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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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069 最初で最後の2人だけの食事会

 俺らが穏やかに、穏やかじゃない話をしている所に、男が寄って来た。

 初老でロマンスグレーの髪が品よく爽やかにキマッたウェイターだ。


 彼はレニに向かい丁寧に「村長様、今日は?」と訊いて来た。

 それに対し彼女は「魚のコースを」と言い、目顔で「アンタは?」と聞いてきた。奢りってことかな?(笑)


「じゃ、俺は肉のコースで。」


 俺の答えにウェイターは上品に静かに下がり、彼女の方は呆れた様に俺を見た。


「分かっちゃいたけど、アンタ結構いい度胸してるわね。アタシが毒を盛るとか考えないの?」


 俺は薄く笑った。


「まだ何の話も盛り上がってないこの段階でそんな事すんなら、アンタの性格なら最初から殺ってるだろ?それに俺らが毒への耐性を付けてるのはアンタはよく知ってるはずだ。」


 なんせ旅の初っ端から一服盛られて危機を招いている。

 その後も何度か同じまではいかずとも似た様な目にあった俺らは途中で完全にキレて、珍しくアイーシャに詰め寄って対策を要求した。その結果が毒耐性の付与だ。

 

 俺の使っているような特殊かつ即死系の猛毒やAクラスレベルの魔獣の毒以外は俺らには効きが弱い。魔獣で言えばCクラス程度の毒や人間に対する睡眠薬、シビレ薬程度だと全くといっていいレベルで効かない。

 そしてその毒耐性を用意したのは7人の中で最も毒に詳しいミリーで、それを耐性魔法として準備したのはリリアだ。なのでレニも当然、そのレベルも中身も知ってる。今の俺に毒を盛るなら、状態異常系は全く無駄だから即座に殺す気の毒を用意するしかない。

 そして何よりここで速攻殺すつもりなら、最初からわざわざ自分で足を運んで会いには来ないだろう。


 ウェイターが下がると今度はウェイトレスがやってきて、隣の後ろでドロドロになってる何かに目をやって予想通り驚いた様子もなく「村長様、席をお変わりになりますか?」と聞いた。

 対する彼女が無言で頷くと、ウェイトレスは少し離れた席を指してこちらへと案内し、俺らはそちらの席へ無言で移った。元の席はウェイトレスがモップで掃除している。


 田舎の村の唯一の店で、かつ村長もお出ましになる地域一番店の料理はリバードアの高級店よろしく軽いサラダから始まった。

 白髪のウェイターが行儀よく俺らの前にサラダを置いて音もなく下がると今度はレニが先手をとった。


「アンタ、国王陛下がアンタ達の始末を命令したとか思ってない?」

「違うのか?」

「違うわ。」


 ちょっと俺を出し抜けたからだろうか。彼女は小さくドヤ顔した。


「アタシらに命令したのは王太后陛下よ。国王陛下は王太后陛下のご助言に従ってアタシらを付けただけ。」


 成程。彼女達は元々は淑女騎士団だからそっちの方が命令系統としては近いわけだ。けど…


「王太后?王妃ではなく?」


 一般的だと思う俺の問いに彼女はハナでせせら笑う様に言った。


「王妃様はそういうお話にアタマが回る様な方じゃないわ。」

「なんだそりゃ?」


 俺の「意味が分からねえよ」という呆れ顔を見ながら、「アンタはよく知らないと思うけど…」と彼女は続けた。


 彼女曰く、当時俺らが会った国王陛下は前国王の6男だったらしい。しかも妾腹だ。


「当時の王室は王位継承権争いが裏で激しかったらしくって、妾腹の第6王子には王位継承権は殆どないに等しいのに、命だけは狙われ続ける運命だった、らしいわ。」


 その陰謀渦巻く王宮で、前国王の最後の側室で最年少でもあった王太后、当時の第4王妃は自らの息子を守り抜いた。のみならず、最終的には息子である第6王子を成人直前には王太子に引き上げる所まで成功させた。


「当然、当時は子供だった第6王子、要は当時の国王陛下にそんなマネは出来ないから、王太后陛下が裏で全てを取り仕切っていたの。」


 王位とはボクシングの世界チャンピオンではない。国という組織の頂点だ。

 だから強い事も重要かも知れないが、ただそれだけで成れるというものでもない。逆に言えば戦闘力が全てでもない。そんなものはなくとも戦うことは出来る。


 その一方でプロレスのチャンピオンとも違う。

 王座奪取、王座陥落はショーではない。一歩間違えれば母子ともに即座に地獄逝きが確定のガチンコ真剣勝負だ。しかもそれが勝利が確定するまで毎日続き、ややもすると勝利した後も続く。


 幼少の息子には当然、何の期待も出来ず、当時の国王の妾だか側室に過ぎない彼女は相当危ない橋を渡り続けたのだろう。どういうご出身でどういうご経緯で第4王妃になったのかは知らないが、彼女は永年に渡りそういう事が出来る女性だったのだ。


 そして更に数年後、前国王が死去して自らの息子が即位したのを見届けて、彼女は表向きは隠居した。リバードア、当時のイーストキャピタルを出て、田舎の離宮に引っ込んだのだ。

 

 だが、その種の権力者が田舎で穏やかに老後をお過ごしなはずがない。

 大きな会社で社長まで上り詰めた方は社長を退任した後に素直に引退する様なことはなく、会長、名誉会長、相談役と残り社内に影響力を及ぼし続けるのと同じだ。

 ちなみにこの言い方だけだとあたかも社長個人が権力の亡者の様に聞こえるが、社長の影響力を陰に陽に利用して出世してきた周囲もまた、それを望んでいる場合も多い。派閥争いの激しい会社なんかだと、派閥トップの完全な引退はイコール派閥そのものの瓦解、ひいては対立派閥への権力の移動、あるいはお家騒動に繋がりかねない。

 

 王太后のご引退が実際にはどういう形での引退だったのかはこれだけでは分からない。

 世襲を明らかにする為に引退した徳川家康の様に将軍職からは退いても公然と影響力を保持したのかも知れないし、後白河法皇の様に、そもそも引退(譲位)は日々日常の政務と責任は天皇とその周囲に押し付けて、自分はただ権力だけを存分に振るう為だっただけなのかも知れない。


 いずれにせよ一度手にした権力をスッパリ手放してファイアする人間などおらず、周囲も必ずしもそれを良しとはしない。


「でも王太后陛下は完全に引退したわけじゃなかったわけだ。」

「離宮から国を、国王陛下を守り続けたの。その実行部隊がアタシら、淑女騎士団よ。」


 俺もサラダを食べ終えたのを遠くから確認したウェイター氏が俺とレニの皿を同時に下げる。


「淑女騎士団は元々は後宮を守る女性だけの護衛隊から発展したんだけど、アタシらがいた頃のエリートコースは後宮隊でもアイーシャとリリアのいた1番隊でもない。王太后様のいる離宮に詰めていた離宮隊だった。」

「アンタらへのエサはその離宮隊への配属か。」


 俺の言葉に彼女は薄く笑って否定はしないが微かに首を振った。


「淑女騎士団で上を目指していたアイーシャやリリアはそうだったって聞いてるわ。」


 そして更に薄笑いを濃くして意地悪く付け加える。


「特にアイーシャは年齢的にそろそろ第一線はヤバかったから、真剣だったんじゃない?」


 詳しくは聞いてない(聞けない)がアイーシャは俺らと旅立った頃は今の俺より少し年下ぐらい。魔王城に辿り着いた頃は30を超えて…はいないがマサさんと同じ25、6のアラサーだったはずだ。

 第一線で活躍するプロスポーツ選手だって30代に近い年齢になるとポツポツ引退というのが視界に入ってくる。彼女も体力的な面からそろそろ最前線での斬った張ったからは退いて後方で指揮する側に回りたかったのは理解出来る。


 しかし俺が「テメエ、殺すぞ!」という目で睨むと彼女は苦笑いで両手を挙げた。


「ごめん。別に悪く言う気はなかったわ。アンタらみんなアイーシャ大好き人間ばっかだったもんね。」


 言い方はともかくレニの言う通りだ。少女漫画から抜け出て来た様な凛々しい女騎士そのものだった彼女を俺ら3人とも好きだった。立場は彼女は女組の隊長だったが、実質的には彼女が全体の隊長として俺達を率いてくれたのだ。その彼女を俺ら3人は頼れる姉御、麗しい姉御と慕っていた。

 …決して彼女のバインバインだけが好きだったわけじゃないよ。


 そのアイーシャの年齢的な葛藤は置いておくとして、リリアはどうだったかは分からない。

 彼女は俺と年齢が近く、しかも後衛の白魔法使いだ。魔法使いは一般的に最前線を張ってたアイーシャ程には体力勝負ではないから、アイーシャ程、切実な話ではなかったはずだ。


 けど組織で偉くなりたいはごく一般的な欲望で、人類の発展に貢献したいとか地球環境を守りたい、世界を平和にしたいとかって大掛かりな理由は必要ない。仕事の出来不出来、あるいは自身の才能の度合いから「俺には社長とかムリだわ!」とか自然体で言えるのは、自身への理解が相当進んだ40も50もなってからで、20代は夢を抱いているのが殆どだ。

 だから逆に、ウチの会社に親会社から天下ってきていた偉いさんは、その夢を持ったまま50代まで来て、しかも能力も不足なく今迄出世を重ねて続けてきたのに、50も過ぎてその夢が突然断たれて一気にヤル気が無くなっていた。もっと若くしてトバされて来た連中も仕事の結果は別にしてもどこか投げやりな態度が垣間見える瞬間があった。

 無論、親会社から来た人間達は高学歴揃いで優秀、流行りの言葉で言えば地頭は良かったから仕事はキチンとするが、365日、深夜まで電気が煌々とついてる本社ビルに対し、俺らの会社は親会社からの出向組も含め遅くとも7時ぐらいには誰もいなくなっていた。

 ウチで過労死寸前まで働いても、もう最早その先に彼らの夢はないのだ。


 もっともこの辺りは自身の理解の問題だ。

 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶというが、情報が発達した今の社会では他人の歴史に学ぶのは賢者でなくとも出来る。

 俺にしたってFラン大卒が親会社の様な大企業に願書を出すなんぞ時間の無駄というのは、別にやってみたから分かったわけでもないし、昨今は管理職なんぞ良い事ばかりではないと予め学んだ層は、入社前から自分の能力、性格への理解を深め、銀行や商社などある種転勤、異動が当たり前な会社に入ってすら、最初から異動も転勤も昇進も断って現状維持だけを目標としていたりする。


 だけどアイーシャもそうだが、リリアも少なくとも白魔導士としての能力は高かった。

 俺なんかと違って自然体で出世を望んでいてもおかしくない。


「ミリーは?」

「旅が終わったら騎士団辞めて故郷に帰る気だったらしいわ。自分の故郷の村だか町だかをアタシと同じ感じで領地として貰う予定だったみたい。」


 ミリーは故郷へ帰るつもりだったのか。

 彼女からコレが終わったら一緒に猟師やらないか?なんて誘われた事もあったな。


「で、アンタは?」


 レニは両手を広げて周囲を指した。


「見ての通り、魔法の研究に適した場所の提供と研究資金、物資の援助。ここは程良い田舎で何してもそうは目立たないし、かといって都会からメッチャ離れてるってわけでもないから、道具とかの入手にもそんなに困らない。」


 彼女は次の皿が来る前に、席に深く座り直し、品悪く肩肘を突きながら顎を乗せ、もう片方の掌を上に向けた。


「こんなところよ。満足した?」


 聞きたかった話の1つは確かに聞いた。

 

 彼女達が上の指示もなく勝手に俺らを始末にかかったとは考えていなかったから、黒幕がいるのは不思議ではないし予想もしていた。その黒幕が国王ではなく王太后なのは予想外だが、今の俺にとっては大きな違いではない。

 だいたいどっちにしても今も存命かどうかは定かではない。特に年齢的に王太后の方はとっくに死んでる可能性が高い。


 だが、彼女の話は俺の知りたかった話を微妙に避けている。


 俺が聞きたかったのはWhoではない。Whyだ。


 何故、レニとリリアは俺達を始末に掛かったのか?

 確かに彼女達の立場からすれば上からのご命令、という事なのかも知れないが、それは俺の知りたいWhyではない。


 魔王も斃したのに何故、俺達を始末に掛かったのか?

 そして彼女達はそれに…その命令に何も思わなかったのか?


「……」


 俺は彼女を睨んだが、彼女は話は終わったとばかりに涼しい顔でスープを飲んでいる。

 

 俺は心の中で溜息をついた。

 

 理由は想像はしている。

 想像はしているが、出来れば彼女の口から言って欲しかった。

 

 けど、彼女がこの期に及んで自分から言う気はないのなら、俺からその気分の悪い想像を話すしかなかった。


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