19 ホワイトクリームを作るぞ
さて、まずはホワイトクリームルーから仕上げてしまおう。
フライパンをコンロに置いて、バターを念じた。
ぽんっ。
テーブルの上に、長四角の包み紙に包まれたバターが現れた。包み紙には『徳用!固形切れてるバター』と、そのままの文字が印刷されている。
(言った通りのやつが出てきた……)
もはや驚かないと決めていたのに、思わず脱力してしまう。まあいい。ありがたく使わせてもらう。
包み紙を丁寧に剥がすと、中には一切れずつ小分けにされたバターが並んでいた。一切れだけ取り出して、残りはまとめて冷蔵庫へ。バターは温度管理が大事だ。
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弱火にかけたフライパンに、バターをひとかけ投入する。
ジュワッという小さな音とともに、バターが溶け始めた。淡い黄色が広がって、澄んだ香りがふわりと立ち上がる。この香りだけで食欲が刺激される。バターというのは不思議な食材で、熱を加えた瞬間からキッチンの空気を変えてしまう。
バターが全体に溶けたところで、小麦粉を大さじ三杯、フライパンに振り入れる。
しゅーっ。
粉がバターを吸い込みながら混ざっていく。木製ヘラで手早くかき混ぜ、粉に軽く火を通す。この工程が大事だ。小麦粉の生臭さを飛ばすことで、仕上がりのソースに雑味が出なくなる。
次は牛乳だ。計量カップに200mlほど注いで、フライパンに少しずつ流し込んでいく。一度にどっと入れると塊ができてしまうから、少量ずつ加えながらヘラで丁寧に伸ばしていく。
塊が残っていると食感が損なわれる。焦らず、ゆっくり。混ぜながら伸ばして、また少し牛乳を足して、また伸ばす。その繰り返しだ。次第に全体がなめらかになって、とろりとした質感が生まれてくる。
塩をひとつまみ加えて味を確認する。バターのコクと牛乳の甘みが合わさった、優しい味だ。もう少し塩を足して、調整完了。
「できた」
ひとまとめにしたホワイトクリームルーが、フライパンの中で静かに湯気を上げている。バターと牛乳が混ざり合った芳醇な香りが、キッチン全体にゆっくりと広がっていった。
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「いい匂いですね」
メセタが鼻をひくひくさせながら近づいてきた。
「ホワイトクリームルーが完成したんだ。パスタに使う」
「食べられますか?」
「このままだと少し濃すぎるから、今は駄目。パスタに仕立ててからね」
「そうですか……」
名残惜しそうにフライパンを眺めているメセタに、続けて話しかけた。
「これに海老とあさりを入れるんだけど、甲殻類とか貝類って食べられる?」
「食べられますよ。でも……海老ってなんですか?あさりって?」
そうか。この世界は海が近くにない。海産物を見たことがないのは当然だ。
「実物を見せた方が早いな」
むき海老とボイルしたあさりを乗せたトレーをメセタの前に置いた。
しばらく沈黙があった。
「……何これ」
「海老とあさりだよ」
「何これ」
「だから海老と――」
「きんも!!特にこの丸い筒みたいなの出てる小さいやつ!!見た目がきんも!!」
あさりのことだ。二枚の殻の間から、ぷくっと身が出ている。確かに、初めて見る者には奇妙な見た目かもしれない。
「まあ……見た目の話はわかるけど、味は保証するよ」
「本当に?」
「あさりはね、だし汁の宝庫って言われるくらい旨みが強い食材なんだ。貝の中に凝縮されたうまみが、スープにもソースにも溶け出してくる。これが入るだけで、料理の深みが全然変わる」
「ほへえ」
メセタが恐る恐るあさりを覗き込んだ。見た目への拒絶感と、旨いと言われた期待感が、顔の上でせめぎ合っているのがわかる。
「海老の方はどうですか?」
「海老はぷりぷりした食感と甘みが特徴だよ。火を通すと赤くなって、香りも出てくる。こっちは見た目も食べやすい方だと思うけど」
「そっちの方が確かに……まだ見られる見た目ですね」
「あさりも食べてみれば絶対わかるから」
メセタはまだ半信半疑の顔をしていたが、尻尾はゆっくりと揺れていた。
食べてからのお楽しみだ。
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