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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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128 側近と王子

「ジュリアスのヤツがアマベルの件で動いてるだぁ!?」

「殿下、口調がお崩れになっております。ここは町ではございません。」


 側近のアソール公爵公子に冷静に突っ込まれ、思わず立ち上がってしまっていた王子は生徒会長席に座り直す。


「む…おう、すまぬ。」

「今は毎日、学校に通われる身です。お気をつけになって下さい。」


 ルシアン王子は高等1年次にして生徒会長となっていた。

 ルシアンが高等部1年に入学した瞬間に当時の3年次の生徒会長(伯爵家令息)が礼儀正しく一身上の都合で辞任し、皆に推されて立候補したルシアンが、臨時生徒総会で全校生徒の99%以上の信任票を集めて生徒会長に選ばれたのだ。


 そもそも6月には正規の生徒会長選挙があるのに、それを待たずして4月の入学式が終わった段階で現職が辞任しているのである。全校生徒の90%以上が貴族とその関係者であるこの学校に王子に対抗して立候補する様なおバカな生徒は存在しない。


 加えて信任率が100%でなかったのは空気の読めない、あるいは王政に反対するという貴族の通う学校にあるまじき生徒がいたという事ではない。単に前の生徒会長と現立候補者である王子には投票権が無かったからに過ぎない。それも2人に問題があったとかではなく、前会長の影響力を完全に排除するという名目で彼には投票権がなく、候補者本人の1票で勝負がつくのを避ける為に立候補者本人にも投票権はないという生徒会に設けられた正規の生徒会選挙規則である。


 そして当然、その立場は2年次になった今も当然変わらない。


 ルシアン生徒会長はアンネにアマベルと親しくしている所を見られてしまった数日後、学校最上階にある立派な生徒会会長室で、最側近で生徒会副会長でもあるアソール公爵嗣子より思いも寄らぬ報告を受けていた。

 それは国王の命を受け、バーバレラ公爵家、そしてその嫡男である中等部3年次に所属するジュリアスが王子の同級生であるアマベル・モーリスの貴族への取り立てに動いている、というものだ。


「あ、ああ、すまぬ。」


 側近に重ねて注意を受け、王家に相応しくない狼狽した態度を見せた事に対しては再び詫びたが。表情は取り繕う事無く、側近に厳しく問い質す。


「しかしどういう事だ!余はそんな許可は出してはおらぬぞ!」


 まだ学校を卒業してもいないルシアンには政治的な何かに絡んだり命令したりする権限はない。

 王家の任務は果たしているが、その多くは儀礼的な各種行事への出席に限られる。


 だが、こと学園内に絡む決定事項であれば知らないというわけにもいかない立場なので、連絡は入る。

 そして時には恐らく将来への予行演習という意味で、非公式にルシアンに決定権が委ねられる事もある。


 例えば昨年から新たに導入された軍士官学校との交流学生交換制度を具体的に検討したのはルシアン以下アソールを初めとするルシアンの側近達だ。

 そして最終的には生徒会長ではあっても形式的には学園の一生徒であるルシアンではなく、王太子殿下の名前で正式化された。

 

 アマベルも対象となった地方の学校から成績優秀者を受け入れる制度も昔からあるが、例の某地方からの特待生が地元から違法薬物を持ち込んで学園内外で捌き問題になった時は、問題解決自体がルシアンに任された。

 

 そして学園内では側近達が動き、問題の特待生と関係した生徒達は軒並み退学になった。町の方の密売ルートは配下の半グレ達も動員して公の手を煩わせる事無く壊滅させた。

 おまけにこの件には対立するチンピラグループも深く関わっており、彼らも壊滅させるために王子は2か月休学を伸ばしたのだ。


 問題の生徒の退学自体は学園理事会が決定したが、その後、地方の学校推薦制度をより厳しくし、同時に現状の古来より続く学校からだけでなくより門戸を広げる制度を裏で立案したのも、ルシアンと周囲のアソールを初めとする若き側近グループだ。

 繰り返しになるが要するに王子とその側近グループの将来を見据えた練習の意味があるのだ。


 そういった意味では学園内の話であればルシアンの手を通るはずだが、今回の件は学園内の話ではあっても学園に直接絡む話でなく、アマベル・モーリスという1生徒に関する話だから微妙な塩梅だ。


 いつも冷静沈着な側近は、しかしそこら辺りで王子に反論する事無く、流して内容の説明に入った。


「バーバレラ公爵家よりアマベル・モーリス嬢は使えそうなので、爵位の検討をしてはどうか、と陛下にご提言があったそうです。」

「…何故、公爵家からいきなりそんな話が上がってくるのだ?」


 先日のバーバレラ姉弟との会話を思い出しながら王子は問い質したが、側近からの返答は王子の予想とは違った。


「先日、教会であった彼女の聖魔術のテスト結果を見てのご提言、と聞いております。」

「!!……」


 以前より聖魔術に適性あり、と見られていたアマベルが、しかし学業を優先したいとやんわりとではあるが断り続けていた聖魔術の適正審査を周囲の度重なる説得により教会で渋々受けた。つい最近の話だ。


 審査の実施自体が学園と教会とごく一部の関係者以外しか知られていなかったが、アマベルと仲良しの「ルー君」はいつものサリとベラ亭でアマベルから直接相談を受けているので知っている。

 そして王子はアソールに手を回させてその驚きの結果を知っているが、内容が内容だけに結果は教会の一部関係者と王家以外には伏せられていたはずだ。

 だが、同じ様に裏から手を回して結果を手に入れた者がいたらしい。


「……軍付の回復役か結界役として囲い込むつもりか?」


 軍を差配する元帥であるバーバレラ公爵が進言したなら当然、そういう目的だろうとルシアンは考えたが、側近はこれにも首を振った。


「いえ、バーバレラ元帥閣下のご見解は、必ずしも軍で囲い込む必要はないが、このままでは教会所属となってしまう。その前に王家との臣下の絆を深めた方が宜しい、というものだったそうです。」

「陛下は…?」


 機械的に口にしたが結果は知れている。

 果たしてアソールは王子の思う通りの結果を言った。


「陛下も大いにご賛同され、提案者であるバーバレラ公爵に担当の命が下った由にございます。」


 国の重臣であるバーバレラ公爵が進言し、国王が賛同したとなれば決定事項だ。政策にはまだ何の実権もない王子の自分が口を出す話ではない。

 直接動くのは誰なのかも王の命を受けた公爵家内の単なる担当割りで、王子とは無関係だ。そしてそれが嫡子ジュリアスというだけだ。


 王家より直接下った重要な命に対し若年ではあるが公爵家嫡子が直接当たるのは不思議ではない。対象であるアマベルと同じ学校に通い、直接面識もある、彼女の人と成りも事情も分かっているとなれば猶更だ。

 そして学園の運営とは直接関係しない一生徒の身の振り方の話が王子の耳に直接は入れられないのも当然と言えば当然だ。


 それでも文句ではないが恨み言の様に彼は言った。


「余は聞いてはおらぬぞ!」

「私も陛下からも父…宰相からも直接聞いたわけではございませんので、細かいニュアンスまでは分かりません。ただ殿下に直接絡む話としては上がってませんのでお耳には入っていないもの、と推察致します。」

「……」


 繰り返しになるが、彼女の扱いは学園内部の話ではあるが、学園そのものの話とは言えない。あくまで彼女個人の身の振り方の話である。

 そして公式の立場は唯の同級生である王子はその話の関係者ではない。


「調査、という程ではございませんが少しツテを辿って聞いて回りましたところ、今のところジュリアス殿は2つの方向で動かれております。」

「……」


 無言で先を続けろ、と命ずる王子にアソールは報告を続ける。


「1つは彼女がどこかしらの家に養女に入る、という方向です。」

「……」


 平民に爵位が与えられる場合は通常なら何かしら功績を立てた場合である。無論、武勲に限らず行政、政治上の貢献でも良い。

 その他には長年国家に仕え、かつある一定の地位まで至ればその長年の功績に対して与えられるという場合もある。軍人であれば長年の功績に報いて騎士爵となる場合もある。あるいは文官なら財務卿ぐらいまで出世すれば慣例的に一代限りの男爵位が与えられるし、更に上の財務大臣にでもなれば功績によっては子爵位が与えられる事もある。

 いずれも功成り名を遂げた人物かつ上が何かしらの思惑をもっていい意味で目を付けた場合であるのが普通だ。


 だがそれは通常の場合である。

 アマベル・モーリスは未だ唯の学生で国家に対し何か目立つ貢献があるわけではない。

 となれば、後は縁故を作る、という手段になる。その1つが今、側近が言及した爵家へ養子に入るという方法だ。


 そして縁故作りにはもう1つ、最もポピュラーな方法がある。

 当然、アソールはもう1つの方にも言及した。


「今1つは彼女が何処かの家に嫁ぐという方策です。」


 王子は心を落ち着ける為に1つ息を吐いた。


「……どちらが進んでおるのだ?」

「今のところは養女の方向、と聞いております。」


 ルシアンは少し安心した。

 先日、姉のアンネの方は直ぐに嫁がせればよいという提案をしていたから、逆に言えば彼女が動いている訳ではないらしい。そもそもルシアンは彼女の提案に対し「待て!」と言ったのだ。

 それに実行力、影響力共に高い彼女が本気で動いたなら今頃ルシアンの耳には婚約成立の話が届いていてもおかしくない。


 が、側近の報告は続いた。


「ただ…」

「ただ?」

「そもそも平民である彼女を養女として迎え入れるのを了承しそうな家はそう多くありません。」

「だろうな。」


 とにかく彼女は平民なのだ。

 いくら公爵家のお声掛りとはいえ、迎え入れる側からすればメリットが薄い。


「それに養女は基本的には家を継ぐわけではありません。いずれは何処かに嫁ぐ必要があるので養女は謂わば時間稼ぎに過ぎません。ややもすると受け入れた家では嫁ぎ先も考えなくてはならなくなります。」


 これもその通りで、男子なら養子に入るのは多くの場合、その家か分家を継ぐ為であるが、貴族の女子は基本的には他家に嫁に入る。それは養女であっても例外ではない。


 むしろ養女の場合、実際には嫁入りの前段階である事の方が多い。

 伯爵家次男と騎士家の女子が恋愛その他の事情で縁組する際に身分的にバランスが取れない為、双方に縁のある子爵家ぐらいに頼み込んで仮親になって貰う、という具合の話だ。

 それならば受ける方の子爵家も伯爵家との縁が強まるというメリットがある。

 

 この通常の場合であるならば、順番的に既に嫁ぎ先は決まっているから問題にならないが、今回の場合は養親側はアマベルを養女として受け入れた上に、嫁ぎ先は別途世話をしなくてはならなくなる可能性がある。


 その辺の貴族社会の一般的な事情は当然王子も知っており「そこまでの手間を掛けて養女にする家なんぞあるか?(笑)」と、また少し安心したが、ここで側近は予想もしていなかったとんでもない爆弾を落とした。


「ですので、非公式ではありますが、何処かの家に首尾よく養女になった場合には、最終的には公爵家は跡継ぎであるジュリアス殿自身の妻として迎える事も考えている、と言っているそうです。」

「何だと!」


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