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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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036 韜晦して堪能する

今回は早めの更新です。

「河か…」


 最初にこの河岸に来た時は、俺らは結構荒んだ感じだった。因みに場所は今とは反対側の河岸だ。


「結構、デカいな。」


 シイちゃんの言う通り確かにデカい。なんせ向こう岸は全く見えないのだ。行った事はないが、地球なら長江とかナイル河とかがこういうレベルなのかも知れない。

 河のデカさはともかく、呟いたシイちゃんの目は油断なく水面を凝視している。その視線を追ったアイーシャが言った。


「水中にはDランクのリザードマンがいます。ですが渡し船を使えば比較的安全に渡れるでしょう。」


 アイーシャの軽めな解説にシイちゃんは暗い疑いの眼差しを向けた。


「安全?安全ってのはどの程度の話なんだ?船ならリザードマンは全く寄らないのか?」

「渡し船は渡りの護符を使いますので、普通のリザードマンは殆ど寄り付かない、と聞きます。ただ時折、変種、というのがおりまして、これは寄って来ることがあります。ですが、大概は遠くからも見えますので船の護衛が危険のない距離で始末します。」


 暗い目付きが変わらないシイちゃんも含め俺らは全く納得しなかった。

 安全とか言われて、今まで安全だった試しはないのだ。


 俺と全く同じ思いのシイちゃんは手を緩めることなく問い詰める。


「変種の方が通常種よりも強いだろう?変種のランクは?」

「……」


 曖昧な説明を許す気のないシイちゃんの鋭いツッコミにアイーシャは口籠り、助けを求める様に周囲を見た。

 対するリリアは肩を竦め、ミリーはそっぽを向き、レニはアタシにフルなよ、とばかりの視線を返す。


「Cが大半ですが…時折ですがジェネラルクラスのBもいる、と聞いてます。」


 シイちゃんもマサさんも、そして俺も「そら!来たよ!」という顔になった。

 シイちゃんがうんざりした口調で言った。


「足場が悪くて、碌に移動も出来ない舟の上でランクB相手だあ?どこら辺が安全って評価になるのか、もう一度、丁寧にバカにも分かり易く教えてくんないかなあ?」

「そんなにビビんなくても大丈夫。リザードマンには魔法が良く効くのよ。護符の結界を潜れてもアタシのシールドを壊して寄っては来れないし、シールド前で止まってる奴らは、船の護衛か、マーサかタッカートの一撃で終わりよ。」


 ここにきて流石に助け舟の必要性を感じたのか、リリアがとって付けた様に笑いながら今更の様にアイーシャのフォローをしたが、シイちゃんは疑わしそうな眼差しを投げかけただけだった。


 ここまで来るのに俺らは実に半年近くをかけていた。

 途中に現れる魔獣が多くて強かったのも理由だが、もっと大きな理由は寄り道が多かった為である。

 寄り道と言っても食べ歩きやら観光とかではない。行く先々での頼まれ魔物退治である。


「勇者が来た!」というと皆、それなりに歓迎はしてくれる。

 が、その後は必ずと言っていい程、「でしたら…」と頼み事が入るのだ。


 勇者は有名人であってもアイドルではない。

 勇者への頼み事は当然「一緒に写真を撮って下さい!」とかって話じゃない。


 そしてこの寄道が旅を始めたばかりの俺らの体力と気力を疲弊させ、疑心暗鬼にさせていた。


「どっちにしろ水中戦闘とか船上戦闘とかは慣れてねえ。何か変な退治とかはここでは止めような。」


 マサさんが正面から先手を打った。しかもこれが何ら役に立たないのは俺らは3人とももう分かっている。


 俺ら3人の所謂勇者組は魔王を倒すと言う大目標があるが、実は隠れた目的もあるのがこの頃になると分かって来ていた。

 それは国王の人気取りだ。


 要は我々があちこちで手に負えない類の魔物退治を引き受けることで、国王は国民に対して「国民が直面している苦難に対してもきちんと手を打ってますよ」と説明できるわけだ。

 偉い人にありがちな華々しく発表して賞賛を受けるのは自分、成果は受け取るのも自分、実際に実行するのは部下、損害が出るのも部下、万が一、失敗すれば責任を執るのも部下、死ぬのも部下という事だ。項目数だけ見ると部下側が多いが、部下、即ちこの場合の俺らが受け取るのは全てマイナスポイントだ。


 特に俺らは勇者という肩書であるのが災いして魔物を退治しても捗々しい対価を受け取っていない、受け取れない、というのも事態を助長した。なんせ頼む方からすればタダなのだ。

 なので余計に来れば余分で厄介な魔物退治を頼み込まれまくったが、今考えると本来なら魔物退治は冒険者の稼ぐ市場で俺らはその市場経済を破壊していた様な気もする。地方の自治体から声を掛けられて気前よくタダで絵を描いて回った結果、地方イラスト市場を実質的に破壊してしまった著名作家の様な感じだ。

 彼が悪気なく気前よくロハであちこちで描いて回った結果、後進のイラストレーターや漫画家が自治体からの依頼を受けて正当な対価を要求すると「自治体が頼んでるんですよ?金盗るんですか!」とあたかも対価を要求する方が非常識かの如く声高に怒鳴りつけられる事態となってしまい、地方自治体需要という市場からは少なからぬ関係者が嫌気がさして静かに撤退してしまった。


 料金が値切られるとかなら分かるが、請求自体を嫌な顔される、挙句、怒鳴られるとかは誰しも想像してないし望んでもいない。

 そもそも仕事に対価を払うのは資本主義社会の鉄則だ。地方のど田舎の何とか市では市役所の職員や市議会議員は自分は神と思っており、普段は周囲からもそう扱われているのかも知れないが、全国民が知る人気連載漫画家、東京で引っ張りだこのイラストレーターからすれば上から目線で怒鳴り散らされる相手ではない。


 ガリシア国内ですらそんな感じだったが、俺らの場合、他の国に出てからも状況は然程変わらなかった。

 今度は他の国に対してガリシアが外交的にいい顔をする為に、やっぱり俺らは近辺の厄介な魔獣狩りにロハで巻き込まれ続けた。


 いずれにせよ、こういった事情で我々勇者組は国民に支持される為にその要請を断れない。

 より正確に言えば、各地領主が「領民が望んでいる」と丸投げしてくる厄介事を断れない。


 そして、今から考えれば当時は弱っちかったが、それでも一般兵を遥かに凌ぐ攻撃力を持つ俺らが彼ら的感覚では近くを通りかかれば、当然、”領民からのお願い”という名目で自領の問題解決に使おうとする輩が出て来る。

 いや、自領の近く、というのだっていい加減で、ニューヨークからシアトルに行く途中に平気でテキサスにも寄ってくれみたいな話になる。

 いやいや、それすらマシで、最初の目的地なんか、魔王城とは全く反対方向のタイス、今のサウザンリーフだった。方角的には日本を出国してインドに行くならその前にハワイにも足を伸ばせ、と言われたのと同じだ。


 そこの大公が「魔王城に行く勇者を歓待したい」という名目でだたをこね、先代の宰相だった彼の機嫌を損ねるのもマズかろうと渋々行けば、確かに初対面で1回、食事は奢ってくれたものの、その後でヒュドラ退治に駆り出されたのだ。

 しかも大公からは「退治」と聞いていたが、現地に着けば早々に奢りの昼飯に薬を混ぜられて、寝ている間に簀巻きにされて生贄としてヒュドラの前に放り出されただけである。奢りというよりは文字通り毒饅頭だ。


 この少なくとも俺らの意志ではない数々の寄り道の結果、もはや俺らの旅は迷走と言っていい状態で、まだ予定の5分の1も来ていないこの河に辿り着くまでに実に半年以上がかかったのだ。


 国王以下、この世界の人達にすれば魔王討伐が目的かも知れないが、俺らの最終目標はこの世界からとっととオサラバする事だ。一刻も早く、魔王の元に辿り着いてぶち殺したい。今直ぐ殺してえよ!というのが本音だ。なのに余計な道草が大杉だ。


「そうイラつくなって。」


 ミリーが俺の両肩に両手を回しながら、というか後ろから抱きつきながら言った。


「アタシらは勇者組だ。周囲を助けんのも仕事だっていい加減諦めろよ。それにリリアが言う通り、水系の魔物は魔法が使えりゃ楽勝だ。大魔法使いのマーサとタッカートがいりゃ、何の問題もねえって。」


 お互いの革鎧の上からでも分かる彼女の柔らかい胸部装甲が背中に優しく押し付けられるのを感じながら、俺は渋々頷いた。


「……ま、確かに今更だけどな。」


 俺がミリーの胸部装甲による説得で表面的には渋々納得したのを確認したからかアイーシャが明るく言った。


「よし!とにかくここから一番近いのは…リリア、どこ?」

「アイーシャ隊長、いい加減、自分で地図見るクセをつけよう?」

「近場の町で取り敢えず風呂、入ろうぜ!」


 ミリーが叫び、俺らも風呂を思い浮かべて少し笑った。

 俺ら3人のリーダー役、シイちゃんも今迄のヤバい話を殊更忘れる様に叫んだ。


「いいね!風呂!んじゃ、とっとと行こうぜ。」

「んだ、んだ。」


 今回もそうだったが、水を見て人間は風呂を思い出すのかな。



 なんて韜晦して昔を思い出し、つまり敢えて自分を落ち着かせようとしていたわけだが、程なくその落ち着かない原因が露天風呂の外、というか衝立の向こうから何故か気合の入った声を掛けてきた。


「入るぞ!」

「お、おう…」


 彼女は何も勝算(?)もなく混浴を提案したわけではない。

 部屋には体が巻けるぐらいの大きなバスタオルが備え付けられていて、彼女はガッツリそれを巻いて露天風呂に入ってきた。ちなみに俺も腰にガッチリタオルを巻かされている。


「ホラ!何の問題もなかろう!」


 彼女は俺の目の前でクルクルと回って見せた。


 ウン、恰好には問題は無さそうだが、その行動には問題がある。

 デカいタオルをガッツリ巻いていると言ってもその長さは彼女の膝上までしかない。つまりクルクル回転して裾がヒラヒラとめくれると…


 残念ながら…いやいや彼女よりは年上の大人として安心したことに、彼女は裾が捲れ切る(?)前にクルクルを止め、先に湯に浸かっている俺の方を見た。滅茶苦茶真剣な表情だ。


「……大丈夫そうだな。」

「問題ない。つか問題とか最初から何もない。」


 お前さんのその恰好以外はな。

 …いや、そもそも風呂にタオルは厳禁だ。TVなんかではよくタオル巻いたまま入ってたりするが「※ 宿に特別な許可を得てこのまま入浴しております」とかってテロップが必ず入る。

 ……だからと言ってどうしようもない。まあ、個室の露天風呂だから問題はない、と信じたい。

 それこそ他の温泉客もいないし、彼女の言う通り黙ってりゃ誰にもバレない。(←良い子はマネをしてはいけません!)


「そうか…では入るぞ!」

「お、おう…」


 彼女は威勢のいい言葉とは裏腹に緊張感漲る様子で慎重に足先からそろそろと湯に入って来た。


「……」


 丁度、膝の少し上、太腿の半ばぐらいまでの深さまで入ると底まで足がつく。そこで彼女は一瞬立ち止った。自分の身に何事も起きてないかのように足元を見回した。そしてチラリと俺の方を見て無言で静かに腰を落とし、俺と同じ様に肩まで浸かった。


「…ふう」


 湯に浸かると自然と声が出るのは温泉に入れば皆、同じだ。


「な、何もないだろ?」


 彼女は座った姿勢のまま少し後ろに下がり、俺と同じ様に風呂の縁に凭れてもう一度「ふう」と息を吐いて、空を見上げた。夕闇に入りかけた綺麗な星空だ。


 俺と彼女の間には暫く平和で心地よい無言が漂った。


「……ああ、お前の言う通りだな。いいものだな、オンセンというものは。」


 彼女は漸くリラックスした表情になり、天を見上げたまま言った。


 美人が風呂に浸かっている姿は実に絵になるな!

 

 彼女は私の方に向き直り、目の前の湯を両手で掬った。


「この白い湯を見た時はどうしようかと思ったが……入ってみるとお前の言う通り体に良い気がする。」


 彼女はまたも天を見上げ、「ああ~」と声を上げながら豪快に手足を伸ばした。


「それに空を見上げながらの風呂というのは実に……何と言うか…解放感があるな。それにこの浴槽の…何と言うか…自然を模した感じもいい。小さい頃、入ってはいけないと止められていた庭の池に入り込んだ様なワクワク感がある。」


 そんな具体的なワクワク感は俺にはないし、そもそも俺は池付きどころか庭付きの家にだって住んだ事はない。

 まあ、庭の池を模したわけではないだろうが、感じ方は人それぞれだし、なにより気に入ってくれたなら良かった。


「ココは各室に温泉を引き込んで人工的に風呂を作っているけど、自然の中で自然に溜まった湯に浸かるのが本来の姿なんだと思う。だからそれを人工的に再現しているんだろう。」


 日本でも1泊5万円とか10万円とかって高級な宿になれば、こういう個室で露天風呂付の宿はある。

 ちなみにこの宿の値段も日本円に直せば10万円相当ぐらいのお値段だ。だが、部屋付きの露天風呂は俺の想像よりずっと立派だった。日本の露天風呂バリに石造りで自然が再現され、しかも本来は1人部屋なのに大人二人が手足を伸ばして入れる広さなのだ。


「お前の故郷ではオンセンというのが当たり前なのか?」

「温泉は湧き出す所が限られるから、そういう意味じゃ当たり前ってこたあない。けど温泉が多く湧き出る場所は温泉に入れるって事でそれだけで人気の旅行先だったな。」


 クラウは知らなかった様だが、こんな宿があるくらいだ。こちらでも知ってる人は知っているそこそこに人気のレジャーではあるのだろう。


「クリスはやはり旅慣れているだけあって色々詳しいな。」


 温泉に詳しいのは日本人だからで旅は関係ない。

 けど旅にはそこそこに詳しいと自負はしていいと思っている。なんせ3年間、旅を続けたのだ。コッチにいる間は殆どの時間が旅だったと言っていい。

 最初のうちこそアイーシャ達におんぶにだっこという有様だったけど、流石に3年もやってれば立派なベテランだ。

 冒険者ギルドの使い方もそうだが、あの時はあまりどうとは思わなかったが、コッチに戻って来てから「俺、結構知識あんじゃん!」と自画自賛した話も多い。


「まあな。」


 俺がドヤ顔で返事をするのを見て彼女はちょっと笑った。


「見てれば分かったとは思うが、私は今回の旅が…まあ、初めての旅の様なものだ。」


 まあ、その辺は彼女の言う通り横で見てれば分かる。

 経験値というものはある意味隠しようのないものだ。最初の1、2回の短い間ならセンスのあるヤツなら何とかなるかも知れないが、これだけ長く一緒に旅をしていれば彼女に碌な経験がないのは隠しようがない。


「だからクリス、お前と出会えて良かった。お前と会えなかったらこんなに楽しい旅にはならなかったろう。」


 何事も先達はあらまほしきものかな、という日本人なら誰しも知っている有名な古文が示す様に経験豊かな詳しい人間が一緒に行動するメリットは大きく、逆にいなければデカいデメリットを喰らう場合も多い。


 そこは客観的には彼女の言う通りではあるが、彼女の素直過ぎる感想に俺は少し面映ゆくなった。俺に対してこんなに絶賛をくれた人は、コッチでも日本でもそうはいない。


 そうであるからか、少しテレテレになりつつあった(←単純)俺は少し意地の悪い考え方がアタマに浮かぶ。憎まれ口だ。


「俺の国の諺に”可愛い子には旅をさせろ”というのがある。」

「どういう意味なんだ?」

「何事か苦労するのも人間としては成長の糧となる。だから自分の子とか大事な子供には敢えて苦労させるのもいいって意味だ。」


 俺の言わんとする意を直ぐに理解した彼女はハハハっと笑った。


「なるほど、私はお前と会って楽してしまったわけだな(笑)」

「いや、よく考えたらそうでもねえかもな。俺といなかったらビックヘッド討伐に巻き込まれたりはしなかったはずだしな。」

「確かにアレは大変だったが騎士団に入る前にいい経験になった。アレが普通じゃないのは流石の私にも分かる。騎士団でも語れるいい自慢話が出来たよ!」


 「それに…」と彼女は続けた。


「お前が後ろを守っていると思えば、私とすれば前だけ向いて恐れる事無く全力で向かって行けたしな。」

「お前さんぐらいの腕前なら俺も何も心配しねえで、ただチーム全体の援護に徹するだけで済んだしな。」


 俺らは暫し無言で空を見上げ、温泉の温かみを愉しんだ。

 身体から疲労が抜け、精神が緊張から解放されるのを感じる。


 前回の旅は魔獣狩りに次ぐ魔獣狩りに追い回されて殺伐と緊張の連続の旅だった。

 でも今は、まあ商売は冒険者だから魔獣狩りメインなのは変わらないが、自分のペースだから気分的にはゆったりだ。


 しかもこの瞬間は美女と混浴だ!

 こういうのを楽しみながらマッタリ旅をすればいいんだ!

 本来なら旅とはこうあるべきだ!


 暫し平和で心地よい幾ばくかの無言の時間が過ぎた後、彼女が「う~ん!」と手足を伸ばした。


「おし!体も温まったしメシでも食いに行くか!」


 彼女の元気いっぱいの威勢のいい言葉に俺も威勢よく答えた。


「おう!」


 俺が勢いよく立ち上がった瞬間、俺の腰に巻いていたタオルがズリっと落ちた。


「…!!!わー!お前、タオルが!!!」

「あ、スマン。」


 俺がちょっとアタフタとタオルを引っ張り上げて巻き直そうとすると追撃でクラウの叱責が飛ぶ。


「いい加減な結び方をするな!下から粗末なモノが見えそうだぞ!」

「粗末!?」


 思わぬ彼女の罵倒を受けて俺は動きを止め、殊更慇懃にアタマを下げた。


「お粗末様でした。」

「そういう返しを求めてない!」


 俺が適当に巻き直したタオルがお辞儀をした瞬間、また外れた。

 今度は完全に外れた。


「もういい!私が先に出る!」


 俺のモタついた動作に苛立って(?)真っ赤になった彼女が勢いよく立ち上がった瞬間、今度は彼女のタオルが外れた。

 俺ではない、読者が待ち望んだ瞬間だったが、彼女は「ギャー!」と彼女らしからぬ声を上げ、片手でタオルを引っ張り上げようとした。

 が、濡れてデカいタオルは重量もある。それは皆の期待通りにそのまま湯の上に堕ちた。


「!!!バカ!コッチを見るな!」


 と、言われはしたが、目の前で一生涯に一度あるかないかレベル、いや奇跡認定庁で奇跡と認められるレベルのラッキースケベが展開中なのだ。

 見るな、と言われて見ないバカは全宇宙に存在しない。無論、俺もバカではない。


 ホンの数秒であったが俺が彼女をガン見して言った。


「……御馳走様でした!(喜)」

「そういう返しも求めてない!」


 彼女はタオルを強引にパワーで引っ張り上げ、前にタオルを描き抱く様にしながらバタバタと風呂から上がり、バタバタと脱衣所代わりの衝立の向こうに走って行った。


うん、尻も実にいいな。美尻ってヤツだな。


 温泉、混浴そしてラッキースケベと全てを堪能した俺は、彼女が衝立の向こうでバタバタ着替える間、改めて温泉に浸かり直し空を見上げて満足した。


 旅とはこうあるべきだ!



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