急な呼び出し
街に帰り、アスタとデミグに別れを告げてから宿に帰るといるのがまるで当然かの様に笑顔仮面メイドが出迎えてくれた。
いつもながらに思うのだがその作り笑いはもっと自然な感じに出来ないのだろうか、機械的な感じがして普通に不気味だ。
100歩譲って良い反応をするのならば出来の良い人形のようだと褒められるのだろうが、理由なく笑っているちぐはぐさというかなんか狂人的だと感じさせる。
実は私異世界の人型アンドロイドだったんですとか言われても信じてしまいそうだ。……たぶん違うけれども。
もしかして社交界にこんなカレルを連れて行ったことが自分の評判があんなものになったのを助長させたのかもしれない。後ろでこんな笑みを浮かばせるメイドを連れまわしたのならば納得のいきそうな反応だ。
「おかえりなさいませ、メリル様」
「ただいま、カレル。何か問題はなかったか?」
「一つご連絡が。レイラ様からメリル様がどこにいるのかという連絡が来ました」
「おや、珍しいこともあるものだね」
母はいつもならどこに遊びに行こうがいちいち気にしてこないのに。
シオンの方は厳しく管理しているらしいが、こっちは余程危険な所に行かない限りは何も言われない。自由に出回りたい僕としてはありがたい限りではある。
「なんか用事でもあるのかな」
「ええ、先代様から」
「……そうか」
そのやり取りだけでこの後のスケジュールが塗りつぶされたことを僕は察した。
カレルが言う先代とは祖父の事だ。
今代のシュティーア家当主がバデルダ・シュティーアだとすると、先代はライドゥス・シュティーアという祖父の事だ。
やはりシュティーア家の当主らしく武功を積み重ねてこの国を率いてきた傑物で、社交界や騎士としても今は第一線を引いている人物だが、いまだにその名前は轟いている。
あまり冒険活動に興味が無かったなのか、申し訳程度でやっていた冒険者としての名声はそれほど高くないが、騎士としての積み重ねた実績が巨大で信者の様な人物も国内には未だにいる。
冒険者を体験させるというシュティーア家の特異な教えはそれほど受けずに、騎士の道だけを究めようとした人物だ。
冒険者の自由というか無秩序さが気に入らなかったのか、確かに祖父は遊び心の無いきっちりとした人物だ。
十年前に妻に先立だたれてからも、その身に宿る気迫は衰えることなく未だに気に入った騎士を自らの手で育てるという余生を過ごしている。
ハイネケンや僕とシオンの護衛連中の面々も祖父に鍛えられたと聞いたはずだ。
たしか祖父が出す試練をクリアする実力が無ければ血族の護衛につくのは許さないと当時祖父が声を上げたとハイネケンから聞いたような気がする。
あのハイネケンの一体どこを気に入ったのか一度聞いてみたいのだが、チャンスが無くて中々聞けなかったが、今回の呼び出しを機に聞いてみるのもいいかもしれない。
ただ、僕としてはあまり好きな人物……というよりは祖父の家に呼ばれるという催し自体好きじゃない。
理由は簡単、退屈だからである。今回も無駄に時間を潰す羽目になりそうだなと心の中でため息をついた。
僕のそんな憂鬱な気分を読み取ったからか、カレルが「提案」をしてくる。
「メリル様、断っておきましょうか?」
「やめおこう、どうせ断ろうとしても母か父がどうにか行かせようと出張ってくる」
「では、準備いたします。……一度家に戻られますか?それとも直接先代様の所に?」
「直接行くよ。どうせ大した準備は要らないんだ」
「ではそのように」
「僕はアスタに挨拶してくるよ」
「はい」
今晩直行して祖父の所に一晩泊まることになるのか。明日一日はそのままそこにいることになりそうだが、もう一泊する羽目になるのは嫌だし、夜になる前に帰ってしまおう。
宿から再び出てアスタを探すことにする。冒険者ギルドか、孤児院のどちらにいるのだろうか。
街の外で見回りしているとなると流石に探すのは手間だから手紙を残すことになりそうだ。まあ、帰ってきたばかりですぐに見回りには行かないか。
流石のアスタにとっても「パトロール」は何をおいても毎日やるべきことでは無いだろうし。
やはり別れの挨拶というのは面と向かってしたいものである。
デミグを送り届けたついでに孤児たちと遊んでいることも考えられるし、そっちに行くか。
「お、アスタ」
孤児院の方に向かうと、ちょうど帰る所だったのか孤児院から出てきて子供たちへ大げさに手を振っているアスタに出会った。
「おお、メリル。散歩か?それとも夕飯の買い出しか?」
「なんで貴族本人が買い出しに出るんだよ。そう言う事は他人にやらせるのが貴族だろ」
「ちょっとしたジョークさ。それに自分の足でうまいもの探すのも楽しいぞ」
「そうかい、じゃあ機会があったらやってみるさ」
たしか釣りに行ってその場焼いて食べるというのも中々面白かったな。暇があれば似たような事をやってみるのも楽しいかもしれない。
「それで、俺を探していたのか?」
「ああ、急用ができたから街から去ろうと思ってね」
「本当に急だ。……今回は短かったな、いつもならもっと滞在しているのに」
「祖父に呼び出されてね」
「おじいちゃんの家か。楽しそう……には見えないな」
渋面をつくったら察してくれたようだ。
「そうだね、少なくとも楽しいイベントでは無いな」
「お前がそんな顔するなんて、どんなおじいちゃんなんだ?怖いとかか?」
「弟贔屓」
「そりゃあ楽しくないだろうな」
「じゃあデミグにもよろしく言っといてくれ」
「こんな目と鼻の先に孤児院があるのに?恥ずかしいならついていくぞ」
「今さっきあんなに手を振ったのにもう戻ってきたら子供たちは笑ってくれるだろうな」
「じゃあ俺はパスだ」
「僕もだ。アスタもいないのに子供たちの中に放り込まれるのは嫌だよ」
また遠目に見られながら避けられる気がする。まだ物怖じしない方のラスもいない事だしな。
「じゃあそう言う事だから。もう行くよ」
「ほんとに気が早いな、飯ぐらい食っていかないか?」
「まだそんな時間じゃないだろ。飯はまた今度だ」
こんな時間に食事したら祖父の家で出されるであろう食事に手を付けられなくなる。
「そうだな、待っているぜ。また来るんだろ?」
「ああ、当然さ」
「じゃあいつまでも待っているぞ」
「そんなに間を置かずにまた来るさ」
「ああ、楽しみにしているぜ」
「……なんかこの会話恥ずかしくなってきたんだけど」
「なんでだ?」
「そういうのは恋人とか婚約者とかに言えよ、今生の別れでも無いんだから男同士では「じゃあな」でいいだろ」
「恋人とか婚約者とか……そういう相手はいねぇよ」
「王都にでも行って募集すれば?Aランク冒険者なんて引く手数多だろうに」
「……ちょっと真剣に考えてみるか」
「なんなら紹介してあげようか?貴族のコネとかでさ」
「いや、そういう相手は自力で見つけるのが家訓……いや、なんでもねぇ。とりあえず他人には頼らないようにしたいんだ」
「……そうかい?」
なんか変だな。「家訓」って言ったあたりから言い淀んでいる感じがする。
「俺の事なんかよりもお前はどうなんだ?」
「よし、この話題はやめよう。誰も幸せにならない」
「逃げたな。切り替えるのが早くないか」
「逃げるのも戦術戦略さ」
「なんか長くなったけど…じゃあな」
「ああ、また遊びに来いよ」
言いたいことは言ったと振り返り、来た道を歩いていくと──横に並んで歩いているアスタと目が合った。
「……あの」
「……俺も帰り道こっちなんだ」
「……そうか」
なんか気まずさを感じながら二人で帰路についた。




