39 翌日ごみ捨てと魔導式回収車輌と御対面する
その夜も、俺とメセタは一緒に風呂に入った。
メセタの背中を丁寧に洗って、俺の髪と身体も洗ってから上がる。
風呂後はリビングでの団欒だ。
今夜のおつまみはサラダとりんごジュース。
テーブルに並べてから、テレビをつけた。
---
昨日のようなミステリードラマは今日はやっていないが、面白そうなバラエティ番組が放送されていた。
画面には島田長介という人物が映っている。
語り口が独特で、人生の本質をついたような言葉をさらりと言ってのける。
俺もメセタも、いつの間にか前のめりになって聞いていた。
「この人はかなりやり手の語り手でありますね」
「元々はお笑い芸人なんだけどね。色んな経験から来る言葉だから、なんとも納得がいくんだよ」
「分かります。言葉に重さがある」
メセタが静かに言った。
笑いを生業にしながら、人の心に刺さる言葉を持っている人というのは、確かに面白い存在だ。
おつまみをつまみながら、ふたりでしばらくテレビを眺めた。
番組が終わる頃には、サラダも空になっていた。
---
リビングの電気を消して、寝室へ向かう。
ベッドに入って、メセタと並んで横になった。
今日も色々と充実した一日だった。
畑の様子を見て、ハンバーグと肉豆腐を作って、メセタと一緒に食べた。
それだけのことが、なんだか遠い昔のことのように思えるくらい、濃い一日だった。
おやすみの言葉を交わして、目を閉じた。
---
翌朝。
目覚まし時計が6時に鳴った。
起き上がって、まず朝食の準備にかかる。
今日のトーストには、昨日仕込んでおいたミルクバターを使うことにした。
トースターで焼いた食パンを取り出して、表面にミルクバターをたっぷりと塗る。
バターが温かいトーストに触れた瞬間、じわりと溶けながら広がっていく。
甘い香りがふわっと立ち上がった。
まずメセタの分を皿に乗せて、前に置いてやる。
メセタがひと口かじった。
目がきらきらと輝いた。
「甘くて美味しい……!これがミルクバターですか!?」
「そうだよ。牛乳と砂糖だけで作ったやつ」
「バターとも違う……もっと柔らかくて、甘みが強い」
「オレンジジュースとも合いそうだと思うけど、どう?」
「ですね!一緒に食べたいです!!」
オレンジジュースを深皿に注いでメセタの前に置いた。
ミルクバタートーストを一口、オレンジジュースをひと舐め。
メセタの尻尾が、静かに、でも確かに揺れていた。
俺も自分の分を食べた。
ミルクバターの甘みとトーストの香ばしさが口の中で合わさって、じんわりと幸せな気持ちになった。
シンプルなのに、こんなに満足感がある。
---
食後、ゴミをまとめることにした。
指定ゴミ袋にゴミを詰めて、口をしっかりと縛る。
着替えを済ませてから、メセタと一緒に外へ出た。
森の街道を池の方へ歩いていくと、途中にゴミステーションがあった。
すでにいくつかのゴミ袋が置かれている。
自分のゴミ袋を並べておいてから、周囲を見渡した。
すると遠くから、ガドガドという重い音が響いてきた。
「あれが魔導式の回収車輌です」
メセタが耳をぴんと立てて言った。
木立の向こうから、大型の車輪を持つ乗り物がゆっくりと近づいてくる。
見たことのない形状だが、確かに車輌だ。
魔導炉の力で動いているのか、排気音のような音はなく、かわりに低くて一定したガドガドという駆動音だけが響いている。
車輌が止まって、御者台から女性が降りてきた。
すらりとした長身で、仕事着に身を包んでいる。
落ち着いた目をしていて、人慣れした雰囲気がある。
「回収時間には間に合ったようだね。近くに住んでいるの?」
俺に向かって声をかけてきた。
「はい、この先の森の中に」
「そうかい。あたしは『』。この辺の回収担当をしているよ」
俺は少し考えた。
「……『坊や』って呼んでいいですか?」
口から出た言葉に、自分でも少し驚いた。
綺麗なお姉さんに、思わず呼び名を提案してしまっていた。
「坊やかい。構わないよ、好きに呼んでちょうだい」
---
ゴミを回収車輌に積み込んでもらってから、俺とメセタは来た道を戻り始めた。
すると後ろから声がかかった。
「おや?この先の家が坊やのところかい?」
振り返ると、お姉さんが家の方を見ながら歩いてきていた。
「そうですよ」
「このハイランドウルフも、坊やの子かい?」
「相棒のメセタです」
「どうも初めまして、メセタです」
メセタが丁寧に挨拶した。
お姉さんが少し首を傾けた。
「なんて言ってるんだい?」
「『どうも初めまして、メセタです』と言っています」
「この子の言葉が分かるんだ」
「俺の能力らしくて、気づいたら分かるようになっていました」
「そいつは凄いね」
お姉さんは家をじっくりと眺めた。
「この家……見たことない作りだね。この辺には珍しい」
「そうなんですか?俺の元いた場所ではごく普通の建築だったんですが」
「そうなんだね。また会うかもしれないね、坊や」
そう言って、お姉さんは回収車輌に戻って、街の方へと走り去っていった。
ガドガドという音が、だんだん遠くなっていく。
---
(きれいな人だったな……)
俺がぼんやりとそんなことを考えていると、横からぽんぽんと肩を叩かれた。
メセタだった。
「我が君……あの人、好みなんちゃう?」
「ばっか!そんな訳……」
言葉が止まった。
(図星ですかね……むふふ)
メセタがすました顔で前を向いた。
尻尾がわずかに揺れている。
俺はそれ以上何も言えなくて、咳払いをしながら家の中へと歩いていった。
---




