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護衛隊長が決闘

 シオンと祖父が話し込んでいる間に自分に割り当てられた部屋に戻る。


ここは別に武骨な造りになっているわけでもないのに、主の雰囲気のせいか屋敷全体が堅い感じがして気が休まらないな。シオンにこの事を言ってみても同意を得ることはなかったけど。


ハイネケンも護衛連中もたぶん同じ感想を持っていると思う。僕と違って屋敷の主にではなく、それに仕える執事でもあり彼らの師匠である人物が理由だろうが。


噂によると精鋭に育てるためにかなり厳しく訓練をしていると聞いたことがある。騎士たちの修行を付けながら執事業もこなすとはとんだハードワークだ。こなせるからこそ重用されているのだろう。




部屋に帰りながらも祖父と自分の関係について思案する。


祖父、というよりも父も母も含まれる話だがおそらく距離感を掴みかねているからこそのあの対応だと思う。


祖父は長い間強者であり教える側だった人だ。祖父が騎士団長であった頃は今の国王が戴冠したばかりの時期であり、若かった国王は重鎮である祖父に大いに頼ることになり、頭も上がらなかったのだろう。


国王が交代したのに合わせて国の重鎮たちも後継ぎたちに任せることになり、祖父の周りは教えられる側、助けられる側の人が多かったと聞く。


祖父の会話の切り口は相手へのアドバイスや騎士や貴族としての生き様、心構えに関することが多い。相手に合わせ、その人物の長所を伸ばし、立場や義務に相応しいだけの能力を付けさせることを目的とする話を良くする。


だからこそ教えを全く必要とせず、筋が合わない僕とは距離を測りかね、会話も続かないのだろう。僕も積極的に目上に話しかけていく性格でもないし、それが積み重なった結果があの雰囲気だ。


 僕は、そしておそらく祖父も今の距離間が気持ち良いとは思っていないが、どうにかしようにもどうすればいいか分からない。まあ、いつか何かが起こって転機が来るのを祈るぐらいだな。


部屋に入るとカレルが紅茶の準備を始めていて、ハイネケンは部屋の隅で待機……じゃなくてその様子をじっと見ていた。足音から僕を帰ってくるのを察知して準備を進めるカレルは流石だな、あの状態のハイネケンを無視できるという面を含めて。


彼らも食事をしていたはずだが流石にゆっくり丁寧に調理される貴族の食事よりは早く終えるか。


「おかえりなさいませ」


「メリル様聞いてくださいよ!」


顔を合わせるとハイネケンがすぐに不満顔で言い放った。主が「戦場」から帰ってきたのだからもっと気を遣えよ。


「はいはい、なんだよ。食事がまずかったとかか?それとも飲み物がビールだったのか?」


 勤務中の彼らにアルコール類を出すとは思えないが。


「食堂に案内されたかと思ったら師匠が笑顔で待っていたんですよ!しかも指定席と言わんばかりに隣に座らされるし、前にはシオン様の護衛隊長が座って事あるごとにこっちを睨むんですよ!あいつ、きっとカレルさん狙いで私が恋敵だからって!」


 絶対違う。しかもお前はカレルの眼中にない様子だし、恋敵に立候補するのもままなってない。


「前に座っていた事だし会話はしたのか?」


「え?まあ、多少はしましたけど。学生時代の話を少しと主の話を。」


「たしか同級生だっけ?で、彼の名前は思いだせたのか?」


「……彼ってドナタです?」


「とぼけんな、シオンの護衛隊長の話だ。同級生でしかもライバル視している相手からそんな態度だと普通は睨むわ」


「あまり接触を持っていませんでしたし、忘れますよ普通。ああ、そういえば明日決闘することになりましたよ」


本当に接触を持っていなかったのか?あの冷静沈着で静かに主の傍に侍っているタイプの彼と決闘することになるなんて相当な因縁がありそうなものだが。


「急だな、申し込まれたのか?」


「いえ、師匠がせっかく二人揃っているしいい機会だからと。安心してください、メリル様。必ずや勝利してご覧に入れますよ」


「お前が勝とうが負けようが構わないんだけど」


「ええっ!?弟の護衛隊長に自分の護衛隊長が負けたら嫌じゃないですか?」


「別に」


シオンの護衛隊長が僕の暗殺に来るわけでもないし、護衛隊長の戦闘能力がシオンに劣っていてもなんら思わない。


「じゃあせめて私を応援してくださいよ!美しい主従関係を築いてきたじゃないですか!」


「じゃあ僕が声を上げて「頑張ってハイネケン!」って応援していたらどう思う?」


「らしく無さ過ぎて「メリル様、頭でも打ったのかな?」って思いますよ」


こいつ。


「応援って何してほしいんだよ?」


「そりゃあ戦っている所を見ていてほしいですね。あと戦う前に一言応援のコメントと勝った時の景品をですね」


注文多いな。景品をねだるなんて少なくとも応援に来てもらう奴の態度では無い。


「そこまで言うなら明日はビールもって駆けつけてやるよ。勝った時の祝杯用、負けた時の慰め用だ」


「どっちにしてもビール飲む羽目になるだけじゃないですか!いつも通り!」


「いつも通り、いい言葉じゃないか。「いつも」があるだけ幸せな事なんだぞ」


「今そういう話をしていませんよね!」


「たしかお前の好物はウイスキーだっけ?」


「ええ、覚えていてくれたのですか。もしかしたら勝ったら……」


「ああ、勝ったらとびっきり高級なウイスキーにビール混ぜて出してやるよ」


「なにがどうあってもビール飲ませようとしてくるのですね……。もうビールって単語効くだけでノイローゼ起こしそうですよ」


「お前の部屋がちょっとしたビール博物館になるくらい贈った甲斐があったな」


「もし私が精神崩壊したらどうしてくれますか?」


「そうしたら僕の計画は成功という事だ。じつはお前の精神を一回ぶっ壊すことで真人間に更生させるというプロジェクトだったんだよ」


「そんな恐ろしい企みが!?メリル様、私の事そんなに嫌いですか?」


そんなことないよ、好きだよだなんて言ったら気恥ずかしさで死ねる自信があるので話はここで終わりだな。


「……まあ、冗談はさておき。決闘の方式は?」


生身だったら見に行かない。もし機甲による決闘だったら見に行くことにしよう。こいつの機甲ヴァイスリッターは結構カッコいい。あくまで機甲は、だ。本人は騎士として、男として、そして人として恥ずべき部分が多い。


「機甲による決闘ですよ。どちらかの顕現が解除されるまで戦うありきたりな奴です」


「じゃあ見に行ってやるよ。負けてもいいけど無様な真似は晒すなよ?」


「こと機甲戦において私に無様という二文字はありませんよ。カレルさんも私の雄姿を──」


「私は仕事がありますので」


精神を崩壊させる企みを聞いた時よりもハイネケンは落ち込んだ。




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