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 店は保が思ったよりはいていて、客は数人の客がひとかたまりで隅のテーブルにいるだけだった。カウンター席には誰もいなかった。

「いらっしゃい! …なんだ、岸田さんじゃないですか、さっ! どうぞ」

 冷麦ひやむぎの主人、室川むろかわが保を見て、すぐ声をかけた。

「ああ、ありがとう…」

 保は室川に勧められるまま、カウンター椅子に座った。店員はニ名で、室川と若い板前が調理していた。

「親父さん、ひとり増えたね」

「ああ、こいつですか。まだ、半年ばかりですがね、よく、やってくれます」

 その若い板前は水コップを置きながら、照れて軽く頭を下げた。大学を卒業するまではよく店に通った保だったが、ここ一年以上、遠ざかっていた。そんなことを思って水を口に含むと、室川が箸と突き出しを置いた。前と同じ料理だ…と、保は過去を振り返った。

「ビールにしますか? 酒で?」

「ああ・・取りあえず、生を小で…。連れが来るんで・・」

「さよでしたか…」

 話しながらも室川の手は小忙しく動いている。職人だ・・と、保は思った。出されたジョッキをひと口飲み、突き出しの鶏ささ身の味噌焼きを頬張ったとき戸がガラッ! と開いて、中林が入ってきた。


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