1.9.9 ゲームーオーバーへのカウントダウン
■ここまで■
積み重なったスリップダメージにより、真一はあと2時間ほどで死にそうであった。
ムシャムシャムシャ。
「うげぇっ、ペッ!!!」
真一は狂ったように、そこら中の植物を片っ端から食い漁っていた。
薬草を発見できるわずかな可能性にかけて。
結局それ以外にできることなど思い付かなかったのだ。
だが苦味と惨めさに悔し涙を流しながら必死に咀嚼してみるが、何の効果もない。
やはりそう簡単に当たりを引けるはずもなかった。
そうこうするうちに、真一は周りにある全ての種類の植物を試し尽くしてしまった。
舌を使って可能な限り動き回り、新しい植物が無いか探してみたのだが、もはや見つけられそうにない。
そしていよいよ最後の瞬間が迫っていた。
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HP:2 / 20
MP:3 / 20
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薬草を探しているうちに2時間近くが経過し、回復魔法を使えるのはあと1回だけ。
この2時間で自然回復したMPはたったの1だった。
1時間半を過ぎたあたりでようやく1増えたのだが、焼け石に水である。
下手に体力を使わずにじっとしていた方が、MPの自然回復は早かったのかもしれない。
まあ今となっては後の祭りだし、それがあってもどうせ15分ほどの違いである。
そして、、、
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HP:1 / 20 (※ピッ!)
MP:3 / 20
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HPが残り1になる。
頭がクラクラする。
血の気が引いていく。
全身(※首だけ)がガタガタ震えてくる。
自分では見えないけど、きっと顔色も蒼白になっているはずだ。
だがそれでも真一はまだ回復をしない。
「11、12、13、、、」
静かに時間を数える。
スリップダメージは10秒で0.021だから、HPが1減るまで約47秒の猶予があるはずなのだ。
残りHPが1になってすぐ回復するのはもったいない。
なので真一はギリギリまで詠唱を待つつもりだった。
死が避けられないと諦めてはいても、それでも1秒でも長く生きていたいと足掻いてしまう。
数えているうちにどんどん気が遠くなっていく。
生命力がみるみるうちに失われていく。
肌が青黒く変色していくような感覚すらあった。
だがそれでもまだ回復はしない。
ギリギリまで遅らせる。
「39、40、、ミニマムヒール!」
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HP:20 / 20
MP:1 / 20
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数え間違いも怖いので、さすがに少し余裕を持って回復を行った真一。
だが数え間違いよりもむしろ体力の方が問題だった。
残り時間が減るにつれ、意識を保つのがどんどん難しくなっていたのだ。
どうやら表示は残りHP1でも、実際の体力は小数点以下で減っていたようだ。
そしてそれに比例して体力というか生命力も減少していたのだろう。
これほどギリギリまで待つのは初めてだったので、今まで気付かなかったのだ。
あと数秒待っていたら、呪文を詠唱する体力すら失っていたかもしれない。
とはいえそんな新たな気付きに何の意味もない。
いよいよ回復のためのMPが尽きてしまったのだ。
もはやミニマムヒールは使えない。
今あるHPが尽きたら、真一は死ぬ。
残り時間はあと15分ほど。
今となっては焦っても何をしても無駄である。
真一は、、、
諦めて、、
死を受け入れた。
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「短い人生だったなぁ」
生首だけで大地に横倒しになりながら、真一がポツリと呟く。
もう死ぬんだと諦めて、何をする気力も失って。
そうしてしばらく呆然としていた真一だったが、気がつけば素直な気持ちが自然と口から溢れ出ていた。
「彼女が欲しかっ、、、いや、せめて1度くらいはエッチだけでもしてみたかった、、、」
誰に聞かせるでもなく、だけど何故か声に出してしまう真一。
わずか20年にも満たない人生だったが、いざ最期のときとなると、いろんな想いが浮かんでくる。
いや短いからこそ、やり残したことがいくらでもあった。
「由華先輩にコクっとけば良かった、、」
片想いしていた大学の先輩の顔が頭に浮かぶ。
無意識に涙が流れ出す。
声がどんどんと涙混じりの震えたものになっていく。
「もっと全力でぇっ、何かに挑戦すれば良かった、、、」
周りに薦められるがままに大学進学なんてしないで、夢に向かって努力してみれば良かった。
まぁそれまでの20年弱の人生で、全力でやりたいことなんて見つからなかったのではあるが。
それに由華先輩に会えたのは大学に入ったおかげだ。
それでも後悔ばかりの人生だった。
「痛みなく死ねることだけは良かったのかなぁ、、、」
ピッ!
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HP:1 / 20
MP:1 / 20
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そしてついに、、、
残りHPが1になった。
「さよ、、なら」
それが真一が最期に呟いた言葉だった。