幕間 「さよなら、アーネスト。元気でね」
昼間の騒ぎは、ジェネラル様が12回ほど噛まれたところで。お嬢さまの顎が外れかかり痛み分けで終了です。ゴートマンの背中に担ぎ上げてお屋敷まで緊急搬送となりました。
今は明日の準備も全て終わって、お屋敷の外の街を見下ろせる場所でお嬢さまとふたりで寝こけてるゴートマンに寄りかかって、アーネスト領にお別れする会です。
「どう、ルナリア。アーネストは素敵な場所でしょ?」
「みなさま活気があって豊かで素敵な場所ですね」
「でしょう。わたくしの宝物ですわ」
お嬢さまが本当に自慢げにお話ししてる。大好きなんですね。
「でもね、この街も屋敷も7年前、一度戦火に呑まれたのよ」
ゴートマンの耳がピクピクっと動いた。魔族との戦争の時の話だものね。シャムロックにも気になりますよね。
「まだ小さかったから、火に焼かれる屋敷や逃げ惑い叫んでる人々それが怖くて悲しくて、わたしは震えて泣いていただけだったわ」
お嬢さまが自分の両肩をぐっと抱きしめた。
「まあ、戦いはなんとか兵達の犠牲とクエルク兄様が年も満たないのに無理矢理『血の盟約』をしたり、母さまが、聖女の禁を破って攻めてきたた帝国皇帝を禁呪で撃退したりでかろうじて凌げたけどね」
お嬢さまが、ちょっと辛そうに話してくれた。シャムロックも完全に目を覚まして話を聞いてる。お嬢さまがそれに気づく。
「でもね、それについてはいいの、今なら魔族が攻め入らなきゃならなかった背景とかも理解もできるしね」
「そうなんですか? 結構遺恨て残るものだと思ってました」
「そうね。普通は残るでしょう。当然ですわ。でもね、わたしたち兄弟、いえ、わたし達アーネストには、もっと許せない遺恨があるのよ」
お嬢さまが、身体から青白い炎が渦巻いて見えるほどの冷たく残酷な表情を浮かべてます。見てるわたしの背中まで冷たくなった気がした。
「わたし達、アーネストは王国に見捨てられて、帝国への生贄に差し出されたのよ」
「セシリア、それは本当か?」
思わず、シャムロックが口を、挟んでしまった。
「残念ながら事実よ。アーネストの禁書庫の奥には、それを裏付ける密約書が保管されてるし、実際その時に援軍はひとつも来なかったのよ。同じ王国の中なのにね」
お嬢さまは、シャムロックに目線を合わせて話を続ける
「密約に実際に関わったのは王国と帝国の一部の貴族なんだけどね。ても多分、みんな薄々は感づいていてそれを黙認し静観し容認したのよ。それを許せるほど、アーネストは寛容ではないのよ」
噴き上がる静かな怒りを飲み込むように、お嬢さまが大きく息を吐いた。この小さな身体にどれだけの怨嗟が渦巻いているのかは、想像もつきません。
「でもね、だからと言ってわたし達アーネストの復讐はただ関わった人を断罪すれば終わりなんて陳腐なものじゃ終わらせないのよ」
お嬢さまが、くるりと表情を変えて、イタズラっぽい声でシャムロックに質問する。
「ねえ、シャムロック。あなたのお祖父様である始祖皇帝ってどんな方だったの?」
いきなりの質問に少し戸惑った顔をした後、ウーンって悩みだした。
「どんなってな、爺さんのことは俺もよくわからないんだよ。実はなオヤジ殿に帝位を譲ったあとしばらくはおとなしく隠居してたんだが七、八年前から行方しれずなんだよ」
「あっ、これ内緒な。まあ獣人種には珍しく妖狐なんてギフトだから寿命も延びてるはずで死んではいないとは思うけどな。ギフトのスキルで変幻自在だからな、もしかするとアーネストあたりで人に化けてノホホンと暮らしてるかもしれないんたよな」
とんでもない秘密を話してるんじゃないのシャムロック?
「まそんなわけで、爺さんについては小さい頃に一度抱き上げられた時に、真面目な顔して『この世界を頼むぞ』なんて言ってて、国じゃなくて世界かよなんて思ったくらいかな。
そんな語りを興味いっぱいで聞いてるお嬢さまに気づいてシャムロックが聞き返す。
「で、なんで始祖皇帝なん?」
「決まってるじゃない。尊敬する偉人だからよ」
「なんでおまえが敵の魔族の皇帝を尊敬しでんだよ。おかしくね」
お嬢さまがまた街を見て、ゴートマンのお腹にバフンと背中を沈めちゃいました。
「始祖皇帝はね。わたし達、兄妹にはとても眩しく感じられたのよ、それまで今の人族なんかよりずっと争いの多かった魔族の統一を果たして曲がりなりにも魔族間の争いのない世を実現させた、まさにわたし達の理想なのよ」
「まだ確かに問題は山積みだけど表面上は魔族は一枚岩になったのは確かだな。それでおまえ達兄妹が人族でも統一するのか?」
「あらやだ!なんでわかったの? わたしたちの悲願よ。少なくともクエルク兄さまは本気よ。家督を継いだら即、始めるとおもうわ」
なんかすごくきな臭い話しされてますが大丈夫ですかおふたりとも?
「で、おまえも兄と一緒に統一を目指すのかい、セシリアお嬢さま?」
寝そべりながらお嬢さまが視線をシャムロックに向ける。なんか波動を感じるわ。わたしのシックスセンスセンサーが感知しているわ(嘘)
とりあえずわたしもお嬢さまのお隣に肘を立ててダイブよ
「ぐぇ!」
シャムロックが呻いた。お嬢さまがクスリと笑う
「わたしはね、女の子だからね覇の道なんて進めないしね」
「「えっ?!」」
「なんか言いました?」
「「いえ、何も。」」
「まあ、いいわ。わたしの夢もやっぱり人族のいえ、大陸の統一による国同士の争いを無くすことかな。でもね、わたしはそれがクエルク兄さまで無くてもいいのよ」
少し腰を上げて眼下の街を眺めながらお嬢さまが続ける。
「出来るだけ争い無く圧倒的な力で最小限の犠牲を持って最高の結果を出せるよう強くあれる王が理想よ。そんな方どこかにいないかしらね。どうシャムロック?」
「そうくるのか。そのうち現れるんじゃないか? 多分そんなに待たなくてもな。でもそんな政治的な意図だけで好きなやつ決めるとかおかしくないか?」
「あら、やだそんなことないわよ。そんな強くて理知的な殿方が素敵じゃないわけないでしょう? それに、もしわたくしがそんな理想と、かけ離れた殿方を好きになっても大丈夫よ」
ラブコメの波動がわたしのセンサーをピンピンに刺激するわ。セシリア刀を持ってきてないことに感謝しなさいこの人面山羊!
「で、お嬢さまなぜに大丈夫なのです?」
「決まってるじゃない! わたしが世界の覇王に担ぎ上げるんだから」
めちゃくちゃいい笑顔ですね。お嬢さま! シャムロックも苦笑してますよ
さて明日はついに出発です。アーネストの街ともしばらくお別れです。
元気でいてね。




