恋愛とは程遠い
王子との交際は認められた、わけではないと思うけれど、あれ以来嫌がらせは減った。
私と王子の付き合いは一応、続いている。
だけどそれは恋愛とは程遠いもので、ただ通学を一緒にして、その時に話す。
ほぼ友人といってもいいくらいのものだった。
恋愛らしいことをしてくれるとは言ったけれど、変わったことといえば……。
時々、手を繋ぐようになった。
あれ以来、二人で帰る時とか手を繋ぐようになった。
私が望んでいるから「恋人らしいことをしよう」と言ってくれたのは王子だけど
だけど手を繋ぐ以外は、これといって特に何もない。
あれ?
これって、本当に付き合ってるのかな?
なんだか心配になってきた。
******
隣の席の内山くんは学級委員長だから、とても真面目だ。
いつも授業をしっかり聞いているし、ノートも綺麗にまとまっている。
その日も授業が終わった後も丁寧にノートを書いている内山くんをついじっと見てしまった。
視線に気がついたのか、内山くんが私を見た。
「佐藤さん、何か用?」
「内山くんはいつも勉強しててすごいね」
確か内山くんは成績も良かったはずだ。何もかも平均の私からしたら羨ましい限りだ。
だけど、内山くんは当然のような顔で私を見た。
「それはそうだよ。だってもうすぐ試験じゃない」
「え?」
驚いて言葉を失った私を見て、内山くんは苦笑いした。
「来週からテストだから、勉強しないと」
思いもしなかったことを言われて、私は慌てて教室に貼ってある予定表を確認する。
確かにそこには来週から試験と書かれていた。
まずい。
最近、王子の事とか、王子の周りの事とかで頭がいっぱいで
つまり、何もやってない。
さあああっと顔から血の気が引く。
「どうしよ」
つい、そう言ってしまったら、それが聞こえたのか内山くんが今度はちゃんと笑った。真面目な顔が笑うと少し親しみやすくなる。
その時も困った私の顔を見て、からかうように言った。
「佐藤さん、勉強してる?」
私はじとっと内山くんを見た。
「全くしてない」
内山くんはクスッと笑った。
「佐藤さん、顔に出過ぎ」
なんだかみんなに同じことを言われる。それはそれで不満だ。
「何もしてない」
「そんな感じしたよ、いろいろ忙しそうだもんね」
はい。忙しかったです。
主に王子の事とか、王子の周りの事とかで。
試験とか勉強とか、頭からすっかり抜けてました。
内山くんは気遣うように私を見た。
「ノートとか、大丈夫?」
「ちょっと自信ない」
「どの辺が大切かわかる?」
「……わからない、かも」
内山くんは机からノートを取り出した。
「僕のノート見てもいいよ」
「ありがとう」
あまりにも優しい内山くんの申し出に私は感動する。
さすが学級委員長をやる人は違う。おもわず神をみるような目で内山くんを見てしまった。
ノートをパラパラとめくってみたけど、字も綺麗でみやすいし、わかりやすい。
なんていい人なんだ。
内山くんと隣の席になった自分の幸運に感謝だ。
だけど、そのノートの中身が全く理解できない自分にへこむ。
私、全然わかってない。
仕方ない。
だって最近忙しかったから。
主に王子の事とか、王子の……以下略。
「私、きっと全然だめだ」
肩を落としてため息をつくと内山くんがそんな私をみた。
「まだ時間はあるよ」
「うーん……」
試験まで土日を入れて約1週間しかない。
今日から帰りは図書館で勉強しようかな。そう思っていると内山くんが私の方を見た。
「良かったら、大切なところとか解説しようか」
内山くんは手を後頭部にあてた。
「僕も完璧ではないけど、少しは教えられると思う。それが僕の勉強にもなるし」
その素晴らしすぎる申し出に私はおもわず顔を輝かせてしまった。
「本当?」
「あ、いや僕でよければ、だけど」
「いいに決まってるよ。内山くんがいい。むしろ内山くん以外の人はそんなこと言ってくれないと思う」
被せるように言った私に、内山くんはむしろ驚いた顔をする。
「お願い」
内山くんの目の前で手を合わせて頭を下げると、
「いいよ」
そんな声がして、私は顔を上げた。
「本当に?」
「うん、いいよ。ひとまず今日からやろうか。今日の放課後からいい?」
「うん、当たり前だよ」
そこまで言ったところで内山くんは気がついたというように、あ、と声を出した。
「何?」
私が尋ねると内山くんはうーんと苦い顔をする。そして思い切ったように視線を動かした。
その視線を辿ると、そこには王子がいた。
と言っても、こっちを見ているわけでもないし、私たちの会話なんて聞いているわけもない。
「王子がどうかした?」
私の発言に内山くんははっきりと苦笑いした。
「一応、五十嵐に相談したら?」
「どうして?」
それに内山くんは困った顔をした。
「だって、五十嵐は……」
言われてあっと気がついた。
王子、実は成績も良かったんだ。
多分、内山くんよりも成績はいい。
頭の中で少しだけ考えてみる。
でも、王子はきっと私の勉強に付き合ってはくれないだろうと考える。
きっと放課後は部活があるだろうし、それに
王子が勉強を教えるって、なんだか……いや、多分スパルタな気がする。
ちょっと厳しい指導を想像して、私は頭をぶんぶんと振る。
絶対に鬼教師だと思う。
ない、ないよ。
王子と勉強するとか、ない。
それに、王子は私が誰と勉強しようが、気にしないだろう。
「全然平気だよ」
キッパリと言い終わると、むしろ内山くんが驚いた顔をする。
「え。本当に?」
ちょっと驚いた顔で私をみる。だから私も大きく頷いた。
「本当に。王子、人に教えるのとか、しないと思う」
「あ、いや、そういうことじゃなくて、一応付き合ってるんだから」
私は首を振った。
「王子、気にしないと思う」
内山くんはちょっと困惑した顔で、視線を王子の方へ向ける。
私もつられて王子を見るけれど、王子はいつも通り仲間たちに囲まれて楽しそうに話していた。
ここで私と内山くんが話していることなんて
きっと気がついていない。
私は笑って内山くんを見た。
「じゃあ、今日から、いい?」
内山くんは笑って頷いた。




