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雨のスクランブル
信号が変わっても、黒瀬透真は渡らなかった。
背中を人が流れていく。
傘の先が肩に当たる。
誰かが小さく舌打ちする。
それでも、足が動かなかった。
交差点の上に吊られた大型ビジョン。
そこに映っていた白い文字が、妙に引っかかったからだ。
自由。
成長。
本質。
多様性。
心理的安全性。
どれも見慣れた言葉だった。
仕事でも、会議でも、SNSでも、何度も見た。
なのに今夜は、どの言葉も、妙に薄く見えた。
そのときだった。
「自由」の文字の端が、ぺり、とめくれた。
透真は目を細める。
雨に濡れたポスターみたいに、文字の表面が剥がれている。
剥がれた裏に、白い何かがいた。
透真
「……は?」
通行人
「すみません、通ります」
透真
「あ、すみません」




