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304/310

-304-

「そうか…。こっちは上手くいったよ。エアカーは、しぱらく別荘へ保管しておくそうだ」

『そう…』

 ただ聞き流した風に外見上は見える沙耶だったが、思考は三井と話した最適な実効日を模索していた。その証拠に、保が寝静まった深夜、沙耶は三井に携帯をかけていた。

『そうなのよ。しばらく別荘へ保管するそうよ』

『そうですか。ことによるとパーツに分解されて研究室へ戻ったんじゃないかと思っておりましたが…』

『その心配は、なかったようね。それじゃさっそく近々の時期を選ぶことにするわ。それで、いいわよね?』

『はあ、私の方はいつでもOKです。それに、先生に年一回お見せしている会計帳簿の提出時期が来月に迫っておりますので、それまでの方が…』

『電話代でしょ? 見りゃ分かるわよね。私達って、かなり、かけ合ってるから…』

『そうなんですよ。お金の出費は、いくら額が大きくても、何も仰せじゃございませんが、使途については、ある程度、目通しされますから…』

『電話代だけが突出してるわよね』

『はい、前年度に比べればその通りでございます。沙耶さんの方は?』

『私? 私は大丈夫よ。会計簿は私が預かってるから。見せたことなんか一度もないわ』

うらやましい話ですね。…それじゃ、長電話になりますから、この辺りで。飛ぶ日が決まりましたら、またお電話、下さい。正午から10時以降の深夜で、お待ちしております』


-305-

『分かったわ。それじゃ、故障なくね…』

 沙耶は静かに携帯を切った。

『さてと…、私もそろそろ停止するかな』

 停止とは、人間でいう睡眠である。

 次の日、保はいつものように愛妻弁当ならぬアンドロイド弁当を持って出かけていった。その後の沙耶は食事の片づけ、掃除、洗濯などの雑用を済ませた後、部屋へ戻って椅子に座った。机の前にはカレンダーが置かれている。沙耶はそれをじっと見つめると、やがて静かに両瞼りょうまぶたを閉ざした。カレンダーの画面には内臓データとして画面ごとメモリー回路に保存される。そこへ三井と話し合った二人? の消滅時期のベストタイミングを模索するデータが送り込まれ、解析されていく。約10分後、沙耶は静かに瞼を開けた。

『この日がベストね…』

 沙耶は目の前のカレンダーを見ずにつぶやいた。同じカレンダーの映像は沙耶の思考回路に映し出されていて、解析の結果、最適の日と確定された日が点滅していた。しかし、結果が出たからといって飛ぶ日と決定する沙耶ではない。保の分析データも加味し、最終判断にするつもりなのだ。三井への連絡は、その後ということになる。幸い、保が困惑しないように作成入力したファイル等は完璧に終了したから、問題はなかった。最後に一つ迷うのは、完全に保との音信を絶つか・・ということだった。すなわち、人間なら完全な失踪状態に入る訳であり、そういう形にするのか、あるいはホットラインだけでも残しておくのか、ということだ。

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