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8.妖艶! 魔女ルミシア

 レイとエリーは、荒れ果てた小さな村を訪れた。かつて賑やかだったであろう家々は崩れ落ち、ほとんどの畑も荒れ地と化している。


「前訪れたときと随分景色がかわっちまったな」


「本当にこんなところにいるんですか?」


 ここにエリーを保護してもらう予定だった人が住んでいるらしい。


「そのはずなんだが」


 レイも自信がないのか、タブレット端末にマップを出現させると、しきりに辺りの景色と見比べている。


「おっ。人がいるじゃないか」


 レイは、ちょうど通りかかった村人と思われる青年に声をかけた。


「ルミシアという女が、このあたりに住んでないか」


「ルミシアさんは、魔女の疑いがあり数年前に処刑されましたよ」


「処刑……? 魔女狩りか」


 レイは、その言葉にため息をつく。


 青年は静かに語ってくれた。


「ルミシアさんは、優れた薬師で、病気に苦しむ村人たちを助けるため、いろいろ手をつくしてくれました。ですが、ある日、事故で腕を失った少年を治療してみせたのです。奇跡の御業でした。ですが、それで村人達は彼女を魔女だと決めつけて、火あぶりにしてしまったんです」


「そんな……」エリーが悲しげに呟いた。「ただ助けてくれただけなのに」


「その後、村は疫病に襲われ、人がたくさん死にました」青年の目には深い悲しみが浮かんでいる。「今や村には、ほとんど誰も残っていません」


「そうか……ふむ」


「村のはずれに、彼女の家が一応残っていますよ」


「ありがとな」


「では、僕はこれで」


 青年は、それだけいうと、数少ない荒れていない畑の整備に戻っていった。


 レイは、青年の姿を見送ると、青年が教えてくれた家へと足を向けた。


「先生、魔女の人の家に行くんですか」


「まあな。青年は火あぶりだっていっていただろう。俺が教える理論を覚えれば、誰だって炎を出せたりする。ルミシアはパイロキネシス使えたから火あぶりぐらいじゃ死にはしない。生きてるだろう」


「それにしても、魔女狩りですか」


「ああ、俺の教え子は、魔術だの、呪いだの言われてな。処刑されるやつが多いんだよ」


「先生みたいに、いきなり手から炎出されたら怖いかもしれません」


「俺からしたら、銃火器だって一緒だと思うが?」


「いや、先生の炎は、原理がよくわからなくて」


「俺がすっごくわかりやすく本十冊分にまとめておいたから、安心しろ」


「ええと、それは、そのう……」


 勉強があまり好きでないエリーは、尻込みした。


「百年も勉強すれば、誰だって使えるようになる」


「それほとんど誰もつかえないって、ことですよ……」


 エリーの言葉に、レイは笑っていた。


「さてと、青年が教えてくれたあいつの家は、このあたりだったはずだが?」


「あれじゃないですか?」


 エリーが指さす先に、奇妙に屋根のとがった小さな家が一軒建っていた。

 ぽつんと佇むその家は、まるで異世界にでも迷い込んだかのような雰囲気を醸し出していた。

 魔女が住んでいるとしか思えないような、わざとらしさがある


「じゃまするぜ」レイは、慎重に扉を開ける。


 ぎぃ、と軋む音を立てながら、奥の扉がゆっくり開く。


「誰かしら、私の家に勝手に入り込むのは……」


 低く響く声と共に、奥に広がる幽玄の闇の中から影が浮かび上がる。

 そこに立っていたのは、黒いローブをまとった銀色の髪をした妙齢の女性だった。

 ながく艶やかな銀色の髪が闇に溶け込むように揺れていた。


 女性は、わずかに唇をあげると、冷たく妖艶に笑う。 


「魔女ルミシアの呪いにあってもいいのかしら」


 彼女が指を軽く弾くと、ぶわりとローブの裾から青白い炎が発生する。

 

「ひぃい」


 エリーは、目の前に処刑された魔女の亡霊が現れたのだと思った。


 レイは、魔女に堂々と答える。


「呪いなんかねぇよ。あるのは理論だけだ。昔そう教えただろう。ルミシア」


 レイの言葉に、魔女はきょとんとすると、青白い炎をかき消した。


「あら、その言い方は……もしかして、レイ先生?」


「久しぶりだな。ルミシア」


「ああ、先生が来るなんて、何十年ぶりかしら」


「半世紀ぐらいじゃないか?」


 魔女がふっと息を吹くと、今度は暖かいオレンジの炎が燭台に灯る。

 綺麗で整えられた家の内装がみてとれた。


 ルミシアは、エリーに気づくと、まじまじと見た。


「あらあら、先生、可愛い子つれてますわね」


「新しい弟子エリーだよ」


 さっきまでの雰囲気が嘘のように、和気藹々と話し出す二人に、エリーはほっと息を吐き出す。


「お二人は、一体どのくらい生きてるんですか?」


「俺は千年ぐらいだな」


「私は四百年ぐらいね。今、お茶だしますわ」


 お茶をとりにキッチンに向かうルミシアを見ながらエリーはレイに質問した。


「そういえば、どうして魔女は女の人ばかりなのでしょうか?」


 答えてくれたのはアルファだった。


「ふっふっふ、それはですね。マスターが助けるのが、女の人ばかりだからです」


「おい。アルファ、人聞きが悪いことを言うな。別に俺は、老若男女分け隔てなく助けるだろう。助けたやつで、しつこくついてこようとする人間がなぜか女が多いだけだ」


「へぇ。随分、物好きな人がいるんですね」


「……エリー。お前は、物事を客観的に見れるようになった方がいい」


 エリーは何のことだか分からず首をかしげた。


 しばらくすると、ルミシアはポッドをもって、現れた。

 エリーの前にカップを置くと、黄金色の紅茶を注いでくれる。


「先生には、これですわね」


 レイの前には、銀色の缶が置かれた。


「さすがわかってるじゃないか」


 レイは、早速手に取ると、指先でプルタブを引き起こす。


 プシュッ!


 小気味よい音とともに、缶が開く。音にびっくりしたエリーは、体をビクッと震わせた。

 レイは、ぐいっとあおるように飲むと「ぷはぁ」と息を吐き出した。 

 

「やっぱ、うまいな! カフェインが浸みるぜ。体に悪そうな感じがたまらないな!」


 上機嫌なレイに、エリーは質問する。


「先生は何飲んでるんですか?」


「エナドリだ! カフェイン、タウリン、ビタミン、アルギニンや糖類などを馬鹿みたいに突っ込んで、二酸化炭素をこれでもかというほど濃縮した飲み物だ」


「全然どんな飲み物なのかわかりません」


 エリーは説明を聞いても、謎の単語ばかりで、全くどんな味なのか想像できない。


「心拍数があがって、全く寝なくても、動けるようになる最高の飲み物だぞ。お前も飲むか?」


「そんな寿命を前借りするみたいな飲み物、私はいいです」


「寿命なんていくらでもあるんだから、いくらでも前借りすればいいんだよ」


 ホムンクルスで、本当に寿命がいくらでもある人間の言い分だった。


「先生は、あいかわらずですわね」


 ルミシアは、ため息をついた。


「それにしても、先生はどうしてここに?」


「ちょっと今から、機械人間都市に出かけてこようと思ってな。その間、こいつの手足培養させてもらおうと思って」


 ルミシアは、チラリとエリーの手足を見る。


「そんなことだと思いましたわ。設備は地下に隠してあります。ご自由にお使いください」


「助かるぜ。それにしても、魔女狩りなんて慎重なお前がヘマするなんて珍しいな」


「懐かれた子をうっかり助けてしまって……いいことしたのに、処刑されるなんてどうして人は愚かなのかしら」


 ルミシアは、アンニュイな雰囲気を漂わせた。


「助けたやつは、なんて言っていたんだ」


「助けた子だけは『ありがとう』って感謝してましたよ」


「くっくっく、どうせ村に一人残っていた。あの青年だろう」


 エリーは哀愁を漂わせながら、一人生活をしていた青年を思い浮かべた。

 確かに数年前であれば、少年だったのかもしれない。


「いいじゃないか。助けた本人に感謝してもらえたのなら、他のやつになんと思われてもな」


「そんな感じで、割り切れるのは、先生だけですよ」


「他のやつになんて思われても、俺たちはルミシア、お前の味方だぞ」


「ふふふ、まあ、そうですわね。ありがとうございます」


 レイはルミシアの言葉に満足そうにうなずくと、立ち上がる。


「じゃあ、設備借りるぞ」


 それだけ言うと、レイは隠し通路を通って、地下へと降りていってしまった。


 残されたエリーに、ルミシアはおかわりのお茶を注ぎながら、こぼす。


「先生のああいうところ、かっこいいだけどねぇ」


 ルミシアは、恋する乙女のように、艶っぽくため息をついた。


 エリーはレイの言い方から、きっとしつこくついてきた人間というのは、ルミシアさんのことだと察して、本人に聞いてみることにした。


「ルミシアさんは、どうして先生について行くのをやめたんですか?」


「まあ、ねぇ。若いときはよかったんだけどねぇ。精神年齢歳とってくると、先生のむちゃくちゃについて行くのがしんどくなっていくというか……先生は刺激が強すぎるのよ」


「そういうものなんですか?」


「きっと、あなたもそのうち分かるわ」


 それから、ルミシアはエリーのカップにおかわりのお茶を注ぎながら、思い出したように呟く。


「そういえば……最近、この近くで壊れかけた機械人間が出るのよねぇ。エリーちゃん、あなた機械系にくわしいのかしら? 何か心当たりない?」


 エリーは、目を見開いた。


「壊れかけた機械人間……?」


「その様子じゃ知らなそうね。夜中にうろついては、訳のわからないことを呟いているのよ。攻撃性はないから特に被害はないけれど」


 機械人間にされかけていたエリーの背筋に冷たいものが走った。

 不安になって、地下通路に目を向けると、タブレットを握りしめたレイがちょうど戻ってきていた。


「アルファが、おかしな電波をキャッチした。その機械人間が影響しているのかもしれないな」


「先生一体何が起きてるんですか?」


「さてな。……そいつを放っておくと、面倒なことになりそうだな」


 レイは顎に手を当て、考えながら呟いた。


「機械人間都市の前に、まずはそいつを調べてみるか」

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クリフハンガーが面白いです、読んでしまいます
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