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「おお、左様か! 頼みおく」

 長左衛門は顎鬚あごひげをゆったりと撫でつけた。上京して二日目の朝である。里彩は夏休み中だし、勝夫婦には四、五日と言ってあるから、そう急くこともなかった。 沙耶がボランティアを一つ終わらせたことで、ようやく保にも少し心の余裕が出来つつあった。もちろん、長左衛門が上京していることを知らないからで、研究室で行う飛行車のプレゼンテーション原稿にも集中できた。キャド(コンピュータ設計支援ツール)の80%以上は沙耶が組み上げ、保はオペレート(操作)するのみで事足りたのだ。心のわだかまりが失せ、保のテンションはここしばらく高まっていた。

 時を同じくして長左衛門達が宿泊するホテルの一室では、三井が綿密な情報と行動パターンを計算していた。沙耶もそうなのだが、三井の場合もメモ書きなどの人の作業は不必要だった。纏められた結果は、すべて記憶データの中へ送り込まれ蓄積されていくのだ。岸田保…?マンション…?建築構造…?号室といった、あらゆるデータである。

「どうじゃ、三井…」

 隣室の長左衛門が姿を現した。三井はそのとき、大まかながらも行動パターンを纏め終えていた。

『はい、先生。ある程度は大丈夫なようです。と、申しますのは、沙耶さんが存在する場での行動に関しては私もどのようになるか、残念ながら描けません』

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