2.35.48 龍神様の正体
「ミュイっ!?」
真一の叫びを耳にしてか、龍神様が訝しげな鳴き声を上げる。
聞くだけで泣きたくなるほど恐ろしい声だ。
しまったっ!
声を出しちまった!
だけど俺のヒロインのミーニャが喰われたんだぞ!
叫んじゃうのは不可抗力だろっ!!
それにミーニャがもう死んでしまっているかは、まだ決まっていない。
噛まれずに丸呑みにされたような感じだったからだ。
今すぐ真一も龍神様に食べてもらえば、腹の中から胃袋を食い破ってミーニャを助けられるかもしれない。
けれども自分の防御力への自信を喪失している真一には、そんな勇気など出てこない。
ミーニャを見殺しにしてしまうことに罪悪感を覚えるものの、それ以上に恐怖しかなかった。
顔面蒼白になり、気付かれてませんように!と祈る真一。
だがあんな叫び声をあげてしまったのである。
もちろん気付かれていないはずがなかった。
ドシッドシッと重い足音を響かせて、龍神様が真一のカゴの前までやってくる。
そして両手でカゴを持ち上げるやいなや、天地をひっくり返した。
大量の果物とともに、真一の生首が地に落ちる。
落下して地面を転がった真一の頭は、顔を上にして止まった。
目を回しつつ真一が見上げると、、、
目の前で恐ろしいドラゴンの顔が、ドアップになっていた。
龍神様がめちゃくちゃ顔を近づけてのぞき込んでいたのだ。
赤黒い肌をした、真一がイメージするまんまのドラゴンである。
アニメチックな可愛らしさは全くなく、完全にアクションゲームのラスボスのような恐ろしい顔だ。
そしてこんな至近距離から目が合ってしまっているのだ。
真一が生きていることも、完全にバレている。
今さら『死んだフリ』作戦も不可能だった。
となれば、真一に取れる手段は1つしかない。
そう、いつものアレである。
引き攣りそうになる顔の筋肉を無理やり動かし、ぎこちない笑顔を作る。
そうして真一は、、、
(※生首だけで)「コンニチハ?」
声をかけてみた。
「ニャミュゥゥゥッ!!!」
ドラゴンが恐ろしい咆哮を上げる。
それだけで真一に1ダメージが入った。
声だけで吹き飛ばされ、地面を転がる真一。
目がクルクル回る。
それでも少し距離が離れたことで、龍神様の全体像がようやく見えるようになった。
一目見ただけでわかった。
完全にアカンやつだと。
マンモスカエルやカラフル大蛇とは生物としての格が違い過ぎる。
間違いなくこの異世界の頂点に君臨する超越的存在であった。
見上げる身長は7〜8メートルほど。
ラスボス(仮)モンスターに比べればずっと小さいが、実際の強さは上にも見える。
真一の太ももを貫通した謎モンスターにすら並ぶかもしれない。
もっともこのレベルまでくると、真一にはもはや戦闘力の強弱など感じとれない。
どれもあまりにもヤバすぎて、感覚がマヒするレベルだからだ。
それでも1つ確信できるのは、この龍神様に噛まれたら絶対に無事では済まないということだ。
真一の頭など、トマトのように簡単にベチャッと潰されるだろう。
「死ぬ、、、」
ただ睨まれているだけだというのに、全身が震えて動けない。
立ち向かおうなんて気力など、一瞬で消し飛んだ。
腹の中に入りこんで中から攻撃し、丸呑みされたミーニャを助ける?
そんなの不可能に決まっている。
ただただこのピンチから逃れたいだけの真一。
逃げ出す隙がないかと、必死に龍神様を観察する。
それはアニメやゲームでよく見る西洋風ドラゴンと同じような姿をしていた。
やや前傾姿勢の、頑強なウロコに覆われた赤黒い胴体。
太い脚と、やや小ぶりな両腕。
長く伸びた尻尾。
背中には禍々(まがまが)しく広がる巨大な翼。
そこまでは普通のドラゴンである。
ただしそこから上は、普通のドラゴンとは明確な違いがあった。
首が2つ?
双頭龍ってやつかっ!
それは2つの首を持つドラゴンだった。
胴体の上には1メートルほどの太い首が2本突き出しており、それぞれに頭部がついている。
ミーニャを丸呑みにできるくらい、巨大な頭部だ。
他と同じく赤黒い色の頭は、両方とも同じ顔に見える。
違いといえば、2つの瞳と2本の角の色が異なっていた。
向かって左側の首は青い目と青い角。
そして右の首は赤い目に赤い角のドラゴンだ。
「ミャミュッミョミュッ!」
「ミャミュニュンニャミュ?」
「ミョヒョニュンミャミニャミャ?」
「オイミャニュミャメッニャミュ〜」
左の首と右の首が何やら会話をするように鳴いている。
別の意思を持っていて、違うことを考えているのだろうか。
相変わらず震えが来るほどの威圧感のある、恐ろしい声なのだが、、、
なんか言葉自体はめっちゃカワイイな、、、
「モイ、ムニャミャミンニンニャミャ?」
「オイミャニュミャメッニャミュ〜」
しばらく聞いていたが、やはり明らかに意味のあるっぽい鳴き声を交わしている。
間違いなく知能があって、2匹、いや1匹?で会話をしているのだ。
少なくともおバカなゴブリンどもよりは、遥かに会話の通じそうな相手だった。
これなら何とかコミュニケーションを取れるかもしれない。
会話の糸口を探して、真一は龍神様の謎言語を必死で聞き取る。
すると、、、
「食べるの?」
「食べていいんじゃないニャミュ?」
「ミュイ〜、だけど不味そうだよ」
「確かに不味そうニャミュ〜」
意味が分かるっ!!!
2匹の会話を聞いていると、急に龍神様の言葉が翻訳されて理解できるようになった。
あの村のときと同じ現象である。
話している言語は村人の言葉とは全く違うが、それでもちゃんと日本語で意味が分かるようになったのだ。
『異世界言語翻訳機能』がいい仕事をしてくれたようだ。
どうやら真一は『異世界人間語』に加えて、『龍語』?もマスターできたようだ。
「モイ、食べてみる?」
「モイは食べないニャミュ?」
「ミュイ〜、マズそうだし、オイはやめとく。モイ、食べていいよっ」
「うんっ、いただきまーすっ!」
だがアレコレ考察しているうちに、2匹の会話はヤバい方向に向かっていた。
左側の青い方の首が大口を開けて迫ってくる。
このままだと食われてしまうっ!!




