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ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生)2 ~サディスト魔女×冷徹な堕天使!相反する二人が狂気の世界を切り裂く!~  作者: たくみふじ
虚無の庭園(ゼロ・ガーデン)

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理(ことわり)なき世界㈡

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

 声は、しんと静まり返った灰色の空気を振動させたものではなかった。

 孝子と凉子の脳髄の最も深い部分、自我を形成する意識の核に直接、氷の(くさび)を打ち込むように、強制的に割り込んできたのである。

 それは、本能寺のビルの屋上で対峙した『黒椿』の、あの銀の鈴を転がすような声とは全く異なっていた。性別も、年齢も、そして「一個の生命体」としての輪郭すらも持たない、何億、何兆という無数のノイズが幾重にも重なり合い、圧縮されて作られたような、吐き気を催すほどの「純粋な悪意の波長」。

 これこそが、『神託』。

 宇宙の法則の外側である「混沌の海」に漂う、外なる神々の群体意識(ハイヴマインド)そのものであった。


「「……ッ!」」


 そのあまりにも異質で巨大な精神の圧力に、二人の少女は同時に足を止め、激しい眩暈(めまい)と吐き気に顔を歪めた。


『我ラノ「観測」ノ箱庭ヲ破壊シ、コノ根源ノ座ニマデ踏ミ込ンデキタ、ソノ強烈ナ「個」ノ意志。賞賛ニ値スル。……ダガ、ソレモココメイドダ』


 脳内に響く声と同時に、二人の周囲の景色が、まるで水面に落ちたインクのようにドロドロと歪み始めた。

 足元の灰色の砂が、ボコボコと不気味な音を立てて沸騰し、そこから無数の「異形」が這い出してきた。

 それは、富士の地下要塞で相対した少年少女たちの生体兵器などとは比べ物にならないほどのおぞましい代物だった。

 目も、鼻も、耳もない。ただ、人間の顔の大きさほどもある巨大で鋭い牙の生えた「口」だけを持った、漆黒の粘液の塊。それらが、何百、何千という群れとなって、地を這い、枯れ木の幹を伝い、あるいは空間そのものを泳ぐようにして、二人の少女を取り囲んでいく。


「……下品なお出迎えですこと。見た目も動きも、芸術性の欠片もありませんわ!」


 孝子は、嫌悪感に美しい顔をしかめながら、電光剣の赤い刃をフルパワーで薙ぎ払った。

 地獄の業火が、円を描いて数十匹の異形を両断する。だが、斬り裂かれた粘液の塊は、地面に落ちたそばから再び融合し、何事もなかったかのように這い上がってくる。地獄の「苦痛」を与えるという概念が、生命の形すら成していないこのノイズの塊には、全く通用していないのだ。


「……ダボが! 物理的な損傷も、熱量も意味を成さへんのか!」


 凉子もまた、電流鞭(ライトニング・ウィップ)の青白いプラズマを全方位に乱れ打った。数万ボルトの雷光が異形たちを貫き、一瞬にして蒸発させる。だが、蒸発した黒いガスは空中で瞬時に凝縮し、再び牙を剥いて襲いかかってくる。


『――無駄ダ。コノ空間ニハ、オ前タチノ宇宙ノ物理法則モ、魔術ノ理モ、一切適用サレナイ。ココハ、「意味」ソノモノガ解体サレル、絶対的ナ「無」ノ領域ナノダカラ』


 神託の嘲笑(あざわら)うような思念が、脳髄をガンガンと揺らす。


『オ前タチノ武器ハ、我ラニハ届カナイ。……ダガ、我ラハ、オ前タチノ最モ(もろ)イ場所ヲ、完全ニ破壊スルコトガデキル』


 次の瞬間、迫り来ていた無数の異形たちが、ピタリと動きを止め、一斉にその場でドロドロと溶け崩れた。

 そして、それらの黒い粘液が、灰色の砂漠の上で急速に形を変え、全く別の「風景」を再構築し始めたのである。

 それは、『神託』による物理的・霊的な攻撃ではない。

 二人の少女の魂の最も奥底に隠された、決して触れられたくない過去の記憶とトラウマを強制的に抉り出し、精神そのものを内側から崩壊させるための、極めて悪質で致命的な

概念攻撃(メンタル・アサルト)」であった。


「……な、んですって……?」


 北條孝子の視界から、灰色の荒野が完全に消え失せた。

 彼女が今立っているのは、見覚えのある、そして二度と見たくなかったおぞましい場所。

 赤黒い血の池が煮えたぎり、針の山がどこまでも続く、冥府の最下層。

 十五歳の時に思い出した、自らの前世の記憶。何一つ罪を犯していない清廉な魂であったにもかかわらず、冷徹な地獄のシステムのバグによって理不尽に堕とされ、数万時間にも及ぶ無限の責め苦を受けた、あの絶望の空間であった。


『――罪人ヨ。平伏セ。悲鳴ヲ上ゲ、己ガ罪ヲ悔イ改メヨ』


 空から、顔のない巨大な閻魔の幻影が、孝子を見下ろして無慈悲な判決を下す。

 周囲では、炎に焼かれ、鬼に肉を削がれる亡者たちが、絶望の悲鳴を上げている。


「……黙りなさいあそばせ。わたくしは、罪など犯しておりませんわ! わたくしは、誰にも屈しない! こんな理不尽な苦痛に、わたくしの気高い魂が折れるとでも思って……!」


 孝子は、必死に自らを奮い立たせ、電光剣を構えようとした。

 だが、彼女の右手には、何もない。電光剣も、千枚通しも、そして彼女を常に守ってくれていたガーディの影すらも、この精神の牢獄の中には存在しなかった。

 彼女は、ただの無力で、残酷な運命に弄ばれるだけの「か弱い少女」に引き戻されていたのだ。


『――強ガルナ、惨メナ小娘ヨ。オ前ノソノ「高慢サ」モ、他者ヲイタブル「サディズム」モ、全テハ恐怖カラ目ヲ背ケルタメノ、哀レナ自己防衛ニ過ギナイノダ』


 神託の声が、閻魔の顔を借りて冷酷に響く。


『本当ハ、痛イノガ怖イノダロウ? 誰カニ守ッテ欲シイノダロウ? ガーディトイウ番犬ニ依存シナケレバ、自分ノ存在意義スラ保テナイ。オ前ノ「混沌」ナド、所詮ハ傷ツクコトヲ恐レタ小鳥ノ、無意味ナ羽バタキニ過ギナイ』


「違うッ……! わたくしは、わたくしは……!」

X(Twitter)でも連載しています。

https://x.com/TakumiFuji2025

魅力的なキャラクターたちが躍動する物語をお楽しみください。

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