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究極限界リンカネーション~ホムンクルスの章~  作者: 名録史郎


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22.秘匿! 隠された想い

 理論の完成。

 愛情すらも騙し(ブラフ)にして、

 魔王は女神に真意を問う。


 なにをもってしても

 真理を追求する。

 愚かな人の悲しき性。

 それは、すなわち探求(サイエンス)


◇ ◇ ◇


 レイの言葉にリナは、狼狽した。


「レイ、一体何を言ってるんですか。だって、私は勇者に捕らわれて」


「そうですよ。先生、女神様は勇者に捕らわれていたじゃないですか」


「あんなのは、簡単に自作自演できるだろう。リナが勇者にそうするように指示出せばな」


「そんなわけないですって」


 エリーは、笑っていったが、リナは笑っていなかった。


「なに、俺の思い過ごしならば、別にいいんだ。お前の人格データや過去の行動ログは、さっき権限をもらったとき書き換え不可に設定した。あとは、ゆっくりみて確認するだけだ」


 ホログラムのリナの顔が青ざめる。


「アルファ緊急指示です。今すぐ、オンラインに繋ぎ、権限をこちらに切り替えなさい!」


 アルファは、ピクンと震えたかと思うと表情を失った。いつもより淡々とした声で喋り始める。


「創造主より、緊急指示を確認。実行を開始します」


 ピタリとアルファの動きが止まり、いつもの顔に戻ると言った。


「マスター実行承認をお願いします」


「当然、却下だ。逆に監視レベルを引き上げて、過去の行動ログ取得を開始しろ」


「はい。マスター」


「どうして、私の指示が通らないの」


「どうしてじゃないぞ。さっき説明しただろうアルファのデータは全て確認済みだと言っただろう。アルファの人格データを壊すわけにはいかないからな。元データの改ざんは行わずに、お前からの指示がきたときだけ、実行を一時中止し、俺の承認がいるようにした。却下処理の時は、アルファの行動データをお前の指示直前に差し戻す処理にしてある」


「マスター、特に500年前付近の行動ログを優先して取得行いました。創造主の行動ログに勇者との交信記録があります」


「さすがアルファ優秀だな」


「さあ、リナ、俺がお前を愛しているのは、本当だ。お前が本心は俺のこと嫌いでたまらなかったというのは、悲しいがもちろん構わない。だが、殺そうとしたのなら、話は別だ。ちゃんと俺にも分かるように、論理的に弁明してくれ」


「そ、それは……」


「困ったときの黙りは昔からだな……人格のデータ移動方法なんて、本気を出せばすぐ思いついたんだよ」


 エリーは自信満々で子供たちを蘇らせて見せると言っていたレイの顔を思い出す。

 きっと、ほとんど出来ることが分かっていたに違いない。


「結局、気が散った原因は、リナの気持ちが分からないからだ」


 まるでただの機械であるとでもいうように、リナは押し黙ってしまった。


「おい。エリー」


「はい。なんですか?」


「お前にここまでついてきてもらった本当の理由だが、リナの気持ちを俺に教えてくれ。俺には乙女心はわからない」


「ああ、それで……」


 ここに来る直前に、戦闘の最中だと言うのに、それよりも大事だと言わんばかりにレイが過去のことをエリーに話していたのは、このためだった。


「先生、答えは分かりませんが、私の想像でもいいですか?」


「いいぞ。俺には、なんの検討もついていないんだからな」


「多分、女神様は嫉妬したんだと思います」


「嫉妬? 誰にだ」


 本当にわからなかったレイは、首を傾げる。そんなレイに、エリーはゆっくり言った。


「先生に」


「別に俺はモテたりしないぞ。まあ、見た目は調整してていいし、助けられてしばらくは勘違いする奴もいるだろうが、一生添い遂げますみたいなやつはいないな……。エリーお前は、俺に恋心を抱いていたりするのか?」


「いえ、まったく、少しも、これっぽっちも」


「そんなに否定されると、さすがに俺もへこむんだが」


「だって、先生は女の子を弾丸にして、敵に撃ち込んだり、女の子を銃弾の盾にしたり、人として最低じゃないですか」


「俺は、昔からこんな感じだよ」


「そうなんですよ。きっと昔からそんな感じなんだと思います。先生はなんでもできますがダメ人間で、むちゃくちゃで……だけど、お人好しで、親しみやすくて、私の悪口なんかも笑って聞いてて、そんな先生だから……」


 エリーは、レイの顔を見ながら、言った。


「きっとみんな大好きなんだと思います」


 レイにはみんな恋心ではなく、親しみがあった。誰だってだって助ける。どんな手を尽くしてでも。


 助けられた人は、みんなレイのことが大好きになる。


「女神様は、神と崇められていました」


 レイに対して、リナに対するみんなの気持ちは、崇拝。


「畏れ多くて近づくのもはばかられて、だからいつも楽しそうな先生に嫉妬したんだと思います」


「なんだそれ、よくわからんが……リナは一人で寂しかったから、俺に八つ当たりしたってことか?」


「そうですね。当たらずとも遠からずかと」


「そうなのか、リナ?」


「そう……ですね。私は、嫉妬したのかもしれません。ただ、そうしたくなってそうしてしまいました」


「論理なんかないのか」


「レイ……ごめんなさい」


 女神は、ただ謝った。


「謝るなら、いいよ。あいつらも赦してくれるだろう」


「ログを見れば分かるが、リナが今まで、何をしていたのかお前の口から教えてくれないか?」


「そうですね。私は、あなたの前からいなくなった後、実家で自分の人格データを取得しながら亡くなりました」


「なんで俺の前からいなくなったんだ」


「弱っていく姿を見られたくなかったのです。それから、人格データとなった私は、あなたが迎えに来てくれることを待っていました」


「いや、あのな。ヒントぐらいくれないと俺も分からないぞ」


「そうですよね。それで600年ほど前、私は起動されました。起動してくれたのはあなたではなく勇者……つまりアークでした」


「勇者も私と同じように体が弱い子でした。私は眠っている間に設計していた機械人間の理論を元に、彼に新たな体を与えました」


 リナは、静かに語り続ける。


「それから、私はあなたに逢いにいきました。すると、あなたは私のことを忘れたかのように魔族や魔物達と楽しそうに暮らしていました」


「でも、先生が魔族たちと暮らしていたのって、リナさんを復活させるための実験を行っていたからですよね」


「まあ、そうだな。だが、あの頃はお互いの研究なんて、まだよく理解していなかったんだ。俺にとってのリナは遺伝子データであり、リナにとっての自己は人格電子データだったということだ」


「そうです。きっとそれで、多分私は嫉妬してしまい、怒り狂って勇者をレイに差し向けたのです」


 500年前起きた勇者と魔王の戦いの真相だった。


「それで、俺はお前の真意をさぐろうとハッキングをしていたが、お前は余計に真意をしられたくないという思いから、俺の妨害を勇者にさせていたんだろう」


「その通りです」


「ああ、もう!」


 エリーは、我慢ならなくなり、大きな声をあげる。


「盛大にすれ違いじゃないですか。先生は女心理解していないし、女神様は腹わって話さないし、いいですか。今後は、痴話げんかで世界巻き込むのやめてください!」


「……すみません」


 女神は、自分の百分の1程度しか生きていない小娘に説教されて、頭を下げた。


「ははは、お前には敵わないな」


 レイは、頭をかきながら言う。


「お前は、サイボーグなんかじゃなくたって、役立つ強い女だよ」


「わかればいいんです」


 三人は笑いあった。


「それで、リナ転生先はどうするんだ? ホムンクルスじゃなくてもいいぞ」


「せっかくあなたが準備してくれたのです。ホムンクルスでお願いします」


「よしなら、準備しよう。アルファ、リナの体をここに連れてきてくれ」


「はい。マスター」

 

 アルファは、キャンピングカーに積んでいたリナのホムンクルス体を遠隔操作で運び込んできた。

 

 レイは、カプセルに組み込んであるアームを使い、額の真ん中にメスで切り込みを入れる。

 さらに丁寧なアームを操作すると、脳波測定装置のチップを埋め込んだ。


「これでよしと」


「先生。無理矢理、機械人間にされた子供も、女神様と同じように元に戻せますか」


「理論はできた。今の俺の実力ならある程度、写真などから遺伝子情報も推察できるし大丈夫だろう」


「よかった……」


「だが……結局、それだって、神や魔王とまで呼ばれた俺たちのエゴかもしれない」


 レイの言葉に、女神が頷く。


「そう……ですね。ですが、本来、生命は自分の意志で生まれてきたわけではなく、初めから他者の意志によって世界に産み落とされるものです」


「そうだな。だからこそ、どう生きたいのかを選べるようにしてやらないとな」


 人は進化の岐路に立たされている。 


「さあ、子供達の前に自分たちがやってみせないとな。リナ覚悟はいいか?」


「どうするんですか?」


「まずは同じ人格データであるアルファとリナを融合させて、データを安定させてから、脳に搭載された脳波チップに人格データをダウンロードする。端末間の移動が得意なアルファなら問題なくできるはずだ」


 レイは、落ち着いた声で論理を説明する。

 もはや失敗の余地はない――そう言わんばかりの堂々とした態度だった。


「頼むぜアルファ、リナと融合してくれ」


 レイの自信に満ちあふれた指示に対して、アルファの返事の間が開いた。


「ん? アルファ」


 レイが、怪訝に思ってアルファを見る。

 ホログラムのアルファは、ほんのわずかに視線を落とし、唇を嚙むようなしぐさをして見せる。


「……マスター、嫌です」


「なんだって?」


「マスター……。私は、創造主とは融合したくありません」


 それはアルファが初めて示した明確な拒絶だった。


 それから、影を残すようにアルファのホログラムは消えてしまった。

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