57話 狂血戦士と奴隷の願い
あれからは一進一退の攻防が続いている。
こちらは、魔法で攻撃しブラッドベアは狂血戦士と魔攻纏で強化した爪で俺の身を切り裂こうとする。ボクもブラッドベアもスピードは速めなのでしそこそこ高速な戦いだ。ブラッドベアの足は封じているが、速は移動速度だけではなく攻撃のスピードにも若干の補正があるのだ。
そして、ボクもブラッドベアも命中率は高くはない。ボクは戦闘慣れしてないしブラッドベアは片目だ。
しかし、こうしてみると魔力を纏うのはかなりいいスキルのようだ。魔法よりもタイムラグがなさそうだ。魔法は詠唱なんかはしていないものの、発動に少し時間が掛かる。
俺は少しブラッドべアから離れて魔力を纏ってみる。⋯⋯魔力操作があるからか結構簡単だ。
《 魔纏を習得しました 》
少し違うが数秒やっただけで出来た。というか、これは無属性魔法と魔力操作を少し延長しただけのようだ。
ブラッドベアは練習していて隙が出来たボクに攻撃を仕掛ける。
しかし、そんな計算もなしにボクが戦闘中に練習なんてしない。ブラッドベアの方に先程、幹の大部分を切断した木が倒れる。さっきまではギリギリでまだ立っていたが、ブラッドベアが走ってきた衝撃で倒れたのだ。
勿論、こんなのでブラッドベアを倒せるはずはないが先程の隙の分は取り戻せた。
ボクは先程習得した魔纏を発動する。どうやら、魔纏は魔攻纏よりも物攻と魔攻への補正は低いが全ステータスに補正が掛かるようだ。さっき理性を飛ばしているからか木を回避してこずに無理やり突撃してこようとして木に足を引っかけたので思った以上に余裕が出来たので急いで確認したのだ。
魔纏⋯魔力を纏うことで通常の攻撃でも魔法攻撃を行うことが出来る。また、全ステータスに補正が掛かる。
ステータス確認によると全ステータスを+10してくれるらしい。
しかし、それでは足りない。この化物と戦うには足りない。ボクは戦闘中に頭を精いっぱい回転させる。
そして一つの案、ボクは纏う魔力をただの魔力でなく属性魔力でしてみたらどうかというのを思いついた。そうすれば、何かしら効果を持たせることが出来るかもしれない。ぶっつけ本番というのは怖いが、やるしかない。
属性は⋯⋯怨呪。少し難しいものだが、ステータスでは属性:怨呪とでているように今のボクには一番合っているような気がするのだ。何というか、使ってて馴染むし。
ボクは怨呪の魔力を身にまとう。体、というより霧の表面を覆うイメージで。けれど余計に外に出しすぎないように魔力量を調整する。そして、体表から放出するのではなく体表で循環しているイメージ⋯⋯。
《 怨呪纏を習得しました》
瞬間、ボクの纏っている魔力は一気に禍々しいものへと変わる。それを感じたのか遅れて避けようとしたが、理性を失った狂戦士の判断は遅い。その禍々しい魔力を身に纏いながら体当たりを仕掛ける。
”グラァァァァ⁉”
触れた瞬間、ブラッドベアは狂血戦士となってから初めての悲鳴を上げる。このスキルは理性を飛ばすので多少の痛みなら問題ないのだけど⋯⋯。
ブラッドベアを観察してみると先程触れた部分に闇が多いシュワッーと酸なんかで溶けているような音を出している。
続いて、ブラッドベアに追撃を与えながらもスキルの方を確認する。
怨呪纏⋯触れた相手を呪い、能力の低下・体力減少・抵抗力低下・苦痛など様々な状態異常を引き起こす。
ふむ。見た限りでは悲鳴を上げたのは苦痛の効果だろうか。もしかしたら狂血戦士で麻痺するのは痛みであって苦痛ではないのかもしれない。
それはともかく、ボクは魔法で追撃を加える。足は骨折させ、眼は失明させ、首は大量出血させるために魔法を放つ。
狂血戦士は、体のリミッターを外す要素もあるのか見る限り体にガタが来ているようだ。
これで、ひとまず優勢に立つことは出来た。
——―———しかし、追い詰められた獣は強い。さて、どんな行動に出るのかね。
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———私の今のご主人様は、不思議な方だ。
奴隷である私に食べ物を与えたり、一人として扱ったり。奴隷に人権はあるがうわべだけのものだ。例えば「生活を保障すること」という法律があるが、何をもって保障したというかは主人の裁量によるところが大きいので意味がない。そもそも、法律なんて無視するという人も多い。対等な相手間との法律ならまだいいが、どちらかの身分が低ければ、法律なんて守られず低いものが犠牲となる。
他にもあまり常識なんかを知らない割に誰も知らないことを知っていたりする。魔法を詠唱なしで使う方法を知ってるって賢者かなんかなのか。それとも、私が知らないだけで一部の人では常識なのだろうか。
そして、冒険者でないというが、その割には強い。ゴブリンを倒すのは簡単だが、ここまで片手間で済ませられるというと中堅くらいはあるんじゃないだろうか。しかも、それでもまだ力を隠しているように見える。
隠していると言えば、他にも何かしら隠しているらしい。何を隠しているのかはさっぱりだけれど。
まぁ、でもそんなことは今の私にはどうでもよかった。
私が願うのは、ただこの不思議で何故か奴隷の私にやさしい主人にこのままずっと仕えることだ。
⋯⋯もう、痛いのは嫌だから。
『日本人、田中凡平の冒険~幸せなエンディングを迎えるには~』というゲームブックも投稿したのでよければ見ていってください。




