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後編



卒業パーティーの夜、案の定、婚約者は現れなかった。


「べつに待ってないけどね」


元々、時間ギリギリに向かう予定だった。そろそろ出かけようかと腰をあげたところ、エントランスで使用人達が慌てふためく空気が伝わってくる。


「どうかしたの?」

「あっ、お嬢様!」


侍女が慌てている。おろおろしている両親を見て、首を捻った。


「やあ。どうせ婚約者からはエスコートされないと思って、私が迎えにきちゃったよ」


颯爽と姿を現した飴好きの知人。誰もが振り返るようなキラキラしい笑顔でもって、軽く手をあげている。


アクウェインタンス・プロポーザー。この国の第五王子で、現役の学生ながらスキル研究所の所長を軽く勤めてしまっているし、魔法騎士団の総括団長なんかもしているし、王位継承権を放棄して、王族に次ぐ地位である特別公爵位なんていう聞いたこともないような爵位持ちという、存在自体が反則な男だ。そんな、いつ寝てるのか心配になってしまうような存在なのに、私の行く先々で昼寝をしているという謎の人物。超知人。


「プロポーザー公にエスコートしていただく理由は無いと思いますけど」

「よそよそしいなあ。ウェインって呼んでくれていいんだよ?」

「いえ、ただの知人を愛称で呼べるほど、厚顔無恥ではありませんので」

「知人かぁ〜」

「でもまあ、せっかくのエスコートのお申出ですので、お言葉に甘えさせていただきます。御礼は飴三つでいいですか?」

「飴」

「それと、今夜は水飴も用意して参ります」

「水飴? なんで?」

「それは、お楽しみですよ」


エントランスを出ると、妙に立派な馬車が停車していた。


「リタ? 何故第五王子殿下がお前をエスコートしに来るんだい? それに、婚約者が卒業パーティーに迎えに来ないなんて」

「お父様、私達の婚約は、白紙に戻ると思いますわ。または、あちらに非がある形での破棄ですかね」

「は!?」

「詳しくは会場で。今夜は面白いものが見られますよ」


両親を置き、馬車に乗り込む。向かいに座った知人は、ニヤニヤしながら私を見た。


「どんな面白いものが見られるのかな?」

「言ったでしょう? あとのお楽しみです」



◆ ◆ ◆



すました顔で会場入りする。横に並ぶのは、第五王子殿下。滅多に社交界に顔を出さないその麗しい姿に、あちらこちらから溜め息がもれる。


婚約者を見つけた。腕に男爵令嬢をぶら下げて、一見爽やかに振舞っている。周りにはチヤホヤする連中が群がり、未来の公爵へ媚び諂っている。


二人は私を見つけるといそいそと近付いてきた。となりに王子殿下がいるのも目に入らないのか、耳元で罵詈雑言の嵐。私が何か言い返そうものなら、男爵令嬢は涙ぐみ、婚約者の腕にますます縋りつく。私にだけ見える角度で、口角をあげて、意地悪そうに笑った。ハイ、いただきました。とてもよいお顔。出会ってからもう数十回は見せられた表情だ。私以外の誰の目にも入らないのだから感心する。


隣に立つ知人に小さくお辞儀をして、少し離れてもらった。


両手を広げる。頭で念じる。いつのまにか、私の両手には、拍子木が現れていた。


カン! カン! カンカンカンカン!


拍子木を一つ打つたびに、周囲から声があがる。


前方のステージに、大きな白い幕が現れた。会場が薄暗くなる。生徒や父兄の手に、いつのまにか水飴やソースせんべいが握らされていた。


「クズ男と泥棒猫のお話。はじまりはじまり〜!」


貴族も平民も、私のその掛け声でその場に腰をおろした。困惑しつつも、私の力には逆らえない。


「これが、スキル『紙芝居』か」


知人の彼は私側の人間なので、隣で会場を見つめながら呆然と呟いた。両親の姿も見える。青い顔をして、私を見つめていた。


「私、結構鍛錬してますので、ただの紙芝居では終わりませんよ。口頭で説明もしませんし」


「レベルいくつ?」


「レベルMAXです。ふふふ」


スキルが無いとは言ってない。ただ、知人のように便利なスキルではないので公にしていないだけだ。


カン!


拍子木を打った。手拍子とともに、踊りだしたくなるようなリズム抜群の音楽が鳴り出す。


『貴様のような地味な女が婚約者なんて認めない!』


スクリーンには、婚約者の怒りに歪んだ表情が映し出されていた。顔合わせの時の映像だ。


『あんたみたいなスキル無しがトラッシュの婚約者なんて図々しいのよ!身をひきなさい!』


続いて、目を見開いて歯をむき出しにした男爵令嬢。言ってる事も酷い。爵位が下の人間が上の人間に言う事かどうかより、人間性を疑う。


彼らがスキルを使って私に泥をかぶせたりゴミをかぶせたりする場面では、会場中が息をのんだ。


音楽は、だいぶ激しくなってきた。会場中で、映し出されている映像に困惑している声が聞こえる。中にはあまりの事に失神している令嬢もいた。弱いわね。私なんてその悪意を直接受けているのに。

遠い国で流行っている、ろっくという音楽らしい。スピード感と熱いリズム。若者達は、こんな時でなければ興奮しつつ踊りだしていたことだろう。


スクリーンには、私のスキルが何年もの間勝手に録画して、私の良いように編集してくれた映像が音楽に沿って流れている。スピード感、リズム、3秒ごとに切り替わる醜悪な表情の男女。


カン!


皆を自由にした。その場で立って踊り出す生徒達。はしたないと思うのに、リズムに合わせて体がピクピクしちゃう父兄達。


「ふはっ! 面白い! 人気者だった二人が一瞬で悪者だ」


知人は腹を抱えて笑っている。水飴をくわえながら。


やがて、音楽は鳴り止み、スクリーンには男爵令嬢の先ほどのドアップ。婚約者に縋りつき、腕に顔を隠しながら私にだけ見せてくれた最高に最悪な顔が、映し出された。


会場から悲鳴があがる。本人も泣き叫んでいる。


カン!


拍子木を打った。スクリーンは消え、会場は明るくなり、皆の手元には水飴とソースせんべいだけが残った。


「私はこんな風にずっと馬鹿にされてきました。男性側有責の婚約破棄を宣言させていただきます! どう思いますかみなさん!」


いいぞいいぞと会場から声があがる。これも実は紙芝居スキルを使ったものだ。レベルをあげれば応用がきく。それがスキル。泥やらゴミやらを他人に向けて発射するだけで他に何もできないスキルなど、無くて良い。


全てを見ていた学園長と宰相が、その後の処理をしてくれた。二人は廃嫡。社交界からの追放。これで胸がスッとした。警備員に連れて行かれる二人の後ろ姿を見ながらホッと息をつくと、目の前にニュウっと手が差し出された。


「は?」


「私と結婚して下さい」


知人だった。いきなりのことに、何も言えず固まっていると、昔から私に好意を持っていたのだという。わざわざ先回りして隠れて昼寝と偽り、何かあったときに助けようとしていたことなど、ずっと不思議に思っていたことが解明される。


「ただの物好きかと思ってました」


「きみ、すごい鈍感だものね」


「極度の飴ちゃん好きかと」


「飴をくれとかお願いしたこと無いんだけどね」


言われてみればそうだった。


「私ったら」


「それで、どうだろう? 結婚してもらえるかな?」


差し出された手を見つめる。この人と結婚して私は幸せになれるだろうか。嫌な男との結婚はもう無理だ。特に顔が好みじゃない相手など。


スキルを発動して、小さなスクリーンを手元に出す。知人の蕩けるような笑顔、他の人に向けている冷酷な横顔、メロメロですみたいな顔、視線だけで人が殺せるんじゃないかと思われる横顔、それらを交互に映し出す。もしや本当に愛されている?


「私向けの顔と、その他に向ける顔のギャップが激しいですね〜」


「うわ、何見てるのかと思ったら! ちょっと、やめてくれる? 厄介なスキルだなそれ!」


スクリーンに伸ばされてきた腕にしがみついた。


「結婚します!」


「いきなり!」


「この相手しかいないと思いました! ウェイン様?」


「お、やっと愛称で呼んでくれた」


「知人は卒業ですもんね。というか、これからはガツガツいかせてもらいますよ! だって結婚するんですから!」


「肉食令嬢か」


そんなツッコミをしながらも、優しく微笑んでくれる。見ないふりをしてきたが、とうの昔に、恋に落ちていたのかもしれない。


「やだわ。私は、飴食令嬢よ」


はい、おしまい。





うまくざまぁできましたでしょうか。

思ってたのと違って、うまくはっちゃけられなかった。

もう少し面白く書けると思ったのですが。

精進します!

応援してくださるかたは、したの★をたくさん下さい〜

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