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まだ知らなかった距離  作者: 遠井エイト
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第1章 パート1 — いつもの朝

いつもの朝 — ユキ


その朝、カゲツ・ユキが最初にはっきり聞いたのは、炊飯器の音だった。


階下から短いメロディが流れた。静かな家の中で明るく響き、それから、その日の役目をもう終えたみたいに止まった。その前にも音はあった。配管を流れる水の音。どこか下の方で戸が滑る音。廊下から台所へ移っていく、かすかで一定した足音。


朝はいつも、ユキが目を開ける前に始まっていた。


ユキは数秒じっとしたまま、天井の方を見た。部屋は薄暗く、カーテンは灰色の光を少しだけ受けて、机と棚の輪郭を浮かび上がらせていた。ノートの横に置いた本は、背の高さ順に並んでいる。スクールバッグは椅子のそばにあり、もう荷物は入っていた。カーディガンは椅子の背に掛けられ、袖が内側に折られていた。


前の晩、それを特に考えて整えたわけではなかった。物はただ、収まる場所に収まっていた。


ドアを軽く叩く音がした。


二回、短い間を置いて、もう一回。


「ユキ」廊下からカイトの声がした。「そろそろ朝ごはん」


声はいつもより少し低かった。眠そう、というのとは少し違う。たぶんもう走りに行って、シャワーを浴びて、着替えまで済ませている。カイトは日の出前に走って帰ってきても、何もなかったみたいな声を出せる人だった。


「起きてる」


「ん」


足音がドアから離れていった。


ユキは起き上がり、布団をきちんと折り返してから、足をスリッパに入れた。家の中はまだひんやりしている。急がずに制服へ着替えた。ブラウス、スカート、リボン、靴下。髪をとかしてから、淡い色のリボンで後ろに結び、鏡を一度確認した。


特におかしいところはなかった。


廊下に出ると、向かいのカイトの部屋のドアが開いていた。ランニングシューズが部屋の入口近くに置かれ、片方が少し前に出ている。タオルは椅子の背に掛かっていた。制服の上着はもうなかった。


また静かに帰ってきたのだ。


ユキは階段を下りた。


台所には、ご飯と味噌汁と焼き魚の匂いがしていた。母は袖をまくってコンロのそばに立ち、調理台と流しのあいだを動いている。


ユキが母にいちばん似ているのは目元と、表情のやわらかな形だった。ただ、料理をするためにまとめて留めた母の黒髪は、朝のうちにもう、こめかみのあたりで数本ほつれていた。


父はテーブルについて、朝刊を畳んで脇に置いていたが、まだ読んではいなかった。カイトは食器棚から椀を取り出していた。


身体つきの面では、カイトは父から受け継いだものの方が多かった。顔立ちの鋭い線、考え込んでいるときに表情が静かに落ち着くところ。朝食の席でさえ、父はもう家を出る前から仕事の準備を始めている人のように、乱れのない姿勢で座っていた。


「おはよう」


父が顔を上げた。「おはよう」


母がコンロの方から振り向いた。「ユキ、お漬物出してくれる?」


「うん」


ユキは冷蔵庫へ向かった。


ユキがそこに着く少し前に、カイトがそれを開けた。


「取るよ」そう言って、もう二段目を見ていた。


「じゃあ、お茶取る」


カイトは半歩横にずれ、ユキがその横から手を伸ばせるだけの場所を空けた。冷蔵庫は、二人が前に立っても楽に使えるほど広くはなかった。それでも何度もそうしてきたから、どちらも立ち止まる必要はなかった。


カイトは小さな陶器の容器を取り出した。ユキはその奥から麦茶を取った。


「ありがと」


「ん」


カイトは肘で冷蔵庫を閉め、容器を調理台に置いた。ユキが引き出しから箸を取り出すあいだに、カイトはコンロの横に椀を並べた。母が味噌汁の鍋を持ち上げてこちらを向こうとしたが、その前にカイトが手を伸ばした。


「俺がやる」


「熱いわよ」


「分かってる」


彼が来る前に、ユキは椀を一列に並べた。カイトが一つずつよそい、ユキは二つ目の椀の縁についたしずくを拭いてから、テーブルへ運んだ。


ユキはテーブルの片側に座った。カイトはいつものように、その隣に座った。わざとそうしているように見えるほど近くはない。けれど、どちらかが雑に同じ皿へ手を伸ばせば、袖が触れるくらいには近かった。


どちらも、雑には手を伸ばさなかった。


二人は、互いに間違えられるほど似てはいないと何度か言われたことがある。カイトは彼女より頭一つほど背が高く、彼女の柔らかい顔立ちに比べると少し鋭さがあり、表情も、よく知っている人でなければ読み取りにくい。ユキの顔は、何も言わなくても、もう少し分かりやすかった。


二人の黒髪は、少しだけ硬そうな同じ質感をしていた。ただ、カイトは短くしていて、不揃いな黒い髪が目のすぐ上にかかり、朝走ったあとは、そのかすかな癖が少し目立った。ユキの髪はもっと長く、腰に届くほどまで伸びている。手をかけている分なめらかだったが、二人で並ぶと、似ているところはまだはっきり残っていた。


目も同じ黒だった。ただ、カイトの目は守りが固く見えることが多く、ユキの目は考えていることがもう少し表に出やすかった。走り続けてきた年月のせいで、カイトの体つきは細く引き締まり、家でよく着ている飾り気のない服でも、力を抜いた動きまで安定して、抑えがきいて見えた。


二人は双子だった。一卵性ではない。けれど、その違いが特に問題になることはほとんどなかった。


カイトが箸を取った。ユキは醤油に手を伸ばし、使ったあとで彼の側に寄せた。少しして、彼は探すこともなくそれを使った。


母が最後に席についた。


「午後から雨かもしれないわね」窓の方をちらっと見て言った。


「午後?」父が聞いた。


「たぶん」


カイトは、二人の鞄が置いてある玄関の方を見た。「傘、入れた?」


ユキは箸で魚をほぐした。「折りたたみ」


「確認した?」


「昨日入れた」


「聞いたのはそこじゃない」


「確認した」


「ならいい」


父が新聞を少し下げ、カイトを見た。「お母さんみたいな言い方だな」


母が笑った。「それ、悪口じゃないわよ」


「悪口とは言ってない」


カイトは、その比較に返事は必要ないというように、そのまま食べ続けた。ユキは茶碗を見下ろしたが、口元が少しだけ動き、すぐに戻した。


朝食はいつものように進んだ。父が、学校で何か特別な予定はあるのかと聞いた。カイトは、たぶんホームルームで何か連絡があると言った。ユキは、アイコから同じことを聞いたけれど、詳しいことは知らないと言った。母は、後で町内会の集まりがあるから、公民館の近くの道は混むかもしれないと二人に言った。


「じゃあ、少し早く出た方がいい」カイトが言った。


ユキは壁の時計を見た。「三分」


「二分で足りる」


「本屋の近くの信号が、着く前に変わったら足りない」


カイトはもう一口食べながら考えた。「じゃあ三分」


父が、小さく笑ったような音を出した。「歩く時間までそんなに計算してるのか」


「そんなに複雑じゃないよ」ユキは言った。「遅く出ると、本屋の信号に引っかかるだけ」


「それでも計算してるように聞こえるな」


カイトは箸を置いた。「まあ、計算ではある」


ユキは彼を見た。「さっきは私に賛成してたのに」


「三分早く出ることには賛成した」


「同じ話だったでしょ」


「正確には違う」


母が湯飲みの向こうで、小さく笑うのを隠した。


朝食のあと、テーブルは少しずつ片づいていった。父が最初に出た。母から弁当を受け取り、礼を言って、玄関の鏡でネクタイを直し、毎朝と同じ落ち着いた顔で外へ出ていった。


ユキは小さな食器を洗い、カイトがそれを拭いた。母はフライパンと味噌汁の鍋を片づけていた。


流しの上の台所の窓は明るくなり始めていたが、外の空はまだ曇っていた。カイトは片手に布巾を持って、ユキの隣に立っている。ユキが椀をすすいで渡すと、彼の肘が軽く彼女に当たった。


「ごめん」


「平気」


彼は椀を拭き、水切りかごに置いた。


考えることは何もなかった。流しは狭い。朝は誰でも近くで動く。袖が触れる。手から手へ、椀や箸やタオルが渡る。いちいち気にしない方が楽だった。


終わると、カイトが先に手を拭き、そのタオルをユキに渡した。


「ありがと」


「ん」


母が時計の方を見た。「そろそろ支度しなさい」


「まだ時間あるよ」ユキは言った。


「あなたたちはいつもそう言うの」


カイトは水切りかごの最後の湯飲みを取り、しまった。「あるよ」


「信号の話をまた始める前に、お弁当だけでも持っていって」


調理台の上には弁当箱が二つあった。一つは淡い青の布で包まれ、もう一つは濃い緑の布で包まれている。ユキが青に手を伸ばした。カイトもほとんど同時に緑に手を伸ばし、それから、彼女が先に取るまでほんの少しだけ止まった。


「ありがとう、兄さん」


「ん」


その呼び方は、二人のあいだで自然に口に出た。ずっとそこにあるものだった。学校では、誰かが会話にいて、分かりやすくする必要があるときには名前で呼ぶ。家では、そして外でもたいていは、彼は兄さんだった。数分だけ先に生まれた兄。ただし彼は、その差でユキの上に立とうとしたことはなかった。ただ、そういうものだった。


カイトは弁当を鞄に入れ、それから片手を中に入れたまま止まった。


ユキはリビングの棚の方をちらっと見た。


「数学のワーク、そこに置きっぱなし」


彼はユキの視線を追った。


郵便物の束の横に、ワークが一冊置かれていた。


「気づくよ」


「授業の前に?」


「うん」


「小テストの前に?」


彼は部屋を横切って、それを取った。「たぶん」


「それ、あまり説得力ない」


「じゃあ、絶対」


「言葉を変えただけで、事実は変わってない」


彼はワークを鞄に滑り込ませた。「それでもまし」


流しのそばに立っていた母が、軽く首を振った。「あなたたち、お互いがいなかったらどうするのかしらね」


一瞬、どちらも答えなかった。


朝がうまく回っているときに、親がそれを大げさに聞こえないように言う、そういう言葉だった。


カイトが鞄のファスナーを閉めた。「忘れ物する」


ユキは自分の鞄の肩紐を直した。「もっと効率悪く」


「意味が分からない」


「考えれば分かる」


「考えたくない」


母は笑って、調理台へ戻った。


玄関で、ユキはローファーに足を入れた。カイトは、まだ誰も出ていないのに内側からドアの鍵を確認した。彼はいつも、出る前に一度、ドアを閉めたあとにもう一度確認する。ユキは鞄のサイドポケットから折りたたみ傘を取り出し、そこにあることを確かめた。


カイトはそれに気づいた。


何も言わなかった。その代わり、傘立てから長い傘を取った。


「それ持っていくの?」ユキが聞いた。


「雲が重そう」


「学校で邪魔になるよ」


「雨が降ったら邪魔じゃない」


それは本当だったので、ユキはそれ以上言わなかった。


母がタオルで手を拭きながら玄関に来た。「気をつけてね。雨がひどくなったら、まっすぐ帰ってきなさい」


「うん、そうする」ユキは言った。


カイトがドアを開けた。


冷たい空気が先に入り、まだ雨は降っていないのに、湿った舗道の匂いを運んできた。ユキは彼のあとに外へ出て、小さな段の上で鞄の肩紐を直すために立ち止まった。頼む前に、カイトが横へずれた。


そこは狭かった。通り過ぎるとき、二人の肩が近づいた。


触れそうで。


触れなかった。


ユキは家の前の小道へ下りた。カイトも続き、後ろでドアを閉めた。鍵の音が一度して、それから彼が確かめたあと、もう一度鳴った。


ユキは振り返らなかった。彼がそうしたことは、もう分かっていた。


家の外の道は静かだった。低い塀、刈り込まれた植え込み、カーポートの下に収まった自転車が並んでいる。近くのどこかで犬が一度吠え、それきり止んだ。向かいの家の二階の窓で、カーテンが少し揺れた。


カイトがユキの左側に並んだ。角の近くで歩道が狭くなる、車道に近い側だった。


ユキは歩調を半歩だけ整えた。


カイトは横を見ることもなく、それに合わせた。


二人は学校へ向かって歩き始めた。



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こちらは、ユキとカイトが描かれた表紙イラストです。

https://imgur.com/74IAyHr

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