17 穀物酢を加えマヨネーズは完成する。夕飯はあれにする。
穀物酢を大さじ一杯、細く垂らしながらボウルに加えて、電動泡立て器を再び動かす。
酢が混ざり込んだ瞬間、ツンと鼻をくすぐる酸味の香りが広がった。白くもったりとしていた生地が、さらになめらかになっていく。少し味を見て、酸味が足りなければもう少し足す。濃すぎれば、そこで止める。
スプーンで少しすくって舌に乗せる。
クリーミーなコクの奥に、酢のきりっとした酸味。卵の風味がそれを丸くまとめていて、塩が全体を引き締めている。
「……この味だ」
電動泡立て器を止めた。
マヨネーズ、完成。
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スプーンに少量取って、メセタの前に差し出す。
「これが、マヨネーズ?」
「そうだよ。卵と油と酢で作った調味料だ」
メセタが鼻を近づけた。銀色の鼻がひくひくと動く。
「黄色がかった色で……酸味のある匂いですね。でも、きつくはない。むしろ……美味しそうな匂いがします」
「じゃあ舐めてみて」
メセタが恐る恐るスプーンに舌を当てた。
次の瞬間、ぴたりと動きが止まった。
「……っ」
目がゆっくりと開いていく。潤んでいるように見えた。
「こ、これは!?」
「どうした?」
「酸味がある!芳醇な香りがある!クリーミーで……でも重くない!なんだこれは!?生きる知恵の宝石箱ではないですか!?」
「大げさだよ」
「大げさではありません!こんなに美味しいものが卵と油と酢から出来るなんて……これを最初に考えた方は本当に偉大です」
「そこは同意する」
俺も心からそう思う。シンプルな材料から、これだけ複雑な味わいが生まれる。料理というのは面白い。
「それで、このマヨネーズはどうやって食べるのですか?」
「さっきのサラダに掛けるんだよ」
メセタが固まった。
「……掛ける?」
「そう。野菜に掛けて食べる」
「まじですか!?」
尻尾が高速回転した。さっきまでの神妙な顔はどこへやら、全身で喜びを表現している。
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その様子を見ながら、俺の頭の中で何かが繋がり始めた。
(マヨネーズが材料として使えるなら……夕飯の献立、あれにできるんじゃないか)
「いいこと思いついた」
「なにか閃いたんですか?」
「ああ。マヨネーズを調味料として使った料理だよ。海のやつを揃えれば……」
俺は一気に念じた。
鯵、フライにしやすいよう下処理済みのもの。海老、殻を剥いたむき海老。蟹、足だけ。あさり、ボイル済みのもの。
ぼんっ。
テーブルの上に、四種類が一気に現れた。しかも、指定した通りの状態で。鯵はきれいに開かれていて、海老はぷりっとしたむき身、蟹足は食べやすい長さに揃い、あさりはしっかりボイルされている。
「これは……たくさん出てきましたね」
「魚介類だよ。今夜の主役たち」
(下処理済みで出てくるのはありがたい。特に鯵は手間がかかるからな)
鯵をしげしげと眺めながら、あと一つ必要なものを思い出した。
(そうだ、鯵に合わせるならあれだ)
「らっきょの酢漬け」
ぽんっ。
瓶詰めのらっきょが現れた。薄く色づいた甘酢の中に、丸いらっきょがぎっしりと詰まっている。瓶を傾けると、とぷんと揺れた。
(これだよ、これ)
鯵フライにマヨネーズ、そしてらっきょの酢漬け。この三つが揃えば、あとは揚げるだけだ。
「我が君、これは何をするのですか?」
「今夜は揚げ物だよ」
「あげもの!?」
「海老フライに蟹クリームコロッケ、鯵フライ……あさりは味噌汁にしようかな」
メセタの目が、見る見るうちに輝いていった。
「全部食べたいです!!」
「作るから待ってて」
俺はエプロンを念じて受け取りながら、今夜の夕飯の段取りを頭の中で組み立て始めた。
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