40 野菜類と果物収穫
家の裏庭へ向かって、畑の様子を確認した。
昨日の朝はまだ芽が出たばかりだった枝豆と大豆が、今日は実をつけている。
果樹の方も、想像通りというべきか、りんご、梨、みかんがそれぞれの枝にずっしりと実っていた。
数日で結実するなど、本来なら有り得ない速度だ。
でもこの畑では、それが普通になりつつある。
「すごいですね……毎日見るたびに変わっている」
メセタも目を丸くしている。
「もう驚かないようにしているんだけどな」
「我が君は淡々としていますが、わたしはまだ慣れません」
俺は苦笑しながら、収穫を始めた。
りんごは赤くつややかで、手に取るとずしりと重い。
梨はうっすら黄色味を帯びていて、皮に細かな斑点が浮かんでいる。
みかんは鮮やかなオレンジ色で、皮を軽く押すとぷりっとした弾力がある。
どれも見るからに美味しそうだった。
収穫した果物と野菜の一部はコンテナに分けて、倉庫に保管しておく。
今日使う分だけを別のコンテナに移して、家の中へと運び込んだ。
---
台所に立って、まずはりんごから手をつけた。
「我が君、それなに?」
「りんごだよ」
「ジュースになっていたやつ!?」
「そう。ジュースになる前の状態」
「食べてもいいの?」
「剥いたら食べさせてあげるよ」
「わーいであります!」
メセタの尻尾が早速揺れ始めた。
包丁でりんごの皮を薄く剥いていく。
りんごは皮と実の間に栄養が多いから、本当はあまり厚く剥かない方がいい。
螺旋状に切れ目を入れながら、皮を一本に繋げて剥いていく。
最後までうまく繋がると、なんとなく満足感がある。
くし切りにして、芯を落とし、皿に盛り付けた。
最初の一切れをメセタの口元へ持っていく。
「しゃく……もぐ……」
メセタが目を細めた。
「甘くて、酸っぱくて、美味しい!」
「気に入ったか」
「ジュースのときの味と全然違いますね!こっちの方が果物らしい味です」
「ジュースは絞って濾しているからね。生のりんごは食感も含めて楽しめるんだ」
俺もひと切れを口に運んだ。
しゃく、と歯触りがあって、噛むと甘さと酸味が一緒に広がる。
果汁がじゅわっと溢れて、後から軽い渋みがほんのり残った。
文句なく美味い。
---
果物の片付けを済ませてから、今度は枝豆と大豆を見た。
どちらも穀物の仲間だから、常温で保管しておけるのが助かる。
すぐに使う必要がない。
そして枝豆と大豆の畝の隣で、もうひとつ嬉しい発見があった。
緑豆もやしが収穫できる状態になっていたのだ。
もやしは料理の幅を一気に広げてくれる食材だ。
炒め物、汁物、和え物、ナムル。
使い道がいくらでもある。
(今日はもやしを使った料理も入れるか)
頭の中で献立が少しずつ膨らんでいく。
---
「メセタ、枝豆も茹でて食べてみるか?」
「枝豆?美味しいものなら何でもいいです」
「即答だな」
「美味しいというのが分かっているなら、迷う必要はないであります」
もはや堂々と言い切る潔さだ。
片手鍋に水を張って塩を入れ、沸騰させる。
沸騰したら枝豆をさっと投入。
しばらく茹でていると、表面に細かい泡と一緒に灰汁が浮いてくる。
「灰汁取り網」
ぽんっ。
手に網が収まった。
水道の蛇口を捻って、網を時々洗いながら、浮いてきた灰汁を丁寧にすくっていく。
灰汁を取らないままだと、雑味が残って枝豆本来の風味が損なわれてしまう。
地味な工程だが、味の仕上がりにしっかり影響する。
ある程度灰汁を取り終えたら火を止めて、ザルにあけて粗熱を取る。
粗熱が抜けたところで皿に盛り付け、塩をひとつまみ振りかけて手揉みする。
塩を後から馴染ませることで、枝豆の表面にほんのりと塩味がつく。
茹でる時の塩は身の中まで染み込ませる役割、振り塩は表面の風味付け。
役割が違うのだ。
メセタの分は豆だけを取り出して、別の皿に並べておく。
莢ごと出しても食べづらいだろうから。
「どうぞ、食べてみて」
「あむ……」
メセタが豆を口に入れた。
もぐもぐと噛んでから、目をぱっと開いた。
「塩気があって美味しい!豆そのものの甘みもしっかりしてる!」
「これが枝豆だよ」
「これも美味しいですね……世の中には美味しいものがたくさんあるのですね」
「これはほんの一部だよ」
メセタが感心しながら、もぐもぐと食べ続けた。
---
枝豆を食べさせながら、頭の中で考えていることがあった。
大豆と枝豆を畑に植えたのには、ちゃんと目的があったのだ。
まずは納豆。
大豆を発酵させた納豆は知られているが、枝豆を使った発酵納豆というのも作れる。
それぞれ風味が違って、食卓の選択肢が広がる。
次に味噌だ。
大豆味噌は一般的だが、枝豆味噌というのも美味しい。
甘みが強くて、汁物に使うと優しい風味になる。
そして、もし作れるならばだが、豆腐。
大豆豆腐と枝豆豆腐の二種類が作れる。
ただし豆腐を作るには、にがりが必要だ。
にがりは本来、海水を煮詰めて作るもの。
海に面した塩田地などでなければ手に入れにくい貴重品だ。
俺の能力で出せるかどうかは、明日願ってみないと分からない。
もし作れたら、この世界の食文化に少しだけ新しい風を入れることになるかもしれない。
とはいえ、それを世に広めて発明品として献上するつもりはない。
あくまで、自分とメセタが美味しく食べるためだ。
誰かに認められたいわけじゃない。
ここでの暮らしを豊かにできれば、それで十分だ。
(でも、にがりが手に入ったら、メセタに豆腐の味噌汁を作ってあげたいな)
そう思いながら、俺は枝豆の最後のひとつを口に運んだ。
---




