表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/28

言葉の採寸

挿絵(By みてみん)

透真は胸元を押さえた。


切られたのは身体ではない。


布でもない。


だが、確かに何かが裂けた。


自分がさっき出した言葉。


正しいと思っていた言葉。


相手のために選んだつもりの言葉。


それが、薄い布のように裂けていた。


セナが、透真の前に立つ。


白い糸が、彼の指先から何本も伸びる。


糸は透真の胸元に触れ、


次に、膝をついた男の服へ伸びた。


「選ばれる人」と書かれた布片が、床に落ちている。


男は声を出せないまま、震えていた。


セナは、その布片を拾わない。


代わりに、空中に型紙を広げた。


自由。


選ぶ。


選ばれる。


認められる。


捨てられない。


怖い。


言葉が、布の断片のように並ぶ。


透真には、少しだけわかった。


この男は、「選ばれる人」になりたかったのではない。


選ばれないことで、自分の価値が消えるのが怖かったのだ。



透真「……俺、間違えましたか」


セナ「少し」


透真「少しですか」


セナ「切られた量としては少し。効き方としては大きい」


透真「わかりづらいですね」


セナ「言葉はだいたいそう」


識「黒瀬さん。大丈夫ですか」


透真「身体は」


識「言葉は?」


透真は、自分の胸元の切れ目を見る。


透真「……あまり大丈夫じゃないです」


識は少しだけ目を伏せた。


識「それが見えているなら、大丈夫です」


セナ「直す」


透真「俺を?」


セナ「あなたも。あの人も」


透真「どうすれば」


セナは、指先の糸を軽く引く。


セナ「まず、正しい言葉を脱がせる」


透真「それ、俺のことですよね」


セナ「うん」


透真「自分で脱ぐんですか」


セナ「できる?」


透真は少し考えた。


透真「……たぶん、苦手です」


セナ「知ってる」


透真「初対面なのに、俺のことを知りすぎじゃないですか」


セナ「採寸したから」


センスィアが、遠くで笑う。


センスィア「まだ直す気なのね」


セナ「直せる」


センスィア「直してどうするの?」


セナは、膝をついた男を見る。


センスィア「その人は、“選ばれる人”なんて似合わない」


セナ「だから直す」


センスィア「脱がせればいい」


セナ「裸にするな」


その言葉に、透真は顔を上げた。


セナ「言葉を切られた人は、何も着られなくなる」


センスィア「似合わないものを着ているよりマシよ」


セナ「違う」


セナの声は静かだった。


けれど、確かに怒っていた。


セナ「人は、言葉なしでは寒い」


識の瞳がわずかに揺れた。


透真は、膝をついた男を見る。


声を失った彼は、まるで自分の輪郭まで失いかけているようだった。


透真「……セナ」


セナ「何」


透真「俺にも手伝えることはありますか」


セナ「ある」


透真「何を」


セナは透真を見る。


セナ「聞いて」


透真「誰に」


セナ「その人に」


透真「声、出ないんですよね」


セナ「声が出なくても、ほつれは残る」


透真は、膝をついた男の前にしゃがんだ。


男は、震えながら透真を見る。


透真は、今度こそ言葉を急がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ