27話 殺人と正義
*この作品は犯罪を正当化するものではありません。
その時、自分でも何をしていたのか、よくわかっていない。
頭の中はこんな時なのに冷静で、なのに本能的に動いた。
こうするのが最善であると理性的にも感じたのだろうか?
真偽は分からない。
しかし、それは良かったと思う。
「【復讐者】、【信条者】、【不屈者】発動」
本来、自動で発動させるスキルを無理やり発動させる。
限界突破や自心制御が切れかけていたが無理やり続行させる。
動かないはずの体を無理やり起こす。
盗賊の頭は、勘というスキルのせいか何かおかしいことに気が付いたようだ。
だが、遅い。
もう、発動できる。
これから逃れることが出来るなら、やってみるといい。
出来たら、ボクの負けはほぼ確定するだろう。
しかし、そんなことにはならない。
させない。
「怨者の呪詛」
沢山の何というか、あの絵画の『叫〇』の顔みたいに細長くてあとは点のような目と口が付いたやつが正に恨み叫んでいるようだ。
そんな怨者達は一つに集まり、憎悪に満ちながら盗賊の体、いや命を喰らっていく。
盗賊も同じく叫びやめてくれというような感じだったが、既にそれは意味のある言葉ではなかった。
最初こそは抵抗していたものの、次第に動かなくなりとうとう息絶えた。
そんな彼にボクは言う。
「⋯⋯ごめんね」
憎かった。
ボクの復讐を遮り終わらせようとした相手。
でも今はそんなことよりもこの言葉が出る。
ボクが先に攻撃したから?
違う。
ボクが子分たちを殺したから?
違う。
彼を殺したから?
違う。
ボクは悪いことをしたから言ったわけではない。
では何故か。
ボクに復讐という信条している正義があるように彼にも正義があったはず。
彼なりの、正義が。
それは、ボクが殺したゴブリンも、ボクの復讐の対象である王国の人達にも。
でも、ボクなりの正義と彼の正義は違う。
そして、人、いやすべての生きるものは自分の正義を押し付けあう。
だからこれは悪いことではない。
いいことでもない。
ボクの正義を通しただけ。
ボクの正義に彼の正義は邪魔だから殺した。
でも、狂気というスキルを習得したボクにもそれだけ、と割り切るのは難しい。
罪悪感ではない。
でも、それに似た何かがボクの中に渦巻いていた。
ボクの正義は本当に正しいものなのか。
善きものなのか。
別に善悪など人や集団が決めるものであり絶対のものは存在しない。
そうはわかっていても、ボクは自分で自分に問いかけることを止めることは出来なかった。




