1/71
第一章 飽和する部屋、空白の死
汗とカップ焼きそばの余韻がこびりつく六畳一間。
窓は遮光カーテンで封鎖され、
モニターの冷たい青白い光だけが、
部屋の主である厚地太一の顔を照らしていた。
百二十キロの肉体は、
安物のパイプ椅子に不等号のような歪みを与えている。
彼はコミュニケーション能力を持たなかった。
正確には、他者と情報をやり取りする
プロトコルが欠落していた。
対人関係はパケットロスの嵐であり、
彼は常にタイムアウトしてきた。
彼が世界と繋がれたのは、
ファンタジーRPGのレイドボス攻略だけであった。
テキストチャットの向こう側で、
彼は「軍師」として振る舞えた。
キャラクターの装備、
スキルのクールタイム、
敵の行動パターン。
数値化された世界では、
孤独な彼の肥大した知性は
暴走するエンジンのように機能した。
「……クリア」
画面に赤い文字が浮かぶ。
世界最速の討伐記録。
だが、その瞬間、現実の太一の心臓が痙攣した。
胸を焼くような激痛。
モニターの光が急激に遠のいていく。
(ああ、オーバーヒートか)
彼は自分の死を、
システムのエラーのように冷徹に認識した。
最期に見たのは、ギルドメンバーたちの
「おめでとう」
という無機質な文字列だった。




