3.28.90 ドリー、はじめての♡
みんな大好きグルメ回です。
「お待たせ〜。まずは『バジゴリの線焼き』を2皿でーす。それと『ピーパー汁』を3杯〜」
ドリーとの暗算勝負に完全敗北を喫して真一がガックリしていると、お姉さんが最初の料理を運んできた。
そしてそれは1皿目から、地球では見たことのない異世界グルメだった。
四角くて長いウインナー状の肉が、蛇のようにグルグルと『とぐろ』を巻いて大きな皿に乗せられている。
丸められてコンパクトになっているが、伸ばせば1メートル以上ありそうだ。
断面は3センチ角くらいの四角形である。
恐らくバジゴリという家畜の肉塊を、角材を切り出すようにして3✕3センチの棒状にスライスしたのだろう。
それをカリッと香ばしく焼いて、皿にグルグルと盛り付けた料理のようだ。
野菜か果物か何かを細切れにして炒めたソースがかけられている。
食欲をそそる匂いが漂ってきて、めちゃくちゃ美味そうだ。
だというのに、真一は困惑していた。
食器がないんですけど!!!
お姉さんは箸もフォークもナイフも出さずに颯爽と去っていったのだ。
テーブルに運んで来たのは肉料理の皿が2つと、『ピーパー汁』というドリンクの入ったジョッキが3つ。
それと白いパン粉みたいな調味料っぽい何かの入った大ビンが1つだけである。
これ、どうやって食うの???
真一が戸惑っていると、右隣からズズズーっと麺をすするような音が聞こえてきた。
ドリーが早くも手づかみで肉を口に放り込むと、そのままズルズル吸い込んでいたのだ。
この腹ペコドラゴンが美味しそうな料理を目の前にして、1秒でも我慢できるはずもなかった。
ドリーの前の皿は、早くも半分以上の肉が消え去っている。
きっと1秒後には全て無くなるだろう。
だが真一のその予想は完全にハズレだった。
ドリーはいきなり食べる手を止めると、、、
「みゅわあぁぁぁん!!」
いきなり大号泣を始めたのだ。
「どうしたドリー?大丈夫か?」
「シン、、、ドリーね、みゅぐっ、こんな、、にゅみゅっ、、、」
込み上げる感情に声を途切れ途切れにさせながらドリーが答える。
「こんな美味しいの、、初めてにゃむぅぅん、、」
そうして再び大号泣を始めるのだった。
どうやらめちゃくちゃ気に入ってくれたみたいだ。
ワンワンと涙を流してここまで喜んでくれたら、真一としても嬉しい限りだ。
「ドリー、今まで生きてきて良かったニャミュぅぅ〜」
そう言って泣きながら食事を再開するドリー。
それを見たエピーも上品な仕草(※手づかみ)で食事を始める。
グルグル巻の肉の紐の先端を引き出すと、先端の20センチほどにパクっと可愛くかじりつく。
だがエピーもひと口食べたところで、パッと表情を輝かせた。
「みゅいっ!!美味しい!これ美味しいのっ!!」
踊り出さんばかりのテンションで満面の笑顔を浮かべる。
「シンも食べてっ♪」
真一の口に肉の先端を差し出してくれるエピー。
気遣いのできる本当に良い子である。
そして間接キスとかって概念はなさそうだ。
初の異世界グルメに期待を膨らませて、さっそくパクっといってみる真一。
お味は、、、
「美味いっ!!」
表面はカリっとしているが、ひと口噛むと中からジューシーな肉汁が溢れ出し、溶けるように肉がほつれていく。
高級牛っぽい感じの肉本来の旨味が存分に味わえた。
ソースは日本では経験のない味だが、近いのはココナッツ風味のスパイシーカレーだろうか。
地球上の最高クラスの料理と比べると劣るのかもしれないが、それでも十分以上に美味い。
この異世界に来てゲテモノばかり食べてきた真一にとっては、極上のご馳走であった。
エピーが食べ進める合間合間に、ちょっとずつ分けてもらいながら異世界グルメを堪能する真一。
とはいえエピーとドリーよりは真一の方が美味いものに慣れている。
異世界グルメの感動から覚めるのは、真一の方が早かった。
だからこそ真一はいち早く気がついた。
手づかみでご飯を食べるという、とんでもないマナー違反をしていることに。
周りから白い目で見られているよな、これ?
真一が慌てて周囲のテーブルを見回すと、、、
他のテーブルの人たちもみんな、手づかみで料理を食べていた。
おいっ!異世界マナーよっ!!!
どうやらこの世界には箸やフォークといった食器を使う文化はないのかもしれない。
そう思ってさらに観察を続けてみた真一だったが、食器が全く無いわけではないようだ。
スプーンのようなものを使ってスープを飲んでいる人もいる。
ステーキを食べている人は、ちゃんとナイフでらしきもので切り分けている。
ただし左手で直に肉を押さえながら、右手でナイフを使っていた。
やはり料理をそのまま触るのは普通のことのようだ。
衛生観念が地球よりもかなり遅れているのだろう。
それにソースとかで手がベチャベチャになるのはどうするのか?
上品そうな女性まで肉汁滴る料理を手で持っているのが異文化すぎる。
そう思って眺めていると、その女性はひと口食べたところで汚れた手をテーブルの上の魔導具にかざしていた。
真一たちのテーブルにもある、ボウル状の魔導具だ。
お椀のような形状になっているが、中には雲のようなものが入っている。
ただし見た目は気体なのだが、どうやら実体があるみたいな気配だ。
煙とかミストといった感じの見た目で、実際にはゲルとかクリームみたいな形状のもの、といえばいいだろうか。
「エピー、ちょっと左手をそこのボウルの中に入れてみて」
「ミュイ?これのこと?」
エピーがソースでベトベトになった左手をボウルの中のゲルミストに浸ける。
「ミュイ〜、なんかモゾモゾする〜」
今まで味わったことのない不思議な感触に、思わず声をあげるエピー。
とはいえ不快感は全くなく、逆に包み込まれるような心地よさを感じた。
そうしてエピーが左手を引き出すと、ソースの汚れがきれいサッパリ落ちていた。
「ミュミュっ!?キレイになった!!」
どうやらもう1つの魔導具は手を清めるものだったようだ。
なるほど手づかみで食べる文化には必要不可欠な魔導具である。
ついでに真一はもう1つ気になっていたモノを試してみることにした。
店員のお姉さんが置いていった、調味料らしきものの入った大ビンである。
「エピー、そこの白い粉を少しだけ、肉にふりかけてみてくれる?」
他のテーブルの客たちも、謎の白いパン粉を料理にふりかけながら食べていたのだ。
味に変化をつける調味料なのだろう。
果たしてそのお味は、、、
「これもおいしいのっ!」
「うん、美味いなっ!」
例えるならサワークリーム味のアジノ○トである。
パチパチシュワシュワって感じの不思議な食感で、酸っぱ味と旨味が合わさっていた。
肉料理には特に合う感じで、バジゴリ肉のジューシーさをさらに引き立てている。
「その白いのをかけるの、美味しいニャミュ?」
そう尋ねてくるドリーの皿からは、とっくに肉が全部消え失せていた。
悲しそうな瞳で聞いてくるのだが、エピーは美味い美味いといって気にせず自分の皿を空にしてしまった。
意外とエピーもドリーには甘いばかりではなく、やるときはやるみたいである。
そんなこんなで1皿目から大満足の真一だったが、その後の料理も素晴らしかった。
もちろん全部が全部、見たことのない異世界グルメってわけではない。
ステーキ、肉団子、変わった食感の衣の天ぷら、バジゴリ煮込みシチューの4品は地球にもありそうな感じだ。
味付けは違うものの、想像した通りの安定の美味しさだった。
だけど残りの3品は真一の全く知らない異世界料理だ。
肉の葉っぱ包み焼き。(※葉っぱごと食べる)
炭水化物っぽいペーストと細切れバジゴリ肉を炒めた、スクランブルエッグみたいな見た目のヤツ。
そしていちばん意味不明な『バジゴリ加熱』という名前の謎料理だ。
煮るでも焼くでも揚げるでもない、謎の調理法。
『翻訳機能さん』によると『加熱』と翻訳されている。
何か地球には存在しない、ファンタジーな調理法なのだろうか。
それは10センチほどもある分厚いバジゴリ肉がそのまま皿に乗せられた料理だった。
一緒に運ばれてきたナイフで切って断面を見てみると、奥まで均等にしっかり火が通っている。
しかも肉の中に気泡状の隙間がビッシリと出来ていた。
口に入れるとフワフワしたエアリアルな食感で、溶けるようにして肉汁に変化していく。
どんな調理方法を使ったらこうなるのか見当もつかない。
後日聞いたところによると、魔法で動く調理用の魔道具で中から加熱されたものなんだそうだ。
真一は地球の料理を異世界に持ち込んでチート!みたいなアニメを見たことがあった。
だけどこの異世界のグルメはもしかしたら地球よりもレベルが高いのかもしれない。
唯一イマイチだったのは『ピーパー汁』というドリンクだけだろうか。
うっすい変わった味で、甘くもしょっぱくもない。
お茶みたいな位置づけのポピュラーな飲み物みたいだが、真一の好みには合わなかった。
もっとも慣れてくれば美味しく感じるのかもしれない。
ちなみにジョッキや皿をはじめナイフやスプーンまで、例の謎石で作られていた。
表面は大理石チックなマダラ模様だが、手触りはツルツルしている。
これだけ大量の食器を1個1個手作業で削り出して作ったとは思えない。
やはりファンタジーな魔法技術によって大量生産されているのかもしれない。
数々の便利魔導具といい、食のレベルの高さといい、想像以上に進んだ異世界であった。
カルチャーショック異世界グルメ、いかがだったでしょうか?
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