18.激闘! 対決勇者
敗北した者は、逆転を願う。
なにをもってしても、叶えたいならば、反則にすら手を染めなければいけない。
覚悟を持って、想いが限界を超えた時、究極の進化へと至る。
それは、すなわち転生。
自らの遺伝子を書き換え、
本来の人の身を捨て、
新たな生を手に入れた
生命の頂点に立つ者。
究極生命体ホムンクルス
魔王レイブル・ホワイトブレイン
それが、彼の本当の名だった。
◇ ◇ ◇
いつになく真剣な眼差しで、勇者を見つめるレイをエリーは、ゆっくり見上げた。
黒き髪に、はためく白衣。
絵本にすらなっている。
倫理観もなく、世界を混沌に貶めた
かつての魔王がそこにいた。
「先生?」
エリーは、思わずいつものようにレイを呼ぶ。
それには、ほんの少しだけ畏怖の念が込められていた。
レイは、そんなエリーにいつもの顔で笑いかける。
「エリー、そんな心配そうな顔をするな。かつて魔王と呼ばれていても俺は、いつもと変わらない」
「……はい」
いつもの雰囲気で話すレイに、エリーは、ほっと吐息を漏らす。
「だが、あいつに対しては、恨みがあるのは本当だ」
レイは、エリーにブラスターガンと端末を持たせて、注射器を取り出しながら続ける。
「だから、エリー、手を出すなよ。あいつだけは、俺の手で倒してやる」
レイは、勇者に正面から向き合った。
勇者は、剣をレイに向ける。
「さあ、そこの娘に別れは告げたのか魔王。お前はこの手で再び倒してやろう!」
勇者は、腕を開き、そこについていたキーボードでコマンドを入力した。
『パワーオン』
勇者は全身のモーターをフルパワーで稼働させて、レイに斬りかかってくる。
レイは、勇者を見ながら腕に注射器を打ち込んだ。
「お前に倒された四天王の連中の遺伝子の力みせてやる!」
レイは、そのまま踏み込むと勇者の両手を掴み、押しとどめた。
「そんなタンパク質の体で、俺のパワーをどうにかなると思ってるのか!」
レイは、瞳を光らせながら、力強く言った。
「ああ、思っているさ……。今こそ、その力見せてやる!」
レイの体は、注射器を打ち込んだところから禍々しい赤黒い色に変わっていき、頭から角が生えた。
究極理論『究極生命体タイプ大鬼』
レイは勇者の剣を両手で受け止める。
圧倒的パワーを繰り出してきた勇者を押しとどめる。
足を大地にめり込ませて受け止めるも勇者の勢いは完全には止まらなかった。
「こっちがパワーは上のようだな」
勇者の言葉に、レイは余裕の笑みを浮かべる。
「オーガの手が二本しかないなんて、だれが決めた?」
メキメキと音を立て、レイの背中から二本の腕が生える。
二本の腕は、握り拳をつくると、横から力強く勇者の体を殴り飛ばした。
「ぐっ……!」
勇者は、転がり受け身を取りながら、すばやく次のコマンドを入力した。
『スピードオン』
勇者の身体のあちこちから、推進器が展開される。
「次は、こいつだ!」
レイは、その様子を見ながら、新たな注射器を打ち込む。
勇者は、全身のブースターを点火すると、ものすごい勢いで突っ込んできた。
レイの上半身は、灰色がかった毛で覆われ、顔は獣じみた形状に変貌していた。
究極理論『究極生命体タイプ人狼』
「ワォーン!」
レイは短く咆哮すると、勇者の突撃を、華麗に回避する。
「なにッ!?」
勇者の推進力を遥かに凌駕した動き。
壁を使い、反動を利用して、鋼鉄をも引き裂く強靭な爪で、勇者の腕を攻撃した。
「こっちのスピードの方が速いはずなのに」
たまらず勇者は、逆噴射して、距離を取ろうとするが、レイは一気に間合いを詰めた。
「お前の動きは、分かりやすいんだよ」
人狼の圧倒的スピードは直線ではなく、獣的な筋肉のしなやかさを活かしたものだった。
硬質化した爪は、的確に勇者の体の推進部分を切り裂き破壊していく。
「くっ、一時撤退する」
再び勇者が、コマンドを入力した。
『ミラージュオン』
勇者の姿が、光学迷彩によって、完全に見えなくなった。
「先生、勇者の姿が……!」
「わかってる」
レイは冷静に、そのまま新しい注射器を打ち込んだ。
瞬間、レイの体から毛皮が分離し、無数の蝙蝠に変わった。
究極理論『究極生命体タイプ吸血鬼』
蝙蝠たちは口を開き、高周波の超音波を放った。
「そこか!」
レイの体中の血液が空中で凝結し、何もなかったはずの空間に突き刺さる。
「ぐっ……。動けない!?」
血液が粘着質の鎖となり、勇者の体を捕縛した。
「とどめだ!」
レイは、最後の注射器を腕に打ち込んだ。
究極理論『究極生命体タイプ竜人』
瞬間――レイの体は爆発的に変異し、肌は黒い鱗に覆われていった。
背中からは骨のきしむ音と共に、巨大な翼が生え、指先は鋭い鍵爪へと変貌する。
筋肉が膨張し、瞳孔が短く縦に割れた。
その姿は、まさに――漆黒の竜。
「グオオオオォォォン!」
天地を震わせる咆哮が響き渡る。
レイは大きく翼を翻し、瞬時に上空へと舞い上がった。
口を大きく開けると、喉奥で凄まじい熱量が凝縮されていく。
次の瞬間――、
轟音と共に灼熱のブレスが放たれた。
純粋な破壊の奔流が、一直線に勇者へと襲い掛かる。
ドォオオオオオオオン!
炸裂する爆炎。
「ぐはぁあああ」
全身の装甲が焼き尽くされて、勇者の内部機構が剥き出しになった。
「エリー銃をよこせ!」
元の姿に戻ったレイは、エリーに指示を出す。
「はい」
エリーは短く返事をすると、レイに向かって銃を投げる。
レイは華麗に、銃をキャッチすると、勇者に向かって銃を構えた。
「これで終わりだ!」
銃の引き金を引くと電磁パルスを圧縮したエネルギー弾が勇者に炸裂する。
「……本体を起動」
勇者はそれだけ言い残し、機能を停止させた。
「先生、今勇者、『本体起動』って言いましたよね? ……!?」
その瞬間――
地面が揺れ、大地が裂けるようにして、中から巨大な影が姿を現した。
「えええええ、なんですか!?」
先ほどの勇者が数十倍のサイズになって立ち上がっていた。
「あれは……、500年前に俺たち魔王軍を壊滅させた巨大勇者だ!」
「ど、どうするんですか!? あんなの」
「500年前、俺があれに襲撃を受け敗北したときの気持ちがわかるか?」
レイは、落ち着いた表情で、巨大勇者を見上げながら、エリーに問題を出す。
「え、えーと、ずるいとかですか」
「違うに決まってるだろう!」
レイは拳を握り、歓喜に満ちた笑顔を見せた。
「俺も欲しいだ!」




