3.27.89 エピー先生の算数教室
ドリーにまで算数できない子扱いされるのは、真一としても不満しかない。
お前ら微分も積分もできないだろ!と反論したいところだ。
とはいえそんなことを言っても通じるはずもない。
逆にドリーが微分までできたら怖いわっ!
『微分ドラゴン』なんていてたまるかっ!
と、意味不明なことを考えつつも、真一は顔を赤くして反論する。
「数ぐらい数えられるっての!俺の世界とこの世界じゃ、指で数えるやり方が違うだけだからっ!」
「そっかぁ。シンは別の世界から来たんだもんね」
「そうそう。だからエピー、試しにゼロから順番に指で数字を数えてみてよ」
「うん、分かった!」
勢いよく返事をすると、エピーは4本の指を全て折ってグーを作る。
_ _ _ _ 「これがダー(⓿)でしょ」
指が0本なら0。
いきなり意味不明なことにはならずに、安心する真一。
次にエピーは親指の1本だけを立てる。
親 _ _ _ 「でダス(❶)」
ここまでは真一にも理解できる。
だがそこからは、まさに『異世界算数』であった。
エピーは親指、人差し指、中指、薬指の4本の指を器用に曲げ伸ばしして数を数えていく。
_ 人 _ _ 「ディル(❷)」
親 人 _ _ 「ディグ(❸)」
親指だけが1なのに対し、人差し指だけだと2。
親指と人差し指を両方立てると3のようだ。
そして中指だけだと4である。
_ _ 中 _ 「ザー(❹)」
親 _ 中 _ 「ザス(❺)」
_ 人 中 _ 「ジル(❻)」
親 人 中 _ 「ジグ(❼)」
次に薬指だけだと8になる。
_ _ _ 薬 「バー(❽)」
親 _ _ 薬 「バス(❾)」
_ 人 _ 薬 「ビル(❿)」
親 人 _ 薬 「ビグ(⓫)」
_ _ 中 薬 「ガー(⓬)」
親 _ 中 薬 「ガス(⓭)」
_ 人 中 薬 「ギル(⓮)」
親 人 中 薬 「ギグ(⓯)」
ちなみにこの世界では4本の指のことを、『❶指』、『❷指』、『❹指』、『❽指』と呼ぶそうだ。
『親指』が『1指』で、『薬指』が『8指』である。
それぞれの指を立てたときの数え方と同じである。
立てている指の『番号』を足し合わせれば、そのハンドサインが示す値と等しくなるのだ。
例えば親指(1指)と中指(4指)と薬指(8指)なら、1+4+8=13といった具合だ。
左手だけで15まで数えたエピーは、次に右手の親指を立てる。
本来は右手はドリーの担当だが、今はエピーが動かしているようだ。
「でミツ(⓰)からは両手を使うんだよ!」
そう言ってエピーは右手の親指を立てたまま、左手でさっきまでの動きを繰り返す。
「⓰ ❶、⓰ ❷、⓰ ❸、、、」
ここまで教えてもらえば、いくら鈍い真一でもさすがに気づいた。
つまり、この異世界は、、、
「16進数かよっ!!!」
どうやらこの異世界は16進数を採用しているみたいだった。
10進法の地球から来た真一が戸惑うのも当然のことである。
ーーーーー
今になって思い起こせば、ヒントはいくつもあった。
レベルアップでステータス画面さんが進化したのは、レベル4とレベル16のとき。
ロングサステナヒールの持続時間は、サステナヒールの16倍。
真一の防御力『65535』は16ビット(※2の16乗)のカンスト値。
冒険者ランクの昇級には、そのランクの依頼を16回達成。
確かにこの世界では『10』という数字をあまり見かけず、代わりに『16』や『4』がいたるところにあった。
その理由も今ならば分かる。
指が4本だからだ。
地球人が十進法を使っているのは、両手の指が10本あるから。
そんな説があるのを、真一は聞いたことがあった。
だから指が4本のこの世界では、『4』を単位に数を数える文化が育ったのだろう。
そして片手の4本の指を計算機のように二進法で使えば、0から15まで数えることができる。
両手を使えば255までだ。
16進法が採用されるのも当然のことだろう。
そこまで理解した上でエピーに話を聞いてみれば、全て納得のいく話であった。
まず、この世界の数字は0から15までの16種類。
地球は0から9までの10種類なので、6個多い。
まぁ地球でもコンピューターのプログラミングとかだと16進法を使うから、❿から⓯は『A』から『F』で表される。
その『A』〜『F』に相当する数字が、この世界では始めから存在するのだ。
次に『十』、『百』、『千』などの繰り上がりの単位。
それがこの世界だと『ミツ』、『シス』、『パース』、『ロウ』となる。
これは小さくなる方にもあって、『ミック』、『シセク』、『パーシク』、『ロイク』だ。
これらは文字にするときには何も書かないが、2桁以上の数字を読むときにはちゃんと発音する。
例えば
『❶ ❷ ❸ ❹』
と書いていたとき、
日本なら『千❷百❸十❹』になるが、ここでは『パース❷シス❸ミツ❹』と読む。
そしてその値も『1×4096 + 2×256 + 3×16 +4』と計算するのだ。
モンスター3匹を売った収入の『3シス10ミツ リル《価値》』は『3×256 + 10×16』で928リル《価値》。
たぶん4〜500万円くらいだろう。
冒険者登録で適当に決めてもらった年齢ならぬ日齢は、『パース日』が4096日だから11歳くらい。
ただしこの異世界は1日が32時間弱なので、地球の年齢に直すと15〜6歳となる。
ちなみにこの世界では日齢シス日の人は、地球の1歳とほぼ同じ感覚でとらえられている。
1日の長さが長いので、256日が1歳とほぼ同じ成長となるのだ。
今回のメシ代は『 ❸ ∧ ❽ ⓮ リル《価値》』だったが、この∧という記号は小数点を意味するそうだ。
だから金額としては、『3 + 8/16 + 14/256』という計算になる。
めちゃくちゃややこしい。
まぁでも1リルが4〜5千円くらいの価値っぽいので、もっと細かい単位が必要なのは理解できた。
「だからこの世界だと16で桁が上がるだろ?だけど俺たちの世界だと10で次の桁に進む。だから十進法って言うんだ」
「ミュイい〜、なるほどね〜」
エピーとドリーに百や万といった単位が通じなかった理由も、今なら分かる。
16進数の世界の住人にとっては、100(※❻ミツ❹)や10000(※❷パース❼シス❶ミツ⓿)といった数字はかなり中途半端な数字なのだ。
なので百などを単位とする概念そのものが、元から理解されようがない。
『桁』としての『百』は、この異世界には存在しない単語なのだ。
その逆も然りである。
真一は今まで『シス』や『ミツ』といった現地語を理解できなかった。
それは『数字』としての『16』は地球にもあるものの、『桁』を表す『16』という単語を真一が認識できていなかったからである。
『異世界言語翻訳機能さん』が上手く働いてくれなかったのもやむ無しだろう。
「つまりドリーたちは16あるのに、シンたちは10しかないんだから、シンたちの世界の方が馬鹿ってことニャミュ?」
「なんでそうなるんだよっ!!単に繰り上がる数字が違うだけ!頭の良さとは関係ないっての!」
「そうニャミュ?」
「そうだよ!例えば俺たちの世界だと九九ってのがあるから、10掛ける10までは暗算ですぐに分かるんだぞ」
「ミュイ〜、それってスゴいかなぁ?」
「スゴいだろ?ドリーは16掛ける16までの計算なんてすぐには出来ないだろ」
「それくらい出来るに決まってるニャミュ!」
「本当か?だったら⓭掛ける⓯は?」
「⓬ミツ ❸!」
ノータイムであっさりと答えるドリー。
だが16進数で答えられても、すぐには判断できない真一だった。
答えが合っているのか計算するために、ウンウンとうなる羽目になった。
「ミュイ〜、シン、自分で聞いといて答え分かんないの?これくらい誰でもすぐに答えられるよ」
「やっぱりシンっておバカさんニャミュ〜♪」
「十進数なら俺だって出来るからっ!」
顔を真っ赤にして、涙目になる真一であった。
ちなみに真一は13×15の暗算などすぐにはできない。
たとえ十進数でも、ノータイムで答えることは不可能だった。




