5.結果(2)
ほんのささいな事が自信になるのは自惚れだろうか。
さぶろうの件が終わって数日。
幸子の心中は、ある思いで一杯だった。
もう一度、占い師を目指したい。
やはり自分は好きなのだ。
春夫が定年退職した晩、言われた言葉が幸子に芽生えた。
・・・これからの人生は自分のために使いたい・・・・。
春夫が家族のために尽くしたというのなら、幸子も尽くしてきたのだ。
先はどうなるか分からないが、今は、春夫と気ままな二人暮らしだ。春夫さえよければ、もう足かせはない。
ああ、でもどうしようと幸子は迷った。
話すのが癪だった。
ほら、僕の狙いどうりでしょ? と言っている春夫の目が浮かぶ。
しかし、春夫の協力と理解がないと成立しないのも事実だ。
幸子は決意した。
自分はもう60歳。
人生の半分はとうに過ぎた。
この年になってと、笑われてもいい。
ああ、そうかと幸子は気づいた。
あの晩の春夫も同じ気持ちだったのだろう。
もしかしたら、かなり前から決めていたのかもしれない。その日まではと、黙々と働いていたのだろう。
いつもなら先に寝てしまう幸子だったが、春夫が来るまで待っていた。
「あなた、お話があるの」
春夫が布団の中に入った時、幸子は切り出した。
「起きてたの?」
春夫は驚いた。
「話って、何かな?」
幸子は即答できなかった。
「話って、何かな?」
春夫は緊張した声音で聞いた。
「その・・・、私もやりたい事をしていいかしら?」
「いいよ。もちろんだ」
声音が優しい。そんなことかと安心したようだった。
「タロット占いかい?」
「まあね・・・」
「いいんじゃないか」
嫌味も感じられない。幸子は急に小恥ずかしくなった。
「私・・・できるかしら?」
「大丈夫だよ。幸子さんは昔から意思が強いし、実行力がすごい」
幸子は妙に嬉しくなった。
「どうするか、プランは考えているの?」
幸子ははやる心を抑えた。
「インターネットを通じてが一番かなって思うけれど・・・・。あなたに、パソコンの使い方を教えてほしいの」
「いいよ」
春夫は欠伸をしながら言った。
幸子は興奮して、早口に話した。
「修行したいから、お代はいらないわ。代わりに、占いが当たったか知りたいから、連絡してくれないか頼みたいの」
「分かった、分かった。とりあえず寝ようよ」
「子供達には、まだ内緒にしててね」
「どうして?」
「だって、夫婦そろって、いい年してって、言われそうですもの」
春夫は笑いながら言った。
「言わないよ。でも内緒にしておきたいなら、そうしよう」
幸子はワクワクした。
こんな浮き足だった気持ちは久しい。
「でもね、本当はお客様の顔を見ながらやりたいのよ。でも、無理よね。即答できるほどの腕があるとは思えないし、家の事はなおざりにはできないし」
「・・・・・」
もう春夫は聞いていなかった。
いびきが高らかに響いた。