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 その日は切りがいいところで研究室が早仕舞いになった。最近の保はコンビニとかは別として、飲むことなく帰宅する日が増えていた。まあ、沙耶との新婚気分だから・・といえばそれまでなのだが、そんな保の内情を知っているのは馬飼商店の中林くらいだった。その中林とは夜中の携帯以来、コンタクトがなかった。保は久しぶりに中林に会いたくなった。携帯を握ると中林を呼び出していた。メールという手もあったが、声を直接、聴きたかったのだ。研究室は皆が帰ったあとで、誰もいなかった。

「やあ、俺だ。久しぶりだな。今夜どうだ」

「おお岸田か。…いいぞ! 終ったらな。何時だ」

「そうだな…、7時でどうだ。いつもの店で」

「よし! じゃあな…」

 いつもの店とは、ジャンジャン横丁の冷麦ひやむぎという大衆小料理屋だった。大学時代から二人がここでよく食べたり飲んだりした馴染みの店である。保は携帯を切ると、今度は沙耶を呼び出した。遅くなることを言っておかないと料理がオジャンになってしまうからだ。いや、それよりも、沙耶のお冠を避けた嫌いがあった。沙耶には、怒るというよりはねる低いレベルの感情起伏システムが組まれていた。怒られては行動パターンが乱れ影響が出るから、制御システムで抑制しながら拗ねさせる高度なプログラムだ。あたかも新妻が夫の帰りを催促しながら膨れる程度のプログラムだ。

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