大変なことになってきました。
普段は穏やかで落ち着いた雰囲気のある宿屋のエントランス。
そこが慌ただしく物々しい雰囲気を出していた。
「お客様申し訳ございません。ただいま、異常事態が起きているので、眠り、夢の途中で起こしてしまいました。
急いで避難してください。」
受付にいる三人の従業員である三兄妹は、起きてきた客たちに紙を配っている。
「渡された無料券は後日宿屋と夢屋の両方セットで使うことが出来ます。」
それをもらった客たちは有無を言わさず、宿屋から追い出された。
「オーナー、お客様はみな避難が出来ました。」
従業員の青年が受付の壁を挟んで裏にある休憩室で作戦会議をしているマティス達に話しかけた。
「わかりました。皆さんも来てください」
三人の従業員が中に入る。
マティスとアレクは紙に書かれた二つの魔法陣を従業員たちに見せる。
新聞紙を開いたくらいの大きさがある紙には複雑な文様を組んだ陣が書き込まれていた。
「私のは防御結界用、アレクのはあなたたちの避難転移用の陣です。」
三人は困惑した目で、マティス達を見る。
「モン、モナ、モル、安全なところに転移できるように転移先は決めている。危険を感じたらすぐに使え」
アレクがあきらめを含んだ目で、その魔方陣を見る。
「オーナー、アレクさん、もうミラ夫人の正体がわかって、身内も特定できたとさっき言ってませんでしたか?
ガラス球を割る前提で話が進んでませんか。」
三兄妹の長男の黄色い髪のモンが口をはさむ。
「ミラ夫人の正体も身内も、特定はできたんだがいかんせん正体が、、、」
マティスは口ごもる。
「マティス、正直に言おう。黙っていたっていずれ、今のミラ夫人を見たらわかる。」
アレクは、マティスにミラの正体をみんなに伝えるように説得する。
「そうですね。彼女はこの国の王妃クロカでした。」
「え、王妃様、お城で大事に守られているはずの王妃様がこんな下町にいるのですか。」
青い髪の少女、モルが驚いた声を上げる。
「モル、えらい人たちにもいろいろな事情があるのですよ。」
その双子姉の赤い髪の少女、モナがモルを落ち着かせる。
「その事情については、あとがあるなら説明しますから」
死を覚悟した顔にマティスはなっている。
アレクは深刻そうな顔で話す。
「まず、ガラス球を使うことになった理由としてはだ。
身内の声が使えません。
理由としては、彼女の身内である王様、その息子の王子たちは、彼女が夢を望む原因となってしまってる。
頼みの綱であった彼女の兄の方なんだが、数年前に風邪をこじらせて、声を失っている。
というわけで、身内の声が使えない」
それを聞いて、三人の従業員の顔からは血の気が引いていた。
これが一般人ならまだましだったと思うが、王妃に関しては様々な伝説が残っているので、こうなるわけである。
伝説の一つとしては、得意な風魔法でこの国に攻めてきた国の船を全部、沈めたなどである。
「とても、危険ではないですか!
オーナーもアレクさんも、王妃様を目覚めさせずに逃げましょうよ。お城の夢使いは何やってるんですか」
モンが声を荒げる。
「逃げることは、できない。いくら書き換えられたからとはいえ、王妃が見ている夢は俺が作った夢だが、本当に終わりにできるのは俺だけだし俺の責任でもある。お城の夢使いは現在もらい暴走しかけの人の対応に追われている。」
覚悟が決まった硬い声でアレクが答える。
「大事なパートナーを置いていくこともできません。それに、あの時お客様のことをよく調べておけば、こんなことになりませんでした。」
後悔がまじった気落ちした声でマティスが答える。




