7.Y-3.503 彩香の能力と禍ツ神の加護
新たな世界にやって来てから数日、、、
「なるほど、ステータス画面ね」
彩香は死んだ日本人の死体を冷めた目で見下ろしながら、興味深そうに呟く。
この男も例によって最低のクズだったが、『勇者』に関する知識が得られたのでかなり役に立った。
6人組の盗賊が持っていた食糧や装備品で彩香は辛うじて食いつなぎ、街を目指して歩き続けていた。
それからの数日で何度もモンスターや盗賊に襲われたが、それでも彩香は何とか生き延びている。
初日に盗賊たちを殺して3つもレベルアップし、ステータスが大幅に上昇していたおかげだろう。
けれども何よりも、『報いを受けさせる力』と『呪いの包丁』の力が大きい。
受けた傷をより大きくして返す能力については、まだまだ分からないことだらけ。
包丁の『異様な力』に関しても謎のままだが、ここまでの道中で経験した限りでは、どんなものでも斬り裂くことができるようだ。
そんななかで出会ったのが、この日本人の男であった。
もはや名前など覚えてもいない。
『俺よりかなりレベルが低いな』などとわけのわからないことを言って、最初から彩香を見下していた。
そうして自分の仲間になるなら助けてやると要求してきたのだ。
仲間と言いつつも、性欲のはけ口としか見ていないことなど、丸分かりであった。
それに彩香が拒否するのを許すつもりなどないことも、男の言動から簡単に見て取れた。
お断りだと包丁を向ける彩香に対して、男は余裕の表情で歩み寄ってきた。
彩香など簡単に、思い通りにできるとでもいうように。
少し痛い目に遭わせて、自分の言いなりにさせてやろうという魂胆が見え見えである。
そんな男の余裕は、彩香とのステータスの差に、そして絶対の自信を持つ自身の能力に由来していた。
「俺の能力は『鋼の身体』。どんな攻撃も効かねぇんだよっ!!」
そう言って無防備に近づいてきた男の心臓に、彩香は包丁を突き入れる。
豆腐を刺し貫くかのようにあっさりと突き刺さった包丁は、自信満々だった勇者の命を容易く刈り取った。
何度目かになるレベルアップの感覚を味わいながら、彩香は男の行動を思い返していた。
荒野を歩いている最中に突然現れた男は、無造作に歩みよりながら彩香に向けて『ステータス!』と口にした。
その直後、男の目の前の空中に緑色のガラス板のようなものが浮かび上がったのだ。
彩香からは裏向きなのでちゃんとは読めないが、どうやら日本語で何か文字や数字が書かれているようだ。
そしてその情報を確認するなり、男は彩香のことを完全に見下し始めたのである。
そこから推察できるのは、彩香に関する情報が緑の板に記載されていたのではないか?ということ。
「ステータス」
さっそく彩香は男の使っていた『コマンド』を試してみる。
すると彩香の目の前に、今度は緑ではなく青色の画面が浮かびあがった。
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名前:薬師 彩香
種族:異世界勇者・下級
職業:なし
ステータス:
レベル:7
HP:54 / 54
MP:53 / 55
スキル:
断罪の因果
加護:
災禍の連鎖
専用装備:
世界を断つ絶望
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「なるほど、ステータス画面ね。
つまりわたしもコイツも、地球から来た人間はみんな『異世界勇者』ってことなのか、、、」
どうやらこの『コマンド』は、自分や相手の『ステータス』を表示するもののようだ。
表示されたステータス画面には、彩香の知りたかった情報がいろいろと記載されていた。
『報いを受けさせる力』である『断罪の因果』についても、『スキル』欄に載っている。
そこをタッチすると、『詳細情報』のウィンドウがポップアップ表示された。
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ユニークスキル:
断罪の因果
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己を傷つけた相手に報いを与える
スキル効果一覧
・反射
・因果
・網
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どうやらこのスキルには、『反射』、『因果』、『網』という3つの効果があるらしい。
その文字をタップすると、さらに詳しい説明画面が表示された。
『反射』は文字通り『ダメージをはね返す』能力なのだが、凄いのはそのダメージが、相手次第ではかなり増幅されること。
彩香を襲った盗賊たちが受けたのは、この反射による増幅ダメージだったようだ。
反射ダメージの増幅率は、様々な要因によって増減する。
彩香と相手のステータス差、彩香の気分や体調、相手の悪意の大きさ、などなどだ。
例えば道中で彩香を襲ってきたツノのあるウサギみたいなモンスターは、かなり弱い相手だったのだろう。
突進で彩香に傷を負わせた瞬間に、反射のダメージでウサギは即死したのである。
どうやら格上相手には大きなダメージは返せないが、格下のザコモンスターには即死級の反撃が発生するようだ。
次の『因果』の効果は、まだ良く分からない。
けれどもその単語は、6人組の盗賊から攻撃されたときに、頭の中に聞こえてきたキーワードだ。
いや、そのときだけではない。
それ以降も彩香が誰かから攻撃を受ける度に、、、
〘因果レベル❹:『支配』〙
などという不気味な音声が流れてくるのだ。
どうやらこれは、彩香を傷つけた相手に『因果』とやらを仕掛けるという能力のようである。
その『因果』の強さも、相手との力関係などの様々な要因によって変動するみたいだ。
そして仕掛けられた『因果』の強さに応じて、5段階のレベルの効果が発動する。
『接続』、『標的』、『狂乱』、『支配』、『断罪』という、5種類の効果が。
そして最後の『網』は、そうやって仕掛けられた『因果』の情報を確認する能力である。
現在発動している『因果網』を、ゲームのマップ画面のように参照することができるようだ。
このあたりは実際にいろんな相手に『因果』を仕掛けながら検証していくしかないだろう。
ステータス画面には他にも気になる情報が記載されていた。
まずは『呪いの包丁』。
いつの間にか『世界を断つ絶望』という名が付けられている。
しかも彩香の専用装備という扱いになっていた。
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専用装備:
世界を断つ絶望
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絶望の果てに惨禍を巻き起こした、呪われた凶器。
28名の犠牲者の魂が終わりのない苦しみの中に囚われ、その怨念を糧に絶大な攻撃力を得た呪具。
同時に使用者の精神を蝕む。
また新たに命を刈り取る度に、その者の怨念を取り込み、より力と呪いを増幅させる。
専用装備者である『薬師彩香』が使用した際には特種効果が発動。
世界から拒絶された絶望をもって、世界のあらゆる存在を断ち切る。
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この包丁は彩香が日本で命を落とす原因となった傷をつけたで凶器ある。
と同時に、『彼』を地獄に叩き落し、その場にいた20人以上の『敵』の命を刈り取った包丁でもある。
そしてその20数名の魂はあの世にも行けず、この包丁の中に囚われて永遠の苦しみを味あわされているらしい。
もっともそれを聞いても犯人である彩香には、これっぽっちも罪悪感などない。
どいつもこいつも死んで当然のクズであり、明確な彩香の『敵』だったからだ。
むしろ彩香の人生を破滅させたアイツらが報いを受けていることに、ドス黒い愉悦すら感じる。
しかもアイツらの怨念を自分の力に換えて良いように使えるというのだから、笑いが止まらないほどだ。
使用すると精神が蝕まれるそうだが、確かに今の彩香は人を殺すことに何の抵抗もなかった。
そんなこの包丁は彩香専用の装備であり、彩香が使うときだけ特種効果が発生するらしい。
どうやら『世界から拒絶された彩香』が、『世界を拒絶する』ための力を秘めているのだ。
それすなわち、この世界のあらゆるものを切断できるという能力である。
金属製の盾や、勇者スキルで鋼鉄化された肉体を豆腐のように切り裂いたのも、この包丁の力のようだ。
そしてステータス画面の情報でもう1つ気になったのが、『加護』という項目。
それは彩香は知らなかったが、実は日本にいた頃から所持していたものである。
それこそが禍ツ神により授けられた、『災禍の連鎖』。
彩香が呪われた人生を送る羽目になった元凶である。
と同時にリューイン《創世神》にゲームのコマとして目を付けられた要因でもあった。
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加護
災禍の連鎖
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運命神による加護。
自身に災いを呼び込む。
と同時に周囲の人間を、それ以上の混沌の災禍に引き込む。
いつまでも、どこまでも、際限なく。
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「これって、、こんなに何度も盗賊に襲われたのって、、?」
この異世界に来てからまだ数日。
その間に彩香が盗賊やモンスターから、果ては日本人の勇者にまで襲われた回数は、既に10回を超えている。
日本より危険な世界なのかもしれないが、それでもはっきり言って異常な回数である。
その度に彩香は傷つき、同時に襲撃者たちは残らず命を落としてきた。
結果的には誰もが不幸になっているのだ。
もしかしたらその全てが、この『災禍の連鎖』という『加護』のせいだったのかもしれない。
それどころか、、、
「まさか、、わたしがあんな人生を送ってきたのって、、、」
思えば彩香の人生は、呪われているとしか思えないほどの不幸の連続だった。
しかも彩香が不幸に見舞われるたびに、周囲はより大きな災難に巻き込まれていく。
あの子は呪われていると周囲から拒絶され、虐待を受け続けたのも、元はといえばそれが原因だ。
そして彩香が呪われていたのは、言いがかりでも何でもなく、事実だったのである。
全てはこの『運命神の加護』とやらが元凶だったに違いない。
『加護』とは言いながらも、間違いなくマイナス効果しかない『呪い』である。
「なるほどね。わたしは禍ツ神に呪われた魔女だったってわけか、、、ハハッ、道理で、、、」
もしかしたら、愛する両親を失ったことすら、自分のせいだったのかもしれない。
この異世界に来て初めて、自身の呪われた真実を知って、、、
乾いた笑いしか出てこない彩香であった。




