第4話 呪い
お待たせしました、第4話です!今回はろくに話が進まないです、申し訳ありません。
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「君は鶏か何かかい?」神島がどすの効いた声をだし、こちらを睨みつける。
放課後、俺は急いで学校を飛び出し、神島の屋敷へと向かい、彼に田島さんの事を話した。話しを聞くにつれて、彼の顔は険しくなり、こちらが話し終える頃には鬼も裸足で逃げ出すような表情を浮かべていた。
「昨日、僕が何て言ったかもう忘れるとは、君も偉くなったものだねぇ」
「ち、違うからな。俺から関わったわけじゃ・・・何とか言い訳しようとするも、言葉を遮られる。
「君からとかそういう問題じゃないんだよ。言ったじゃないか。君は憑かれやすい、と。夏休み以来、この街には良くないものが蔓延っている。君が意識的にせよそうでないにしろ、君が動けば、やつらもそこにいる。いい加減、自覚しろ」
彼はそう言うと、こちらから視線を外し、葉巻を吸い始める。
「すまん」
素直にそう謝るしかなかった。今の神島はそれくらい怒っているのが見てとれたからだ。暫く、お互い無言の時間が続く。時間の感覚が無くなる。
何秒?何分?それとも、何時間?無限とも覚える時間を気まずく過ごしていると、突然、仁さぁん!と元気な声が襖の奥からドタドタという足音ともに聴こえてくる。
「なんだい、騒々しい」
神島が漸く口を開き、漸く、この気まずい空間から抜け出すことができる。
(梓さん、ナイス!)
抜け出すきっかけを作ってくれた人に感謝の言葉ともに心の中でガッツポーズをする。だが、心を読まれたのか、神島からギロリと睨まれ、すぐに姿勢を正す。
「騒々しいとは、酷い!折角、お茶を持ってきたのに!」
この人は神島梓さん。俺の目の前に座っている男の奥さんだ。どこからどう見ても10代半ばにしか見えない風貌をしているが、年齢は神島と同じ三十半ば。初めて会った時はこの人も実はやつらに憑かれているのでは
ないかと思ったものだ。
「この馬鹿に茶なんていらないよ」
「まぁ、酷い。折角、こんな胡散臭いところにきてくれたのに。岩戸くん、いつも来てくれてありがとうね」
そう言って、ニッコリ笑うと、茶の入ったコップを俺の前に置いてくれる。
「は、はい!」天使のような笑顔に思わず声が上ずる。人妻だというのが嘘ではないかと思えるくらいその笑顔は若々しかった。
「何をデレデレしてるんだい?」
地獄の亡者のような声が横から聞こえる。首をそちらに向けると、鬼も裸足で逃げ出すような表情を浮かべた男がこちらを見ていた。
「すいませんでした!」
神島も嫉妬するんだな、と思っていると、梓さんがにこやかに彼の前にもコップを置き、彼の方を変わらずの笑顔で見る。
「仁さん、焼きもち焼くのはいいですけど、高校生を脅しちゃだめでしょ?」
「あ、ああ。すまん、気をつけるよ・・・」
だが、声はどこか平坦で、有無を言わせぬ気配を漂わせており、さすがの神島も素直に謝ることしかできていなかった。
(すげぇ、神島が謝ってる)
その光景をみて呑気に関心していると、梓さんがじゃあ、ごゆっくりと、手を振って、部屋から出て行く。それを名残惜しそうに見送る。再び、部屋は辛気臭い男二人だけになった。
「尻にしかれてんだな」ボソリと呟く。いつも偉そうにしている男の弱点を知ることができ、早速攻めてみることにした。
「黙れ」神島は短く返してくる。だが、いつもと違い、どこかキレがなく、全く怖くなかった。
「なあ、どうやって知り合ったんだよ、神島。後学のためにも教えてくれよ神島。あんな良い奥さん、どこで捕まえたんだよ、神島」
「黙れ」
「なぁ、なぁ、なぁ!なぁ!」めんどくさい状態に突入していることを自覚しつつ、神島へと迫る。この機会
を逃すなんて、ありえない!その思いで邁進していく。だが、それは直ぐに遮られることとなった。
「君、それ以上言うと、空ちゃんに言ってしまうよ?」
「何をだよ?」空に告げ口されて困るようなことをした覚えはないのだが・・・
「君が女子生徒の下着を凝視していた、とね」
「やめてください、お願いします」いや、凝視していないけど。むしろ蛇の跡に目がいって、色すら覚えてないけど。でも、それでも神島が空にそう言ってしまえば、間違いなくあいつは信じるだろう。そうなったら、暫く話してもらえないかもしれない。
「よかろう、君も他言しないように」
もちろん、という風に首を縦に振って応える。結局、弱みを一つ握っただけで、神島に立ち向かうのは俺には十年早いようだった。
「それで、話を戻すが、その女子高生の特徴を教えてくれないか?」
梓さんに入れてもらったお茶をすすりながら、神島は話を本筋へと戻した。
「なんだ、結局、手伝ってくれるのか?あんなに怒っていたのに」
「仕方ないだろ。終わってしまったことだ。今更引き返せないしね。でも、覚悟しておけよ。まず、間違いなく、君は酷い目にあう」
脅し文句に思わず、唾を飲む。だが、神島のいう通り、もう俺は関わってしまった。今更、逃げ出そうなんて、虫のいい話だ。覚悟を決め、彼に田島さんの特徴を話す。
「ふむ、その娘は使役者じゃないね」特徴を聞いた後、彼はきっぱりと言い切った。
「何で、そう思うんだよ、会ってもいないのに」
「いや、君の方こそどうして、田島さんを使役者だと思ったんだい?」
「そりゃ、蛇の跡が・・・いや、違うな」
「気づいたようだね」
蛇の跡を見て、昨日、殺されかけた光景がフラッシュバックしたせいで、自分は被害者であり、蛇を持つものは加害者であると勝手に思っていたが、それは違う。思い込みもいいとこだ。むしろ、最初にそう考えるべきだろうに。
「彼女も被害者か」
「ああ、それに昨日君が見たという女子高生とも特徴が一致しないしね」
「何で、お前がそんなこと知っているんだ?」
神島が助けにきた頃には彼女の姿はどこにもなかったはずだ。
「なに、知り合いの警察官に頼んで、路地裏近くの監視カメラを見せてもらっただけだよ。というか、君もその女子高生は見ていたはずだろ?」
「いや、それがその娘の後ろにいたやつに気を取られて、イマイチその娘の特徴を覚えてないんだよ」
「本末転倒もいいところだね」
「全くだ。面目無い」
「君に最初から面目なんてないだろ」
「酷い事言ってんじゃねぇ!」あるよ、面目くらい!汚れすぎて、見えなくなってるけど。
「まあ、それは置いとくとして、問題は学校内の被害者が田島さん一人なのか、ということだよ」
「もっと、いるってのかよ」
昨日、大の大人がのたうちまわっていたのを思い出す。大人であれなのだ、高校生の身で、ましてや女子が被害になんてあったら怪我で済まない恐れすらある。
「僕の予想が正しければ、もう十五人はいるね」
「なんだよ、やけに具体的な数字じゃないか」
「ああ、調べたからね」
「どこをだよ」
「神代高校女子バスケ部の部員数を、だよ」
ここにきてようやく、ある結論に至る。どうして、田島さんに蛇の跡があると知った時点で気づかなかったのか。自分の鈍感さに腹がたつ。
「文化祭を辞退したのはまさか、これのせいか?」
「ああ、おそらく、ね。しかも使役者もその中にいる可能性が高い」
「なに!?」
「蛇の呪いを相手に仕掛けるには条件があってね。昨日、路地裏で暴れたように蛇を召喚して無差別に襲わせるだけなら問題ないんだが、長期的に特定の人間を苦しめようとするとなると、なかなかに面倒な条件なんだ」
「なんだよ条件って?相手の名前を知っているとか、か?」
「いや、それじゃ、優しすぎる。もっと、嫌らしくて、ねちっこい、それこそ、蛇みたいな条件なんだ。それは、相手の弱みを握る事。それが相手を蛇で縛る条件さ」
「弱みを握る?」
「ああ、正確に言えば、相手よりも精神的に有利になるって事なんだけどね。相手より上に立って、他者を貶めたい。そういった精神が『蛇』を産んだんだ」
「じゃあ、田島さんたち、バスケ部は誰かに弱みを握られているってことか?」
「・・・それだけなら、そいつを見つけて、とっちめれば済む話なんだけどね」
「どういうことだよ?」
「だから、言ったじゃないか、内部に使役者がいるって」
「部員どうしでいざこざが起きているってことか」
「ああ、だから仮に使役者をとっちめたとしても、解決にはならないんだよ。『蛇』は消えても、それを生み出した彼女らの感情は都合よく消えたりしない。最悪、よりこじれてもっとやばいのを呼び込んでしまうかもしれない」
「そんな、じゃあ、どうすれば」
「彼女たち自身で解決するしかないよ。僕ができるのは使役者から『蛇』を取るところまでだ。そうすれば、他の部員からも蛇は消え去るだろう。でも、その後は部外者の僕がどうにかすることじゃない。管轄外だよ、完全な」
神島は女子高生の繊細な感情を理解するなんて、僕には無理だよ、と自虐的な笑みを浮かべる。
『蛇』を取ったとしても、解決するどころか逆に新たな災厄を呼ぶ。その言葉に背筋が凍りつくのを感じる。それは今年の夏休み、身を以って体験したことだった。
使役者は一体、何を思って他の部員に呪いをかけたのだろう。部外者である自分に知る術は直接聞くくらいしかない。だが、聞いたところでどうする?俺ができることなんて、その事情を神島に話すくらいしか・・・
「まあ、とりあえず、田島さんから話を聞いてきてくれ。僕が動くかどうかはそれからだ」
神島が考え込んでいる俺に指示をする。その口調はどこか優しげでこちらを気遣うものだった。
「田島さんからか?」
「ああ、現主将であり、君が面識・・・といっても、今日初めて話したんだっけ、まあ、いいか、それは。彼女なら部内の事も良く知っているだろうさ。自分の事も含めてね」
「どういう意味だ?自分の事って?」
そう聞くが、神島はなぜかはぐらかしたかのように肩をすくめる。納得いかないので、しつこく聞こうとすると再び、梓さんが元気良く部屋へやってくる。
「仁さん、ご飯できたよ!岩戸くんも食べるでしょ?」
「え?ご飯ですか?」
時計を見るとすでに7時を回っていた。学校を出て、ここに着いたのが4時過ぎだったから、三時間近く話し込んでいたらしい。
「うん。カレーだよ。好きだよね!」
「ええ、まあ」
そんなにこやかに言われると否定することもできない。困り果てて、神島の方を見ると、軽くため息をついて、食べていきなさい、と仕方なさそうに言う。
「兎に角、文化祭前までにはせめて『蛇』は消したい。とりあえず、明日にでも田島さんから話を聞いてきてくれ」
梓さんがキッチンに戻ると、神島はやれやれ、といった風に立ち上がると、大きく伸びをし、気楽にそう言った。
「わかったよ、やるだけやってみる」
「ああ、頼んだよ」
仁さん、早くぅ!と梓さんから呼ぶ声が聞こえる。今日のところはこれくらいにしよう、と神島が先に行ってしまう。ついていこうとしたところで、不意にスマホが振動する。ポケットから取り出して、画面を確認すると、身に覚えのない番号が羅列していた。
「誰だろ?」
このタイミングで知らない人間から電話がかかってくる不気味さに、足が震える。
神島に言われた言葉を思い出す。彼の言葉が正しいなら、ここで電話に出る事で事態が悪化する可能性だってある。
どうしていいか悩んでいるうちに振動が止む。代わりに留守番電話サービスに切り替わり、女性の声が聞こえる。それは予想外の人物だった。
「もしもし、岩戸くんの電話だよね?私です。田島春です。この電話を聞いたなら、今日の夜22時から23時の間に駅前の公園に来てください。話したいことがあるんです」
幕間
私は罰を受け入れた。
そう、私は。
蛇が現れた次の日、バスケ部はお通夜のように静まりかえっていた。
誰もが何かを耐えているようで、元気もなく、注意する先生すらその状態に何か異常を察したのか、声をかけることすらできていなかった。
練習後、無言の更衣室で誰かが叫んだ。
「あいつよ、あいつがやったのよ!!!!」その娘は鏡を見て、自分の身を抱きながら、もう、いや!と泣き始める。
そこからは、聞いていられるものではなかった。堰を切ったように、皆一様にあの娘の名前を叫び、罵倒した。
私はそれを目を閉じてジッと耐えた
早く、終わって!!!!
なんでこの娘たちは自分たちが悪いという結論に達しないのだろうか?
なんで、この人たちは全部を彼女に押し付けるのだろう?
自分たちがボロボロにして、グチャグチャにした彼女の心を考えたことはないのか?
私は必死に耐えた。
耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、ひたすらに耐えた。
気がつくと、喧騒が終わり、更衣室はシン、と静かになる。
やっと、終わった?
私はそっと目を開ける。
終わっていなかった。それどころか、始まったばかりだった。
「春、あんた、キャプテンだよね?」
一人の女の子が私に言う。
「え?」
「キャプテンなら、どうにかしてよ」
「え?」
「あの娘をどうにかしてよ!!あんた、キャプテンでしょ!!部員の不始末はあんたがどうにかしてよ!!」
あの時、この娘たちが私の名前を使って、彼女を追い出したように、また、この娘たちは私を利用するのだろうか。
私はそれを拒絶できない。
怖いのだ。
どうしようもなく。
自分が標的にされるのが。
私はあの娘を見捨てた。
私は彼女たちと同じだった・心の中でどう思っていようと、事実は変わらない。
翌日、私は蛇をどうにかするため、奔走を始める。後悔と懺悔とともに。
読んでいただきありがとうございました!陰鬱とした展開が続きますが、読んで頂くとありがたいです。
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