように早口で用件を話す。
顔を上げた目の前の人物の姿を見て、椋介は思わず息を飲んだ。
その人物は、首の付け根辺りまで伸びた癖っ毛の目立つ短めの黒髪、日に焼けた可愛らしい顔立ち、濡れた土のような色合いのウインドブレーカーに水色のジーンズといった服装の少女。
「おい風間。何を惚けている?」
「あ、ああ。ごめ……ん?」
不機嫌そうな声が傍らから聞こえ椋介が雅の方を向こうとした時、椋介は自分の手首を掴まれたことに気付く。
何事かと思えば、少女が椋介の手首を掴んでいた。
「あ、あの……」
突然のことに戸惑いを隠せない椋介だったが……
「もしかして……ムック?」
彼女が呟くように言った名前と思しき言葉。
“ムック”
そのように自分を呼ぶ人物は一人しかいない。
「やっぱり……彩雨?」
やはり彼女は、自分がよく知る人物であった。
椋介がそれを悟った次の瞬間。
「……ムックーー!!」
「うわっ!」
少女は椋介の手首を掴んでいた手を離したかと思うと、急に大声をあげて椋介に抱きついた。
(でも……明日来るんじゃなかったのか?)
自身に抱きついている少女を見ながら、椋介の頭には疑問符がいくつも浮かんでいた。
二月一四日。
吾妻彩雨とのおよそ六年半ぶりの再会はあまりにも突然であった。




