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『肉塊の玉座と理の王国』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第六十七章 花と茶の街

北方の地が、

かつて「嘆きの湿地帯」と呼ばれていた頃の面影は、

もう遠い昔の記憶だった。


荒れ果てた土地には緑が宿り、

川が流れ、

街道には荷馬車が列をなす。

そしてその中心には、

巨大な城壁を持つ都市がそびえ立っていた。

かつての冷たい幾何学模様の城ではなく、

人間と亜人が肩を寄せ合い、

生きるための温かな街。

人々はここを「ロジック」の名では呼ばない。


「花と茶の街」と呼んだ。


かつて城があった丘の上。

太一とリーネは、

久しぶりに帰ってきたその場所に立っていた。

二人の足元には、

崩れ落ちた城壁の名残が、

苔むした石塊となって散らばっている。

しかし、その残骸の間から、

色とりどりの

花々が力強く咲き誇っていた。

誰かが、毎日のように手入れをしているのだろう。


「…綺麗になったな。ここ」


太一は呟いた。

彼の体は相変わらず百二十キロの巨体だったが、

その立ち姿には、かつてのような怯えや自虐はなかった。

黒いローブは旅の風雪に耐え抜いた上等なもので、

その手には使い込まれた杖が握られている。


「ああ。あたしが初めて来た時は、

ただの無機質な壁と配管だらけだったのにな」


隣に立つリーネが、懐かしそうに目を細めた。

赤い髪は長くなり、背中で一つに束ねられている。

革鎧はより無骨なものに変わり、

背中には白銀の大剣「銀牙」が、静かな威厳を放っている。


借金は、とっくに返し終えていた。

リーネの切り詰めた生活は終わり、

ギルドからの信頼も厚い。

あの「狂犬」の悪名は

今や「銀牙のリーネ」に代わり

国内で知らぬ者がないほどになっていた。


「タイチお兄様! リーネお姉様!」


遠くから、彼らを呼ぶ声がした。

振り返ると、丘の向こうから、

一人の少女が花籠を抱えて駆け上がってくる。

白と黒のメイド服は、少し汚れている。

手には、庭仕事のための小さなスコップ。

薄緑色の髪を風になびかせ、碧色の目を輝かせていた。


ティアだった。

彼女は、あの時の小さなエルフの少女のままだった。

彼女の種族の成長は遅い。

その見た目は人間の年齢で言えば、

ようやく十五歳を過ぎたかというほどだろう。

しかし、その佇まいには、

すでに街を支える一人としての落ち着きが備わっていた。


「久しぶりだな、ティア。

また背が伸びたんじゃないか?」

「もう、お兄様はそればかりです!

エルフは成長が遅いって言ってるのに」


ティアは口を尖らせて見せたが、その目は笑っていた。


「それより、見てください。

今日のお茶は、私が新しく育てた品種なんです。

お二人に、ぜひ飲んでいただきたくて」


彼女はそう言って、花籠の中から摘みたての茶葉と、

小さな花束を取り出した。


三人は、かつて玉座の間があった場所の近く、

崩れた石壁の上に腰を下ろした。

ティアが小さな携帯用の竈で湯を沸かし、丁寧にお茶を淹れていく。その一挙動には、

あの頃にはなかった確かな風格があった。


「はい、どうぞ」

カップを差し出され、太一はそっと受け取った。

温かい湯気が立ち上り、

草花の豊かな香りが鼻をくすぐる。


一口飲み、目を細める。

「……美味い。前より、もっと美味くなってる」


「本当だ。格段にうまいな」


リーネも感嘆の声を漏らした。


「ふふ、あの頃から、ずっと練習してましたから」


ティアは微笑み、

傍らの花束を、

そっと石の台座に供えた。

台座には、何も刻まれていない。だが、

そこはかつて、玉座が置かれていた場所だった。


「今日も、持ってきました」


ティアは花束の位置を丁寧に整え、

その横に、新しいカップを一つ置いて、お茶を注いだ。


「あなたの分も、入れておきましたよ、ご主人様」


彼女は、毎日この場所へ来て、

こうしてお茶と花を供えているのだ。

その姿を、太一とリーネは静かに見守っていた。

油断すると、

自分たちの涙腺が緩んでしまいそうだったから。

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