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『来るべきものが来たようね。まさに、目に見えない敵だわ。ガードしようがない』

 保の横に並んだ沙耶が静かに言った。保は、「ああ…」とだけ呟いた。「おはよう…。んっ!? また連れてきたのか…」

 研究室には、いつものように但馬が先に来ていた。

『おはようございます!』

「おはようこざいます。いや~そうじゃないんです。マスコミが、うちのマンション前で張ってるもんで…」

「んっ? それで連れてきたの? どういう関係があるんだ?」

「いや、関係はないんですが…カムフラージュですよ、カムフラージュ」

「まあ、どうだっていいがな」

「それより、但馬さんのところも番記者、来ませんでした?」

「ああ、いたいた。振り切って来たさ」

「でしょ!? 連中、なんとかなりませんかねえ」

「私に言われたってな。そのうち飽きて、いなくなるさ、ははは…。人のうわさも七十五日って言うじゃないか…」

 但馬が上手く言ったとき、藤崎がいつものアフロ頭を揺らせて入ってきた。

「おはようさんです…。大変でしたわ、出るとき。あっ! いつぞやの娘さんや! おたくら、どもなかったですか?!」

『おはようございます』

 いつもの関西訛なまりで藤崎はロッカーから白衣を出しながら言った。

「今、それを話してたとこだ」

「やっぱり…」

 後藤が頷いたあと、山盛教授がドアを開けた。


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「おはよう…。おっ! 岸田君のお従兄妹さんでしたか。…まっ! それはそれとして、入口で警備員の矢車やぐるまさんに冷やかされたよ。ノーベル賞がどうのこうのってさ、ははは…」

『おはようございます。私は若林の従兄妹です』

「そうでしたっけ? 若林? はて、だれでした? まっ! どうでも、いいんですが…」

「若林は友達です。沙耶は預かってるんです」

「そうなの?」

 保は頷いて、ほっ! とした。沙耶との関係が上手く修正できたからだ。そして、あの老警備員、矢車というんだ…と知った。

「教授、これから私らはどうなるんでしょ?」

 心配顔で但馬がたずねた。

「なるようにしか、ならんよ、但馬君。そう、気にせんと…」

 教授が但馬を慰めた。

「そりゃ、そうなんですが…」

 保は黙っていた。

 その数日後、一転してマスコミの足が研究所から遠退いた。新館入口の取り巻き記者達も、いつの間にか姿を消していた。それもそのはずで、夕方のニュースでノーベル賞受賞が見送られた決定の報道が、まるでお通夜のようにアナウンサーから流れたのだった。お通夜は、なにもテレビニュースだけに限らず、次の日の研究室内でも同じだった。山盛教授の表情はどこかうつろで、まるで生きる希望をなくした一人の哀れな老人のように保には見えた。

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