17.換装! 改造少女
弱き者は、力を欲する。
たとえ代償として、己の身体の一部を失おうとも。
渇望が限界を超えた時、人智を超えた研究者の手によって、変貌を遂げる。
それは、すなわち改造。
絶望すらも、今、究極の力に変わる。
◇ ◇ ◇
「いくぞ。エリー」
組み上げた新たなパーツを持って、レイはエリーに声をかけた。
「本当は、嫌なんですけど……はい」
小さく息を吐きながら、それでも覚悟を決めたエリーは頷いた。
レイはニヤリと笑うとタブレットのボタンを押す。
――換装合体「改造少女、高速形態起動!」
瞬間、エリーの義肢の接続部分が青白く光る。
装甲が音を立てて変形し、内部構造があらわになる。
ホークンから抽出した新たな駆動系を取り込み、流線形の装甲が組みあがっていく。
究極改造少女エリー、上位修正完了。
壊れてしまい――いや、壊れたからこそ、生まれ変わった手足。
エリーの手足は、新たな力へと昇華され『進化』していた。
「わぁあ、わぁ? わぁ……なにこれ?」
エリーは目を瞠り驚く。
新たな手を開いたり閉じたり、足を持ち上げたりと嬉々として動かして見せた。
「元々壊れた時のことを考えて、接続部を切り替えしやすいパーツにしておいた。もちろん改造パーツはまだまだあるぞ」
レイは、接続部品を取り出して見せる。
ちらりと見えた白衣の裏側には、同じような部品がまだ沢山仕込まれていた。
最初から、機械人間の上位パーツを手に入れたら、エリーを改造しようと思っていたことが丸わかりである。
「……だから、いつも勝手に」
エリーがさらに抗議しようとした瞬間――
ガシャンと、甲高い音を響かせて、戦場に新たな影が立つ。
「我はエヴァンス、最強の剣なり」
鋼鉄の装甲に無数の刃を備えた機械剣士――まさに戦闘のために生まれた存在だった。
「ああ、もう来た」
敵を目の前にしても、エリーは呆れたように呟いた。
「いかにお前の体が丈夫だろうが、我が剣に斬れぬものなし!」
エヴァンスが宣言すると刃は黒光りし、表面には流動するエネルギーラインが走った。
刃がわずかに動いただけで、空間が軋むように鳴り響いた。
そして――剣が振り下ろされる。
しかし、その瞬間。
エリーの体が揺らぎ、消えた。
「はぁッ!!」
エリーは、生物の限界を超えた動きで、
敵の背後に回り込むと、渾身の拳を叩きつけた。
「グふぁ」
エリーは、吹き飛ぶエヴァンスを追うように踏み込み、モニターに映る弱点を正確に殴りつけた。
問答無用の超絶ラッシュ。
超高速で殴りつけると、エヴァンスは一瞬で動きが鈍くなっていた。
「やぁあ!」
エリーは、渾身の力を込めて、エヴァンスの胸部に拳を叩き込む。瞬間――。
「とどめだ!」
レイが飛び込み、完全にチャージされたブラスターガンを撃ち込んだ。
轟音と閃光が戦場を貫き、煙をあげてエヴァンスが倒れていく。
「よし! 素材ゲットだぜ」
煙をあげて倒れていくエヴァンスを見ながら、レイはガッツポーズをした。
「あああ、もう先生は、敵の機械人間をドロップアイテムか何かとしか思っていない……」
敵が倒れて、ドロップアイテムを落とすなど、ゲームではない現実ではありえない。
だが、機械人間は、存在そのものに価値があった。
レイは的確に、エリーの改造パーツとして使えそうなものだけ分解していく。それから、小型の車の形に組み上げていく。
「先生、それ……なぜ、車の形に?」
エリーが不思議そうに尋ねる。
「それはな……またカモがきたみたいだぞ」
レイが、説明しかけたところで手を止め、そのまま現れた集団を指さした。
現れたのは、装甲が厚く、まるで移動要塞のような機械兵団だった。
「我らの防御力と火力の前に、どんな敵も無力――!」
「いくぜ! エリー、換装合体だ!」
「またですか!? もう。えーと、はい!」
エリーは、戸惑いながらも応じる。
レイは、端末のボタンをおすと、組み上げたばかりの小型車が自動起動し、エリーに向かって突進する。
――換装合体「改造少女、近接形態起動!」
車から分離した手足が射出されると、エリーの体に次々結合していく。
装甲が強化され、腕部には新たなブレードユニットが形成された。
エリーは、モニターに表示された文字を読み上げる。
「超振動ブレード、起動」
エリーの腕から、まっすぐな剣が展開される。
それは先程、エヴァンスが全く威力を発揮することができなかった武器だ。
シュンッ――!
刃が空を裂くと同時に、敵の装甲が紙のように切り裂かれる。
「力の差は、歴然です。ここは、停戦しませんか?」
圧倒的な力を見せつけたエリーは、敵に提案した。しかし。
「俺たちに死はない! 物量で押しつぶしてしまえ」
死をも恐れない、機械人間は自らの体をの突撃にエリーは押され気味になる。
「先生!」
敵の対応で、モニター表示を見ることができないエリーは、レイに助けを求めた。
「わかってる」
レイは、タブレットを取り出すと、エリーの遠隔操作モードを起動する。
「超振動多段ブレード、起動!」
エリーの体からさらに無数の刃が飛び出す。
飛び出した刃が、目の前で集まると、円形に集まりだした。
「スピンホイール」
ギュインンン!!!
回転する無数の刃が、相手の突撃力を利用して、巻き込み。
「ぎゃあああ」
後ろから押されるため、引くことができなくなった機械人間たちは、回転鋸に自ら飛び込んでいき、次々に粉砕されていった。
「こうなったら、遠くから爆撃だ」
作戦を切り替えた後衛の敵達が、ミサイルポッドを構えた。
「させるか!」
レイは、明らかに爆撃体勢に入った個体だけを選び、遠距離形態に変形したブラスターガンで狙い撃っていく。
あっという間に、敵は瓦礫の山になってしまった。
「やっほぅ。見てみろエリー宝の山だぜ!」
破壊し山積みにした機械人間の前に、レイは歓喜の声をあげた。
「あああ、襲い掛かって来ているのを撃退しているだけなのに、敵が不憫なのはなぜ……?」
エリーも、敵がカモがネギを背負ってやってきてるとしか思えなくなってきて、頭を抱えた。
そんなエリーをよそに、罪悪感など皆無なレイは、ガンガン機械人間たちを分解していく。
「よし、次は、こいつだな」
レイは、分解したパーツを利用して、今度は小型の戦車のようなものを組み上げていく。
「我ら天空部隊の前に手も足も出まい」
空を覆いつくすように、機械人間たちが襲い掛かってきた。
「いくぜ! エリー」
「もうやけくそです! はい!」
――換装合体「改造少女、対空形態起動!」
戦車から四つのパーツが分離する。エリーの足はキャタピラ付になり、腕には大量のミサイルの発射装置が装着される。ガシャンと、地面にアンカーが打ち込まれエリーの体を支える。エリーのモニターには、マークが現れ敵を補足していく。
「ターゲット全機ロックオン」
エリーの声と共に、体についた、砲台が展開される。
「フルファイヤー!」
鋼鉄の空を引き裂く無数の閃光。
ズドォォン!
ミサイルが次々に発射され、爆発の衝撃が広がっていく。
撃ち落とされた機械人間たちにレイは、ブラスターガンで追い打ちをかけていた。
「よっしゃあ! 今度は飛行形態ゲットだぜ!」
レイは壊れていない部分を分解して、戦利品を手に喜ぶ。
「いやぁ。DIYは楽しいぜ」
白衣から取り出したエナジードリンクを飲みながら、レイは戦う前より元気に言う。
敵を倒し終わったエリーは、げんなりしながら抗議した。
「兵器開発をお家の家具作るみたいに言わないでください」
「何言ってるんだよ。これで、どんどんエリーは強くなるな」
「先生。確かに私は強くなりたかったんですが、なんかこう違うんですよ」
「なにがどう違うんだ? エリーは強くなってるし、役に立ってるぞ」
「そうじゃなくて……」
エリーは、努力とか自分の気持ちとか、何の関係もなしに強くなっていく自分の体に困惑していた。
「俺にも分かるように、論理的に説明してくれ」
なんにもわからないレイは、首をかしげる。
「あああ……」
エリーは自分が強くなっていっているが、ただの兵器になっていくような気持ち悪さを感じていた。
だがそれを、うまく説明できないもどかしさに、エリーは両手で顔を覆った。
「もうお嫁にいけない」
嘆くエリーに対して、レイはサムズアップして言った。
「大丈夫だ。俺も千年生きてるが、婿に行ったことはない!」
「なんの慰めにもなってない!」
換装合体「改造少女、高速形態」
エリーは、一番最初に倒したホークンの駆動系を組み込んだ元の体にもどる。
「あとは、水中形態もほしいなぁ。さすがに陸地じゃ、無理か」
「まだ私を強くする気ですか……」
敵を倒せば倒すほど、まさにレベルアップだった。
「これで、かなり減ったんじゃないか?」
「また復活しますよね」
エリーの両親がそうだったように機械人間は、人格のバックアップデータがあれば、蘇生することが出来る。まさに不死身の存在である。
「あくまで、人格はそうだな」
「というと?」
「復活するためのボディは作らないといけないという意味だ」
「確かにそうですね」
「あっちもリソースがあるからな。機械人間一人つくるにも相当の労力がかかる。この調子なら余裕であっちの製造ペースをこっちの破壊力の方が上回れそうだぞ」
レイの楽観的なエリーは、呆れる。
だがその時だった――。
――轟音。
それは、ただの衝撃音ではなかった。
大地が揺れ、空が裂ける。
レイたちの前に、なにかが飛来する。
「……いったい何が?」
エリーが思わず顔をあげる。
そこにいたのは、一人の機械人間。
今までの、機械兵団の隊長たちとも、比べ物にならないほどの威圧感を放っていた。
その者の名は――。
「我が名――勇者『アーク』」
機械の躯は圧倒的な威圧感を放ち、全身からは強大なエネルギーが脈動しているのが見て取れる。
手には圧倒的存在感を放つ光りの大剣。
そのいでたちは、まさに勇者。
「ラスボスがもうお出ましか。気が早いじゃないか」
レイは、まるで旧友にでも話しかけるように軽く言った。
しかし、アークの瞳の怒りの色が増す。
「よくも、部下達をやってくれたな」
その声には、静かな怒りが滲んでいた。
「何言ってるんだ。お前達機械人間は、バックアップデータから復活できるだろう。それに……先に俺の部下を殺したのはそっちだろう」
「……先生?」
エリーが戸惑いながらレイを見つめる。
「部下って……?」
エリーは、レイの言葉の意味が分からず、尋ねた。
レイは、答えなかった。
ただ静かに、語り始めた。
「500年前……」
その言葉が発せられた瞬間、エリーの背筋が凍り付いた。
いつも飄々としているレイの声音が、どこまでも冷たい。
「俺の仲間たちを殺したお前を、忘れた日はなかった」
いつもはおどけているようなレイが見せる本気の怒り。
「なんの話をしている?」
「あのころと姿は違うが、勇者のくせにまだお前は俺が誰か分からないのか?」
「お前は、まさか」
「先生は、もしかして……」
すべての魔女の師にして――
すべての魔物と魔族の生みの親。
そして、すべての生物の頂点に君臨する者。
その存在を人は魔王と呼ぶ。
その魔王の名を勇者は呼んだ。
「魔王レイブル・ホワイトブレイン!」
レイは、白衣を翻しながら言う。
「さあ、勇者。リベンジ戦といこうじゃないか」
今、再び伝説の戦いが始まろうとしていた!




