不自然な言動☆
今回は妃琉×唖摺の先生ズです!!
PM10:00
羅槻家にて。
隣で妃琉の枕に顔を埋めている、恋人こと唖摺をわしっと捕まえて頬にキスを落とす。いつもしている黒縁のメガネをしていないせいか、少し不自然な感じがした。
綺麗な事に変わりは無いが。
「演料が瑞南を持って帰った」
「近いうちに落ちるに十万」
「結婚までたどり着くに百万」
「式は海外であげるに一千万」
またもや始まる賭、イン羅槻家。対象は相変わらず例の二人。
「まぁ……オレも同じ事してるけど」
演料が瑞南を持って帰った様に、オレも唖摺を持って帰ってきた。久しぶりに来いよと言った時の嬉しそうな顔が、未だに頭の中でふわふわ浮かんでいる。
あの笑顔は冗談抜きで反則だ。正直誰にも見せたくない。
「あいつらが結婚までたどり着くなら……オレだってしたい……。お前と結婚出来るにオレの人生賭ける」
そしてこの言葉である。視線をふいとそらして小さく呟く唖摺はとてつもなく愛おしく感じた。だって、
人生賭けるって事は……。
「オレも賭ける」
一つ一つの言葉に舞い上がりすぎな自分がいる気がしないでも無いが、この際仕方ない。仕方ないったら仕方ない。どうしようもないのだから。
だって普通、好きな人に人生賭けるって言われたらどうだ?たまらないだろ?制御やらなけなしの自制心なんて、とっくに何処かへ放り投げた。後は感情に身を任せてひたすら一喜一憂するのみだろ。
そう思ったのに。
どうやら恥ずかしくなってしまったらしく、顔を再び枕に埋めてしまった。
そして急な内容の切り替え。
「そいえば、ウィルの話しとんでもなかったな」
「あぁ、あれはな」
ウィルについての話しは理事長に隅から隅まで余す事無く聞いた。とにかくとんでもない内容だった。まさか芸術的な殺人鬼が殺人をしていなかったなんて……それに、理事長の旧友というのも驚きで。
「……生、とんでもなくキレイだったな」
「………………うん」
「…………?」
何だ、今の微妙な合間は?
「……うん……そうだな」
「どうした?」
キレイ過ぎて、思い出しただけで鳥肌が立ったとか?
埋めていた顔を頬を挟んで無理やりこちらへ向けると、何故か眉をひそめて不機嫌そうな顔をしていた。
「どうしたんだよ」
「っ、なんでもない!!」
ぶっと頬を膨らませて懸命に視線をそらそうとしているけれど、今度はそらせない様にじっと見つめる。唖摺が何だかおかしい。
「……な、でもなっ」
「全然何でもなくないだろうが」
ベットに組み敷いて額に額をこつりとあてた。とたんにかぁっと真っ赤になる耳や頬にそろそろと指先を這わせる。
「ひりゅ、何す「無理には言わせたくない。でもお前が不安を持つ事はオレがつらい」
分かるな、と耳元で囁くとこくりと小さく首を動かす。
「……でも言いたくない。今のオレはオレが一番認めたくない」
むっつりしながらそう言う彼の決意は頑なで、オレなんかには聞き出せそうに無い。実は聞き出したくて仕方が無いのだが、こうなったらもう諦めよう。
だけど、その代わり。
「分かった。その代わりに、オレの言う事、一つ聞いて」
「ん、いいよ」
やっと笑顔が戻った事にほっとしつつ、調子に乗って一つの願い事を。
大学院時代、うつむく度に唖摺がしてくれた大事な思い出。
前を向けと力をくれた。
「あれ、して」
普通はあれで分かる筈がないのだが、大学院時代並外れて仲が良かった二人には十分だ。
それ故に。
にこりと微笑みを浮かべた唖摺は、妃琉の頬を手のひらで包み込んで
ちゅ、とおでこにキスを落とした。次は両方の頬に。
最後は唇に。
「どうだ」
「参った」
あはははっと久々に二人して大声で笑ってぎゅっと抱きしめ合う。その暖かくて、男性特有の体格にドキドキなるようになったのはいつからだろうか。分からない。
ただ、気づいた時には手遅れだった。
「なぁ妃琉、そろそろ寝よう」
「あぁ……そうだな」
妃琉がバカ笑いするなんてめったに無いし。レアな所見れたって事で。じゃあお休み。
にやにやしながらそう言って、ふわふわのベットに身を任せると一瞬にして寝息をたて始める。
速すぎるだろうと苦笑いしながら突っ込むとぐっと体に負担がかかった気がする。
流石に今日はいろいろ有りすぎて疲れたようだ。
ウィルについて考えたい事はいくらでもあったが……
――今日は、まぁいいか。
唖摺の先程の言動も気になる所が多々あったけれど、今日は考えるのをやめる事にした。
脳を働かせるには、この眠気と全然お友達で無くなった時の方が良いだろう。
お休み、唖摺。
良い夢を。
next…
「ごめん」
そして妃琉が完全に寝付いた時、ぽそりと小さな呟きが。
「見苦しいよな、嫉妬なんて」
ウィルが綺麗だったと言ったその言葉に感じた胸の奥がもやもやする様なあの感情。勘弁して欲しい。
あんな感情、気付かれる訳にはいかない。だって、見苦しいだろっ?!あればっかりは、絶対絶対気付かれたくない。
――妃琉に嫌われたくない。
大学院時代の、尊敬できる先輩であり良き友達であり、途中から恋人となったこの人は今の……過去の、そして未来のオレにとって一番大切な人。こんな人に嫌われたらオレの人生は終わったも同然だ。
となりで小刻みに寝息を立てる妃琉をぎゅっと抱きしめて、瞳を閉じる。
「お休み……大好き」
それからしばらくして、不安と共にまどろみの中へ沈んでいった。