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その勇者、ファッションショーが趣味

 先代魔王と勇者が消滅した後、訪れた安寧の平和が長く続くことはなかった。

 

 近々「次なる魔王が誕生する」という情報を入手したドカルテルア帝国は、魔王復活による魔王軍の侵略行為に対抗するため、魔族の領土へと侵攻を始めていた。

 すでに前線となる魔族の領土では帝国軍と魔王軍による戦争が始まり、日を増すごとに激化の一途を辿っていた。両軍共に多大な損害を出しながらも戦況は変わることなく、いたずらに兵の消耗を繰り返すばかりであった。

 

 ――だがある一人の人間によって、またしても100年前の時のように大きく戦況が変わることとなる。


 とある村の子供が『退魔の剣』に選ばれたことにより、再び勇者が誕生したのである。

 勇者は先代同様に仲間を引き連れて、その圧倒的な力による進軍を行い魔王軍幹部をも蹴散らしていった。

 

 そして魔王軍幹部を討伐後、帝国領土の一つを取り返した勇者パーティはその功績を称えられドカルテルア帝国へと帰還し、勲章授与式の式典に参加していたのだ。

 式典の参加前に祭りを楽しんでいた勇者パーティであったが、勇者はそこから一人抜けて城へと戻り、自分の趣味に興じていた。


「は~マジやってらんないよ~。本当、給与が高い以外になんも良いことないよな~勇者なんて」


 元々、村に住む身寄りのない少女だった勇者『リコルス・カリタス』は自分の立場に不満を抱いていた。

 

 肩まで伸ばしたサラサラの黒髪に長いまつ毛、大きなスカイブルーの瞳、そして透き通った白い肌に華奢な身体をした彼女は、老若男女問わずに誰もが目を引く自分の美貌を幼少期の頃から自覚していた。

 そのことを誇りに思い、自身は「絶対的な美少女である」として傲慢に、暴虐に、そして気高く周囲へ振舞って生きてきた。

 

 その光景を見た周囲の人々は口々に「可愛いのは認めるけど、自尊心が有頂天過ぎじゃね?」と思っていたのも今はもう懐かしい話だ。


 勇者となった今、幼少期から自尊心を肥大化させてきた彼女にとって、汗にまみれ痛い思いをしながら繰り返される鍛錬や、泥臭い戦場を駆け回る日々に不満を抱かないわけがないのだ。


 勇者リコルスはこの血と汗と泥にまみれた日常から脱却したい思いに駆られていた。


「チッ。すぐ返り血で汚れるし……てか装備めちゃくちゃダサいし。もうちょっと可愛い装備にしろよ。あ~ひらひらのスカートとか履きたい、フリルのやつ」


 彼女は年相応の女の子である!


「つーか姫様アイツ……一国の姫のクセして鎧着たまま祭り行ってんのかよ。恥じらいもくそもないな、あの金髪ゴリラ。さっさと姫の座をボクに譲れよ。ボクのポテンシャルなら『姫』なんて余裕でやり切ってやるよ」


 姫様は嫌いなのである!


「昔から気品ゼロの暴力女だったし、『姫』なんて呼ばれるのはおこがましいにも程があるね。『ミスゴリラゴリラゴリラ』でいいだろ。学名呼びでいいだろ」


 王国の人間が聞いていたら、不敬罪は免れない発言である!


 ドカルテルア帝国国王のひとり娘にして、第一王女である姫『フェリシ』は幼少の頃から破天荒な娘として(ちまた)に名をはせており、王族という立場にありながらも日々剣の鍛錬に励み、戦場の第一線で女騎士としても活躍していた。素の戦闘力だけなら勇者パーティの中でもダントツ一番であった。

 また誰に対しても分け隔てなく平等に接することからその人望も厚く、リコルスとは雲泥の差のカリスマ性を併せ持つのだ。

 

 そんなフェリシとリコルスは幼少期からの幼馴染であり、帝国軍の兵隊長を務めていたリコルスの養父の下で同じく剣の鍛錬を積み重ねた仲でもある。


 そして今、件のリコルスは何をしているのかというと……。


 フェリシの衣装を試着していた。


 リコルスは幼馴染であるというポジション(特権)を利用してよく昔から城に出入りし、フェリシの部屋に入ってはクローゼットの中に眠る大量の王族や貴族しか着ることが出来ない瀟洒(しょうしゃ)な衣装で一人ファッションショーを日夜繰り広げるという、常軌を逸した奇行に及んでいた。

 

 もちろん試着する服の中にはフェリシが着用したものもあるのだが。


 「ボクみたいな可憐な美少女に着られた方がこのドレスたちも幸せだろ? 姫様みたいな筑前煮はどんなに豪華な皿に盛られても田舎臭さが拭えないけど……ボクみたいなコック・オ・ヴァンて感じのシャレた煮込み料理なら、例えひび割れた皿に盛られても映えるだろ?」


 という謎の持論を豪語するばかりで、事情を知る周囲の使用人からは「何故例えが煮込み料理?」と思われつつドン引きされていた。


「おっ、このドレス激カワじゃないか~! ワインレッドのやつもたまには着てみようかな~。ちょっと派手っぽいけど、なんか王女感みたいな、気品を感じるみたいな! うへへへっ」


 そして今日は式典の準備で場内は出入口付近を除いて誰一人おらず、いつものようにフェリシの部屋へと不法侵入したリコルスは一人でファッションショーに興じていたのだ。

 

「うっはー! めっちゃカワイイ! めっちゃカワイイよ、ボク!」


 フェリシのドレスを着て興奮するリコルスは、等身大の自分が映る大きさの鏡の前に立ってヒラリヒラリと身を舞うようになびかせる。


「あぁ、なんて美しいんだ……年々経つごとに美しさが増しているのは自覚していたけど…………まさかこんなにも美少女になってしまうなんて……」


 艶やかで指先まで通る黒髪はよく手入れが行き届いており、白い肌にはシミや日焼けの跡も無い。彼女の『美』に対する追及と努力は、女性からしても目を見張るものではあった。

 

 日々魔王軍との戦いで得た報酬のほとんどは『美容代』に使い、他の仲間たちが装備品や道具類などを充実させる中で、勇者だけはいつも最低限の装備と道具だけでその場をやり過ごしていた。冒険や戦闘に関してはとことんのどケチである。


「……はぁーっ。勇者なんて役回りもう辞めてえ。でも稼がないといけないしなぁ……美容代」


 そう、リコルスの目標は『魔王の討伐』などではない。むしろ魔王の討伐など、どこぞの脳筋姫騎士にでもやらせておけばいいとさえ思っている。かなり本気で!

 全ては美少女としての威厳を保つため、魔王軍を肉塊にし眼前の報酬金を稼いでいくためになあなあで勇者をやっているのだ!


 今宵も一人、ファッションショーを繰り広げる彼女のもとに、暗闇から忍び寄る影が近付いていた。

 

 趣味にはとことんのめり込むタイプ。それが遠征ばかりで数か月ぶりの楽しみとなれば、注意散漫になるのも必然的なものだ。


「……お前がドカルテルア帝国の『姫様』だな?」

 

「誰だ!? ボクの神聖なる営みを邪魔する(やから)は?!」


 満天の空に三日月が輝く今日この日、勇者リコルスと魔王ユリウスが出会ったことで運命の歯車が動き出すこととなる。

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